詩「コーティング」
20250117
重ね着のコートで守りを固めた
愉快な音楽をイヤホンから流した
寒さが顔だけに集中した
何重にもなった布は道ゆく人に引っかかった
倒れてゆく人々を数えた
彼は歩くことをやめなかった
人々は彼を恨めしそうに睨んだ
彼は音楽に身を任せた
夜が深まるとブラックコーヒーを飲んだ
煙草に火をつけると空中にぽっかりと穴が空いた
灰まみれの穴の中を覗き込んだ
もう冷たさを感じない顔が緩んだ
そこには昔捨てたゴミが落ちていた
あらゆる写真とあらゆる手紙だ
彼は記憶の差し込み口にそれを入れた
映し出されるのは彼が見ていた光景だった
その間にも人は倒れた
彼が膨れ上がってゆくのを止められなかった
コートは「現在」から彼を守り続けた
彼も音楽も止まることを忘れてしまった