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詩「味付きの弾丸」

20240522

味付きの弾丸を受けて口内が喜ぶ
彼はいつもそうやって 何発も弾丸を喰っている
甘ったるいものの後にはほろ苦いものを
種類は様々で バランスを取って暮らしている

味付きの弾丸を買いに行く店はいつも同じだ
店主は美しい女性だが名前は知らない
彼は彼女と話すために弾丸を買うのかも知れない
今日も新しい味がないか尋ねに行く

「よお 今日も相変わらず凄い服を着ているな」
皮膚が隠れている箇所を探す方が難しい
「そう? あんたもあんたで凄いね」
彼はいつも浮浪者の格好をしている(下ろし立てだが)

「新しい味は?」「ちょうど良いとこに来たね」
彼女は奥から弾丸の箱を取り出した
「それは?」「食べるたびに味が変わる弾丸」
彼は驚いて彼女と目を見合わせた

彼は質問を思い浮かべようとしたが
彼女の瞳の美しさに見惚れてしまった
深い青の中に銀河系があり 煌めいている
薄暗い店内の光を 彼女が一手に引き受けているようだ

「どうしたの?」彼女はくすくすと笑っている
彼は立ち尽くしながら彼女を真っ直ぐに見ている
「ねえ?大丈夫?」彼女の微笑みが消える
彼は言葉を必死に探したが なかなか見つからない

「それを……」「ん?」
彼は右手を前に差し出した
「二つくれ」「はいよ」
金を払って店を出て歩き出す

ふと立ち止まり 彼は振り返って店に行く
「え?おつりはないはずだよ?」彼女が聞く
「いや そうじゃない」「じゃあまだ何か必要?」
「結婚してくれ」「は?」今度は彼女が呆然としている

彼女は大笑いして「ありえない」と断る
しかし 三ヶ月後に彼女は彼の恋人になる
そして 一年後にめでたく結婚する
彼は自分の望みを果たすことになり 幸福を感じる

そんな未来を壊す弾丸が 彼の後頭葉から前頭葉を駆け抜ける
味の変わる弾丸が気に入らなかった客が入ってくる
「食いてえ味が出てこねえじゃねえか!」
彼女は数十発撃ち込まれ 最後には客も脳天を撃ち抜いて死ぬ

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