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詩「ぶつ切りのリオウ」👁️18

20240916

「よう お前ら クソども 殺しちまうぞ
 どけ カナエって 女に 用が あんだよ」
リオウは村人たちを鋭く睨んだ
「カ カナエさんは 村の一番奥の家にいるよ」村人の一人が答えた

「うるせえ 俺の 顔を 見ろ! さあ お前ら 全員だ!」
そう叫ぶと リオウの身体中の火傷が紋様となり浮き出て来た
すると村人たちは一斉に叫び始めた
自身の内面の 最悪の悪夢が眼前に広がった

村人の一人は 恋人が他の男に奪われ
その男が怪物になり 恋人の四肢をもいで食べる幻覚を見た
他の村人の一人は 病気の母親の小言が原因で
妻が母親を刺し殺す幻覚を見た

「お前らの 悪夢も ろくでもねえな
 俺の 悪夢は こんなもんじゃ ねえ」リオウは辿々しく言った
「上出来です リオウさん もう村人たちに怯えることもない
 カナエさんのところに行って 話をしてください」

ケントが指を鳴らすと リオウはカナエの家に向かった
リオウはさまざまな記憶が 不鮮明だが 残っている状態になった
先ほどまでの 洗脳されきった自分がしたことがわからず
叫び回る村人たちを見て (変な村だな)と思った

「ケントさんよ カナエって人が クロウを捨てた母親なんだろ?
 もし俺が殺したらどうする? 銃を持っていたら?」
「さあ どうしましょう もしあなたがカナエさんを殺してしまったら
 僕は困りますね しかし 計画は続行します」ケントは遺跡へと向かった

リオウは村の奥にある小さな家の前に立った
彼が生まれ 閉じ込められ 捨てられた家だ
リオウは彼のことを思って 少し躊躇したが
カナエは扉を開けて「何してんの? 早くお入り」と言った

リオウは戸惑いつつ 案内されるままリビングに向かった
机と椅子の上には果物が置いてあり ごく普通の家庭の風景だった
「こんにちは あんたは誰?」カナエは席につくと聞いた
リオウも席に座り「リオウ クロウの友達だ」と答えた

「クロウ…… 誰だいそりゃ?」
「あんた 自分の息子の名前も知らないのか」
「そうか あの子の名前か クロウ 良い名前だね
 絵本と同じ名前なんだね うん それが一番しっくりくる」

クロウの母親であるカナエは 酷く悲しそうに笑った
「馬鹿らしいわね あんたらが来て 旦那の失敗を知るなんて
 クロウを殺せてたら 私を人質になんてしないでしょ?
 私はあの子に恨まれていると思う だから……」

「カナエさんよお あんたわかってねえな
 クロウはそんなこと気にしねえよ 人質に取られりゃ
 自分を捨てて殺そうとした親だって 見殺しに出来ねえ
 そういう お人好しな奴なんだよ」

「なら なおさら私が足を引っ張ってはダメね」
カナエはピストルを取り出して自分のこめかみに当てた
「なあ 俺の顔 見ろよ」リオウが囁くと紋様が浮き出た
カナエはその紋様が形を変えるのを眺めることしか出来なくなった

カナエに悪夢が押し寄せた それはリオウにも見えた
カナエは幼いクロウを抱き抱えていたが
ウネウネと伸びてくる無数の手によって奪われ
幼いクロウを八つ裂きにされて殺された

「あんたの悪夢は これは」
カナエは幻覚を見せられつつ 正気を保っていた
「私は あの子を 殺せなかった
 こうなるってわかってた それなのに」

カナエは涙を流していた
リオウはカナエの幻覚を解いてやった ピストルは床に落ちた
「ありがとう 優しいのね」カナエは涙を拭きながら言った
「ひとまず 自分では死ぬな」リオウは次にどうするべきか考えた

「この村に 秘密の通路みたいなもんはあるか?」リオウが聞いた
「秘密の通路? 遺跡のことじゃなくてかい?
 そんなものはないけれど 抜け道みたいなもんはあるかも知れないね」
カナエは席を立ち コーヒーをいれ始めた

「逃げろ 今すぐに このままだと俺も 理性を保てなくなる
 バレちまったらどうしようもない 電話が鳴る前に 行け」
「いいえ 逃げないわ 私はここで死ぬ
 クロウを産んだ罪と あの子を生かした罪で 裁かれるのよ」

「そんなくだらねえことは良いんだよ! さっさと行けよ!
 そうしねえと あいつらの思い通りになっちまうだろ!」
電話が鳴った リオウは自我が取り押さえられていくのを感じた
ケントは電話の着信音に催眠の合図を潜り込ませていた

「……この アマ ぶっ殺して やろうか?」
リオウは理性を失い 再びカナエに幻覚を見せた
クロウを生かしたことの罪の意識から
磔にされて村人に石を投げられ 槍で突かれる幻覚が見えた

二つのマグカップは床に落ち コーヒーがばら撒かれた
リオウはもう自分を制御することが出来なかった
「はい」電話に出ると ケントの話を聞いた
カナエは どうしようもなく 床に倒れ込んでもがいた

ジュンは洞窟を出るまでの間に
全身に鱗を纏わせていた
肩甲骨から生えた翼にも鱗を継ぎ接ぎした
レンゲンへ飛んだが 様子が変わっていた

村人は皆もがき苦しみ
幻覚に悩まされ 発狂していた
異形としか言えない羽根の生えたジュンを見ても
村人たちは怯え 叫び 泣き喚いていた

「これは どういうことだろう」
すると 大きな叫び声がしたので急いで向かった
小さな家のドアを叩き割ると
理性を失ったリオウが突っ立っていた

その奥に カナエがうつ伏せで倒れていた
「邪魔 すんな クソ野郎 誰だ? てめえ」
リオウはジュンを睨んだ
「リオウ! 僕だよ!ジュンだよ! 忘れちゃったの?」

カナエが苦しそうに言った
「無駄だよ あんた こいつはもうリオウって男じゃない」
「わかった!」ジュンは迷わず突進した
鱗で固めた右腕を引き 思い切り腹を殴った

リビングの机を薙ぎ倒し キッチンに突っ込み
そのまま壁を突き抜け リオウは飛んで行った
「さあ 早く!捕まって!」ジュンはカナエを抱えた
ジュンの身体は強化され 重さを全く感じなかった

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