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詩「道化師のゲンゾウ」👁️6

20240904

「それで? うちの可愛い部下に何の用だ?」
気の強そうな女は椅子に縛り付けられながらも気丈に言った
「エミリさん わかっているでしょう
 あの罪多き子供の居場所を言いなさい」

エミリに話しかけているのはジュンに殺されかけた教団の幹部の一人
名前はゲンゾウ 薄気味悪い笑みを浮かべた老人だ
「そんな子供はうちには居ない まあ リオウのバカが一緒らしいけれど
 でもお前らに教える気はない 何をされてもね」

「そうか」ゲンゾウはエミリの腹の傷に右足を乗せて体重をかけた
エミリは唸るが それでも笑いながら真っ直ぐにゲンゾウを見た
「こんな痛みはいくらでもどうぞ それでも私は何も言わない」
「穢らわしい女め いつまで笑っていられるかな?」

エミリはそれから数時間拷問にかけられた
何度も気絶したが ゲンゾウの後ろに立っていた信者が水をかけて起こした
最初から何も話す気がないエミリはずっと笑っていた
ゲンゾウは恐怖を覚え 一層のこと殺してしまおうとした

「そこまでだ クズ野郎」声がすると銃声が一発聞こえた
「ボス! なんてことだ!」エミリには聞き慣れた声がした
彼が部屋に入るとゲンゾウを含めて四人 そして一人の死体があった
信者の二人を撃つと逃げようとしたゲンゾウをジュンが取り押さえた

ジュンは身体に似合わない力でゲンゾウの身体を押さえ付けた
今にも潰れそうな痛みが背中に走った
ジュンの目は獲物を狩るドラゴンと同じ色をしていた
恐怖と怒りが湧き上がってきたゲンゾウはジュンを見た

「き 貴様は 貴様が 貴様のせいで!!」ゲンゾウは狂ったように叫んだ
「遅かったわね クロウ」エミリが力無く言った
「ボス!今外しますからね! それにしても 何でこんなことに
 すみません 俺のせいで こんな クソッ」リオウはエミリに駆け寄った

拘束を解かれたエミリは慌てるリオウに拳骨を喰らわせた
「少し黙りなさい あんた
 今私は クロウと 喋ってんの」エミリは笑った
そしてリオウを抱きしめると「ありがとう」と言った

彼はゲンゾウを椅子に縛り付けた
「それにしても 信者の数が少ねえな もっといただろ?」
「その化け物に殺された!私はそいつを連れ戻すよう教団に言われた!」
「呆れた ペラペラ喋るのね」エミリはよろよろと立ち上がりゲンゾウを見た

「腹の傷は大丈夫なのか?」血が滲んだシャツを見て彼は言った
「ええ 中身が出るほどではないから 痛いけど」エミリは笑った
「お前らはもう終わりだ 教団に牙を向けてタダで済むと……」
エミリはゲンゾウの肩を撃った

そのまま 呻くゲンゾウの肩に足を乗せて体重を乗せた
「調子に乗るなよジジイ うちに牙を向けたことを忘れるな」
ゲンゾウは痛みに涙を流しながら言った
「街外れのチンピラ如きが」エミリは力を強めた

街からそう遠くない廃墟の中でゲンゾウの声が響いた
海で連絡を受けた三人は車を走らせ 廃墟へと向かった
一人でいる時に攫われた自分の責任だからと
エミリは部下たちに知らせないようリオウに言った

「おっさん 気の毒だがもうあんたは終わりだ
 ボスをキレさせちまったら生きては帰れねえ
 ただ 楽に死なせて欲しいなら喋ったほうが良いぜ?
 痛みを感じながら少しずつ殺していく方法なんていくらでもある」

ゲンゾウは何もかも諦めたように四人を見た
「はっ はは 楽に死なせるなんて とんでもなくおめでたい奴らだ
 良いだろう 答えてやる なんでもな
 だが 言っておくが 私だって信者を殺されてるんだ」

「だからなんだってんだ? まずジュンを攫ったのはあんたらだろ
 そのジュンにやり返されたくらいで被害者ぶるな
 まあ良い それじゃあ教団の規模 目的 教団本部の場所だな
 答えろ」彼は煙草に火をつけながら聞いた

ゲンゾウは彼を睨みつけながら言った
「街にも無数に信者がいる まさか戻ってくるとはな 助けには来ないが 
 お前らも逃げられるわけじゃない 他の街に行ったところで同じだ
 これから会う全ての連中が 信者であると疑うことだな」

エミリは肩の傷に指を突っ込んだ
「ジジイ しっかり答えろよ」怯えるゲンゾウの目を覗き込だ
「わかっ わかった 指をどけてくれ 頼む」
エミリは指を抜いてシャツで拭いた

「規模は……実際のところわからん
 私は幹部だが全ての信者を把握しているわけではない
 だがドラゴンを狩る目的の部隊は千人以上いる
 それが各地に潜んでいて 野生のドラゴンを殺している」

「続けて」エミリが言った
「お前らが住んでいる街にはその部隊の連中が50人ほど
 そこまでいるわけではないが もうそこの化け物のことは伝えた
 今頃血眼になって探していることだろう」

ジュンは不安そうに彼のことを見た
「50人か へぇ あんな寂れた街にねぇ」彼は感心していた
「それで?本部は何処にあるんだ?」リオウが質問した
「それを聞いてどうしようと言うのだ?」ゲンゾウは汗を流していた

「どうもこうも お偉いさんたち全員捕まえて痛い目に合わせりゃ
 考え方も変わってくれるだろ?」リオウは笑いながら言った
「どうやら 勘違いをしているらしいな
 信仰はそんなヤワなものじゃない」ゲンゾウはジュンを睨みながら言った

