詩📓「ラベンダー」

20240720

ぶつかって　痛かった　肩に　青痣が　出来ていた　ぶつかって　痛くなかった　もう片方の　肩には　赤いペンで　小さく　丸を　つけておいた　犬用の　トレイに　ベチャッと　おじやを　乗っけて　スプーンや　お箸を　節約して　食べた　火傷しそうな　舌が　喜んで　青痣まで　ムズムズ　気持ち良くて　赤いペンの　丸は　そこだけ　キリで　穴を　開けられるような　痛みが走って　気持ち悪かった　風呂に　入ると　青痣も　赤い丸も　お湯に　溶けて　混ざり合って　紫になって　ラベンダーの　香りを　出した　ちょうど　嗅ぎたかった　においと　同じだったので　飲み干すと　洗面台で　吐いた　湯冷めして　風邪を　引きそうだったので　今度は　黒い　マーカーで　両肩に　丸を　書いた　すると　身体は　ポカポカ　暖まり　薄い　掛け布団の中　スヤスヤと　眠った　朝　起きると　全身に　青痣が　出来ていた　両肩の　黒い丸が　巨大な　化け物の　黒目だと　勘違いした　天井さんが　退治しようと　押し潰して　きたらしい　なんとも　迷惑　なんとも　お節介　だけど　天井さんは　嫌いには　なれない　初めて　仲良く　一緒に　暮らせている　化け物だから　仕方なく　氷を　風呂場に　敷き詰めて　その上で　マグロの　気分を　味わった　青痣は　黒ずんで　サンマの　苦いところみたいに　なった　全身　苦いところ　なので　誰からも　見つかりにくいし　避けられるだろう　過ごしやすいかも　知れない　においだけは　ラベンダーなので　とっても　好かれるかも　知れない　この状態の　人間を　トイレに　一つ　転がしておくのも　悪くない　と思って　家電量販店に　売り込みに　行くと　意外にも　流行ってしまい　うちでは　今日も　一日　百人以上の　男どもが並び　天井さんに　押し潰されて　風呂場で　冷やされて　出荷されている　お金が　たんまり　稼げたので　お礼に　天井さんに　プレゼントを　買ってゆく　新品の　畳さん　天井さんは　畳さんに　一目惚れしたようで　毎晩　熱い　言葉を　投げかけている　そして　俺は　今日も　誰かの　家の　トイレに　行って　朝から　晩まで　転がって　時間になったら　少し　居心地が　悪くなりながら　それでも　楽しみながら　天井さんと　床さんの　話を　聞きつつ　テレビを　付けて　番組を　見たり　する　なんて　幸せ　なんだろう　あの時　ぶつかって来た　人に　会ったら　握手と　ほんの少し　気持ち程度の　お金を　渡して　「ありがとう」と　言いたい　けれど　あの人は　何故　あの時　あんなにも　思い詰めた　顔をして　前も　向いて　いなかったんだろう　と　考え始めて　思い出したのは　殺人事件　一つの死体　見つからないまま　腐り果てて　天井さんと　床さんだけに　見つめられて　異臭騒ぎで　ラベンダーの　においの　スプレーが　あちこちに　ばら撒かれ　あれ？　何処から　何処までが　現実だったのだろう　青痣を　作ったのは　多分　本当だ　赤いペンで　丸を　付けたのも　黒いマーカーも　本当だ　そうか　俺は　まだ　夢の中なんだ　というよりも　死後の　世界で　幻覚を　見ているんだ　殺人事件　一つの死体　天井さん　床さん　いつもありがとう　化け物なんて　呼んで　ごめんね　隣の　住人の方が　よっぽど　化け物　だね　なんで　誰も　見つけて　くれないんだろう？　と　窓さんに　聞いてみる　窓さんは　初めて　口を開いて　「あの　ラベンダーの　においの　スプレーで　人が　狂って　殺しあってるんだ」と　教えてくれた　なんだ　そうか　なら　変わりなく　みんな　元気で　やっているのか　それなら　俺は　幸せだ　ラベンダーの　香りで　色々な　トイレで　転がる　幻覚の　おかげで　億万長者になって　持っているもの　全て　少し　質が　良くなって　毎日の　食事も　あれ？　何も　見えなくなってきた　天井さん？　床さん？　ディープキスでも　するのかな？　何故　互いに　近づいているの？　あれ？　おかしいな　痛み　なんかからは　解き放たれた　はずなのに　痛い！　痛い！　痛えよ！　クソッタレ！　ふざけんな！　てめえら！　こっちが　優しくしてりゃ！　良い気に　なりやがって！　ブリュ　ブチュ　グシュ　グジュ　あ！　が！　だ　誰か　たすけて　バチン！　ドスン！　ガコン！　・・・・・・　久々に　外の　空気を　吸えた　やっぱり　死んでいたら　別に　部屋に　閉じ籠る　必要も　無かったし　痛い　気がしていて　痛く　無かったし　死んだ後は　生きていた頃の　痛みを　錯覚してしまう　あの現象か　あれ？　なんて現象だっけ？　そんなものには　名前がないかもな　だって　死人は　こんなことを　教えられない　本当だ　ラベンダー色の　人間たちが　喰い合っている　面白い！　最高じゃないか！　良い　においだし　金が無くても　楽しく　過激に　幸せになれる　世界だ！　羨ましいなあ　仲間に　入れて欲しいなあ　天井さん　床さん　崩れてくれて　ありがとう　ボロアパートは　もう　瓦礫の　山になって　なんだか　ミニチュアみたいに　見えるよ　そして　人間も　フィギュアみたいに　見えるよ　天井さん　床さん　最後に　誓いの　キスが　出来て　良かったね　俺は　トイレを　探すよ　いや　そこら中　良い匂いしか　しないから　必要ないか　トイレを　使う人だって　いないか　俺は　どうしようか　そう考えて　天井さんと　床さんと　ついでに　窓さんの　上に　座って　ただただ　ずっと　面白そうな　ことを　考えて　都合の良い　日には　幻覚を　出現させて　その中で　あらゆる　人生を　体験して　なんて　充実した　死後だろう　こんなに　良いものなら　もっと　早く　死んでおけば　良かった　・・・・・・　「だそうだ　何か　言いたいことは？　何もない？　おかしいな　これは　お前が　言っていたことだぞ　肩が　ぶつかったからって　隣の住人　刺し殺しておいて　病気のフリをしても　俺にはわかるんだからな　何がラベンダーだ　何がゾンビの大群だ　何が　天井と　床の　化け物だ　吐くなら　もっとマシな　嘘を　吐け」　・・・・・・　知らない　知らない　何にも知らない　誰だろう　今のは　髭もじゃの　おじさんだ　気持ち悪い　汚い　肌の　毛穴が　くっきりと　目に入って　こびりつきそうだ　ラベンダーの　においがする　そうか　もう眠る　時間だよね　トイレの中で　転がるように　まだ　天井さんと　床さんが　生きていた頃の　ように　寝よう　一緒に　誰だか　知らない　紫の　狂人さんたち　涎が　垂れているよ　おかしいね　鱈腹　食べれたかい？　今日も　いっぱい　人を　殺せたかい　嬉しいね　うん　おやすみなさい