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詩「彼のとりとめもない作業」

20240817

他者との関係に過敏になり過ぎる夜
彼は雨音の一つ一つに耳を傾けてみる
鳴き声にも聞こえるそれらは
彼に追い打ちをかけたがっているようだ

さらに集中して降り注ぐ音と
地面や屋根に当たって跳ね返った後の
幾重にも重なった糸のような音と
風に吹かれて方向が変わる音に分ける

「ちゃんと前を向いているか?」「後ろも?」
「端から数えていくのか?」「いつも?」
「待っているのか?」「待たせてしまっているか?」
「何処にいるかも分からないのか?」「そうか?」

問いとも答えともつかない音が声になり
声は次第に身体の隅々に染みてくる
色を変えながら彼は冷蔵庫の横に座る
今日もイビキのような音を出している

「誰が嫌いなんだ?」「何処が悪かった?」
「自分の気に入らない所は?」「好きな食べ物は?」
「嘘をついてきたか?」「通用したか?」
「今水を飲みたいのか?」「雨は降っているのか?」

もっと深くまで入り込まなくても
たまに車の通過する音が聞こえる
そろそろ電車の通る音も聞こえる
蝉や鳥が鳴き出して 溢れるだろう

コップに水を入れる 彼の心の中にも
波紋が人の形に変わる 美しくはない
その水を飲み干して もう一度眠ろうとする
首の根本が悲鳴をあげる 何よりも高く

轟音がかき消す 雨が強くなる
気分は次第に死んでゆく 心が痩せ細ってゆく
彼は痛みを感じる 喉が渇く
許容量を超えても水を胃の中に流し込む

そして吐き出す 何もかも
行為を打ち消すかのように
それからスッキリとした顔で
換気扇を回して煙草を吸う

灰がこぼれて 服が汚れる
パチッ 葉が燃える 心の先端が燃える
雨の音が聞こえる それ以外が消える
物があることを感じる 世界があることを感じる

故郷を思い出す それほど遠くはないが
部品が足りずに帰れないでいる場所がある
他者との関係が良好に変わる時
おそらくロケットは完成するだろう

タンッ タンッ タンッ タンッ
疲れた網膜を軽く叩くような音を聞きながら
彼は奥歯に入り込んだ虫を殺す
音が止まる 輪郭がぼやける 深く 深くため息をつく

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