「もし教祖を殺したところで 蓄積された恨みは消えない
 私たちはドラゴンを全滅させるまでは満足しない
 奴隷となったドラゴンの処分まで始まれば
 あとは時間の問題だ ドラゴンはこの世から消える」

「どういうことだ?」彼は聞いた
「野生のドラゴンはな ほとんど殺し尽くされている
 聞いたことはないか? もはや数えるほどしか残っていない
 滅びたら あとは人間に飼われている怪物どもだけだ」

「へえ そりゃ凄いな で? そうなったらどうするんだ
 その大義名分が無くなれば お前らのドラゴン殺し教も終わりだろ?」
「我々の教団の名はそんな名ではない
 そして真の目的は……」そこまで言うとゲンゾウは黙った

「何? どうしたの?」エミリが傷に触れようとした
「待て! 待ってくれ! 話す! 話すが
 広めないと誓ってくれ 立場はわかっている
 だが! これは知られてはならないことなのだ」

「わかったよ 真の目的とやらにそこまで興味はねえが
 誰にも言わねえことにしてやる」彼はぶっきらぼうに言った
「我々の教団の本当の名を知っているものはほとんどいない
 だから龍殺しのみが目的と思われているだろう」

ゲンゾウは続けた
「信者の中でもドラゴンに恨みを持つものが多く
 大半は家族や先祖を殺されている
 しかし我ら黒龍教は おそらく反対の行為を目的としている」

「こ 黒龍教?」ジュンは不思議そうに言った
「かつて 人間とドラゴンの戦いがあったことは知っているだろう
 その結果 ドラゴンは永遠に人間より下の存在となった
 我が教祖は それを反転することを目的としている」

「何だ?そりゃ メチャクチャじゃねえか」リオウが口を挟んだ
「そうだな 私もそう思っていた
 私はドラゴンが憎くて仕方がない だから信者と結託して
 ドラゴンの絶滅だけを目的とした派閥を作った」

「お前も教祖には反対なわけだな
 なら何でそんな教団に入ったんだ?」彼が聞いた
「ドラゴンを殺すのは簡単だ しかしそれで金を貰える仕事はない
 単純な理由だ 手駒を増やすことも簡単だった」ゲンゾウは答えた

「何だか お前らもうちみたいなことをしてるんだね
 そんなんじゃ犯罪組織と変わらない」エミリが言った
「しかし お前らは警察を掌握することはできない
 警察内部にも黒龍教信者は沢山居るからな

 これは限られた教団幹部しか知らないことなんだ
 最初は私も ドラゴンを殺すことを目的として入信したわけだ
 黒龍教は 邪神である黒龍を復活させようとしている
 殺されたドラゴンの亡骸は集められ 本部の地下に眠っている」

ゲンゾウは続けて
神話では多くのドラゴンの亡骸を器に収めて呪文を唱えると
その亡骸の中から一匹の黒いドラゴンが誕生し
世界を焼き尽くすだろうとある ということを話した

「何だそりゃ わけわかんねえな 信じられねえ」リオウが言った
「そんな神話聞いたことがない ホラ話だろ?」彼は煙を吐いた
「でも ホラ話でこんな大それたことするか?」エミリが言った
「黒龍……黒龍……」ジュンは繰り返していた

「どうしたんだ?」彼はジュンの様子を見て聞いた
「いや 関係ないかもしれないけど
 マリンから似たようなことを聞いた気がする
 ドラゴンの魂の中にはその記憶があるって……」

「まさか! それは本当か?」ゲンゾウは驚いていた
「いや 知らないけど 確かそう言ってたよ
 その頃は何の話してるのかわからなかったけど
 私たちには大いなる主人がいるって」ジュンは答えた

「クソッ それはドラゴンの魂の記憶だ
 まさか実在しているとは 信じられない」ゲンゾウは項垂れた
「さっきからわけわかんねえけど お前らは協力してるわけだろ?
 その黒い奴を復活することに確信がなかったのか?」リオウが聞いた

「ああ 嘘であれと思った 私は教祖の目的が打ち砕かれるよう望んだ」
「とんだ信仰ね」エミリが呟いた
「それが事実であれば! 世界は焼き尽くされるということだ!
 ああ 私はドラゴンだけを なんてことを」

「なんか気の毒だけど 気にすんなよ
 どうせ死ぬんだからさ!」リオウが笑顔で励ました
「お前 さらっと怖いことを言うよな
 だがそれもそうだ もう関係ない」彼も笑顔になった

「サラ! リンダ! あの子達まで死ぬのか!
 クソッ! 孫娘が居るんだ 死なせたくない」ゲンゾウは泣き始めた
「ちょっと待てよ 何も明日焼き尽くされるわけでもねえだろ
 何言ってんだ? 全部殺さなきゃなんだろ?」彼は不思議そうに聞いた

「今日 私はその怪物を連れてこいと命令された時に言われた
 最後のパズルのピースが必要だ と
 ということは もう器が完成してしまったのかも知れない
 死体が何匹必要かは聞かされていない」ゲンゾウが答えた

「最後のパズルのピース? ジュンのことか?」
彼が聞くとゲンゾウは力無く首を縦に振った
「もしかすると人間とドラゴンの合いの子は
 強力なものを秘めているのかも知れ……」

銃声が鳴り響いた 廃墟の割れたガラス窓から弾丸が飛んできた
ゲンゾウの頭は撃ち抜かれ 即死していた
四人は撃たれないように 慌てて部屋の隅に走った
「誰だ!? 黒龍教の奴か!? クソッ」彼は叫んだ

しかし それからは静寂が訪れた
見えない恐怖に固まっていた彼らだったが
数分経つとゲンゾウの元に歩み寄った
「約束通り 楽に死ねたな」エミリは呟いた

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