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詩「黒焦げのリオウ」👁️10

20240906

リオウはジュンに別れを告げた後
迎えの車を待っていた
勢いで飛び出したのは良いが 時間がかかるのはわかっていた
なので レストランの近くにある古びたホテルに泊まった

何もせずに次の一日を過ごした 腹が減ったらレストランに行った
やきもきしながら 迎えの車を待つしかなかった
彼とジュンは今頃バラクサにいるだろう
(一言でも謝っとけば良かったかもな)と 少し後悔していた

二日目 目覚めるとテレビをつけた
ニュースを見たがエミリのことは流れていなかった
「やっぱり あの街のことなんて誰も興味ねえよな」
独り言を漂わせると ノックの音が聞こえた

「あ? なんだ?」少し警戒しつつドアに向かった
「ルームサービスです」男の声が聞こえた
「悪いな兄ちゃん 何も頼んで……」
ドアを開けると そこにはケントと信者たちが立っていた

「……そうかよ しかし早いなぁ」リオウはポリポリと頬を掻いた
「失礼 僕はケントと言います あなたはリオウですね?」
「ああ そうだが? 何か用か?
 あいにく俺は神を信じてねえんだ 失せろ」

「言葉遊びをする暇がありません 着いてきて下さい」
「嫌だね 無理矢理連れてきゃ良いだろ」
「仕方ない 埃っぽい部屋で話しましょう
 下がってなさい 私一人で入ります」ケントは信者に伝えた

「で? 兄ちゃん 話したいことがあるんだろ?」
「そうですね 困ったことに
 あなたみたいな連中とは話したくなかったのですが
 信者が次々に殺されてまして やめていただけますか?」

リオウは笑った「知らねえよ 俺は何もしてない」
「そうですね あなたは無能なのでクロウと行動していた
 それがどういうわけか こんなとこに居る
 何かあったのですか? 仲違いとか?」

リオウの目が鋭く光った「勘違いすんなよ?」
「なら 何故ここに一人で居るのですか?」
「……喧嘩したからだよ」リオウは笑った
「もう良いです それであなたには駒になってもらおうと思いまして…」

パチンと音がした
「そうですね こうしましょう
 あなたはクロウを追ってスパイとなりなさい
 何かあれば逐一連絡して下さい」

リオウは真っ直ぐケントを見つめていた
「どうした? 蚊でも居たのか?
 それとも魔法で鳩でも飛ばすか?」
リオウはきょとんとしていた

「なっ……」ケントが何か言おうとする前に
リオウの拳はケントの右頬にめり込んでいた
そのまま美しい顔が醜く歪み
ケントは吹っ飛んでテレビを壊してしまった

「あーあ こりゃ弁償しなきゃ
 請求書の送り先は“黒龍教さま”だったか?」
「くっ……なんだ? どういう事だ?
 おい!入って来てくれ!」

信者たちがドアを開けて部屋へと入って来たが
今度はピストルで撃ちまくった
次々と倒れてゆき 五人の死体が折り重なった
他の五人は後退りして 逃げて行った

「ああ 可哀想に みんな帰っちまったな」
リオウは倒れ込むケントに近づくと憐れそうに見つめた
「兄ちゃん 人望ねえんだな 同情するぜ
 まあ 俺も人のことは言えねえけどな」

「だ 黙れ! どういうことだ?
 催眠が効かない! こんなこと!」
「ああ なるほど 催眠の合図だったんだな
 指パッチン 綺麗な音だったぜ でもあいにくだったな

 俺は神も信じねえが そういった小細工は効かねえ
 特殊な能力でよ 自分でも良くわからねえんだが
 ボスに鍛えてもらったからかな? いや 違うか
 きっと火傷のせいだ あの時に力を得た」

リオウは布を外し 上着と中に着ていたシャツも脱いだ
火傷の痕は何かの紋様に見えたが ケントにはその意味がわからなかった
「今度は俺がやってやるよ 得意なんだ
 最近機嫌が悪くてよ 誰でも良いから殺してやりてえんだ」

ケントは恐怖で固まっていた
「なんか言えよ 兄ちゃん」リオウはつまらなそうに言った
「そんな 馬鹿な! エミリの時は……」
リオウは勢い良くケントの口を押さえた

「待てよ 今なんて言った?」顎が割れそうに痛んだ
「え えむりゅのろりら」ケントは泣き出しそうだった
「お前まさか エミリを知っている いや
 殺したのか? どうなんだよ?」リオウはさらに力を込めた

そして離すと 今度は金髪を引っ張り上げた
顔面を床に叩きつけ ケントの鼻は潰れた
「ま まで はなしを ぎけ」ケントは絞り出した
「わかったわかった 仕方ねえな」リオウはケントを離した

止まらない鼻血をポタポタと垂らしながらケントは言った
「エ エミリさんは 僕が 殺した」
「やっぱりそうか で?」リオウは続けさせた
「で? いや それ だけです」ケントは言った

「おい てめえ 俺の顔を見ろ!!
 見ろよ なぁ! おい
 クソ野郎 自分から顔出しやがって
 殺してやる 八つ裂きだ 俺の顔を見ろ」

突然大きく叫ぶと リオウの顔の火傷が形を変えた
ケントは心底怯えながらそれを眺めていた
「エミリを殺し 川に捨てるように言ったのは僕です!」
ケントは何もかも正直に話した方が良いと思った

「と なるはずでしたね リオウさん」
リオウは催眠をかけられてベッドに寝ていた
「都合が良すぎやしませんか?
 あなたの頭の中はお花畑が広がっているのですか?」

リオウはケントを睨んでいた
紋様のような火傷には特殊な能力があったが
ケントの催眠を解くような能力はなかった
頭の中を見られて 胸糞悪くなった

「僕がエミリさんを殺しました 最後にキスをしてね
 彼女は言ってましたよ あなたを愛してるって
 残念ですね 彼女を好いていたのに
 裏切られて可哀想な人だ」ケントは笑っていた

指を鳴らされて以降 リオウはピクリとも動けなくなった
怒りが燃えたぎるのに何も出来ない状況だった
ベッドに寝かされ 聞きたくもないエミリの最期を聞かされ続けた
それからケントは リオウの心と頭の中を弄り回した

「やはりクロウを追ってもらうのはやめましょう
 どうせバラクサには大した情報はない
 あなたにはクロウの最後の障壁となってもらいます
 友人同士殺し合うのです どうですか?」

黙れ! クソ野郎! ぶっ殺してやる!
叫んだつもりでも声にはならなかった
そして 次第にリオウの自我は失われていった
ホテルの一室で 洗脳されてしまった

それでも リオウの火傷は形を変え続けていた
ケントはそれが不気味で仕方なかった
信者たちはリオウの身体を持ち上げて車の前へ運び
乱暴に投げ入れると バラクサとは反対の方向に向かった

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