2022年のCDPを振り返る
今年もCDP回答の時期が迫ってきました。
プライム上場企業でCDPに回答していないと、自社の目先の利益ばかり求めて環境のことなど一顧だにしない極悪人、外部不経済の権化、長期的な視野を持たない愚か者というイメージを持たれてしまいますが、果たしてそうなのか・・・。2022年のCDP気候変動の回答結果を振り返りながら、実際のところを概観していきます。
そもそも、CDPって何?
企業や自治体などの環境への取り組みを開示するためのプラットフォームを提供しているイギリス発のNGOです。企業や自治体によって開示情報の形式や種類、粒度がバラバラだと情報の利用者にとっては比較が困難で使いにくい限りです。それらの情報を比較可能で使いやすいものにするため、CDPが作成した質問状に回答してもらうという形をとっています。質問状は気候変動、森林、水セキュリティの3種類があります。回答結果にはA(リーダーシップを発揮している)、B(課題への取り組みをマネジメントできている)、C(課題や取り組みを認識できている)、D(情報開示に取り組み始めたところ)のスコアリングがされます。それぞれのスコアは2段階に別れていて(例えばAとA-というように)、全部で8段階のスコアリングとなります。未回答の場合のスコアはFとなります。
2021年までは時価総額上位500社を主な対象に気候変動の質問状が送付されていましたが、2022年からプライム上場の1800社超全てに質問状が送られるようになり、見栄と惰性でプライム上場を選んだ企業の間で軽いパニックが起きました。
CDP気候変動2022にはどれだけの企業が回答したの?
CDP Japanが、4月27日に気候変動のレポートの完全版を出しています。この中に、日本の回答者のスコアリングの一覧があります。これによると、質問状が送付され、回答要請がされた対象は1914の企業・団体です。この中には東京大学や北海道大学などの学校法人やREITなどの投資法人も含まれていますので、プライム上場企業数よりかなり多くなってます。ちなみに、北海道大学はB評価、東京大学は未回答のFでした。
回答してない企業の割合は?
CDPの開示や報道などでは、最高評価のAを取得した企業数が75社で世界最多だったという話が目につきますが、そんな優等生の自慢話よりもどれくらいの企業が回答していないかの方が気になるのが人情です。夏休みの宿題を提出していないのが自分一人だけじゃないと心強いですよね。ただ、探してもあまり出てこない情報なので、前述のレポートから集計しました。
気候変動2022で、未回答のF評価となっているのが767社、回答期限を過ぎてから回答した場合につけられるNot Scoredとなっているが141社ありました。さらに、スコア非公開としている企業が90社、親会社に回答してもらった企業が47社あります。スコア非公開の企業は回答しているかもしれませんが、仮にこれらの企業も回答していなかたっとすると、回答要請された企業・団体の半数以上が気候変動2022に回答しなかったというのが実態のようです。
昨年はプライム上場企業全社に質問状が送られた最初の年でしたので、対応できなかった企業も多かったでしょう。
ちなみに、業種別に非回答の割合を集計すると以下のようになります。
ここで、非回答として集計しているのはF、Not Scored、Private、SA(親会社回答)です。ホスピタリティ、サービス、小売で特に多く、製造や輸送サービス、発電など、従来から気候変動の影響が大きいと指摘されている業種では非回答率が低くなっています。ホスピタリティ、サービス、小売で非回答率が高い要因としては、
①これらの業種の温室効果ガス排出量が相対的に少なく、気候変動への取り組みについての危機感が低い
②比較的小規模や給料の低い会社が多く、気候変動問題へ対応する人員の確保ができない
などといった要因が考えられるかと思います。
どれくらいのランクを取りたいか、そのためには何が必要か
回答企業のスコアの割合を見ると以下のようになります。
累計を見てもらうと、回答している企業のうち、B-までに半数強、C-までに8割強が入っています。やはり回答をするからにはCは目指したいところではないでしょうか。
A〜C-までのスコアを獲得している企業数を業種別に見ると以下のようになります。
やはりここでも、サービス、ホスピタリティはA〜C-を獲得できている割合が低い(D以下のスコアになっている割合が高い)傾向が見られます。
CDPでは、MSCIやFTSEなどの外部評価と異なり採点基準が非常に詳細に開示されています(例えばこちら→スコアリング基準とウェイト)。気候変動に取り組むためにどのような対応が企業に求められているか、採点基準を見るとよくわかります。CDPのスコアリングは、それぞれの回答を同じ採点基準で見るものではなく、まずはスコアDの採点基準で採点を行い、一定の水準をクリアしたらスコアCの採点基準で採点、クリアしたらスコアBの採点基準、といった様に、企業のレベルによって採点基準が変わります。また、質問の総数も企業の回答内容によって変動します。スコアC以上を目指す(スコアDをクリアする)ためには、スコアDの採点基準の中で配点の高い温室効果ガスの排出量の算定や削減目標の設定がなされている必要があります。
なんのために取り組むのか
CDPに回答しない企業の言い分として、「自社の事業は気候変動から受ける影響は少ない」とか「気候変動に向けた取り組みを進めてから回答したい」といった話を聞くことがあります。気持ちはわかりますが、自社の事業が受ける影響は少ないといった他人事感覚が前述の業種別の非回答率にも出てきているように感じます。自社の事業への影響は(当面は)小さくとも、例えば企業としての購買活動において、より環境負荷の小さいサプライヤーから商品・サービスを購入するなど、できることは沢山あります。CDPへの回答は、気候変動に取り組む社会の一員として何かできることがないか考えるきっかけになりえます。
「気候変動に向けた取り組みを進めてから回答したい」という意見の背景には、今のところ何も取り組んでいない、バレたくないという気持ちがあるように思います。心配しなくて大丈夫です!回答してない時点で何もしてないだろうな〜というのはバレてます!体重計に乗らなくても、太ってるかどうかは他人から見れば分かります。健康な体を取り戻すためにも、まずは体重計に乗って現実を直視しましょう。
CDPの質問状は、気候変動の課題に企業として取り組むために何が必要か、KPIとしてどのようなものが有効か、非常に網羅的に含んでいます。CDPへの回答を通して、自社の取り組みの改善点を見出して、来年に向けてその課題をクリアしていく、結果としてスコアリングが上昇する。こういう正のスパイラルが生まれると素晴らしいと思います。
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