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詩「切り札のジュン」👁️17

20240916

「想像よりも到着が早かったようですね
 一つ目の秘密は どうでしたか?」男は防護服を着ていた
「ああ 正直驚いているよ
 今までの人生は無意味だ」彼はモニターを見たまま言った

男が部屋の中に入っても 機械は何もしなかった
人間だとわからないように防護服を着ているようだ
この部屋の秘密を知っている人間 彼は興味を持った
誰であろうと 自分より物を知っている人間に話を聞きたかった

「そうでしょう? だってあなたはただの残りカスだ
 我々人間と戦って 敗れた種族の遠吠えだ
 こんなに響き渡るなんて 思いもしなかったですが
 それにしても やっぱり凄いテクノロジーですね」

男の顔は防護用のガラスが反射してしまって見えない
ジュンは警戒しながら男を睨みつけていた
彼は相変わらずモニターを眺めていたが
ふと「椅子を出してくれないか?」と呟いた

『はい』機械が答えると 部屋にローテーブルとソファが現れた
「凄い!こんなこと出来るんだ……」ジュンが呟いた
「なあ そんな重そうな服着てちゃ疲れたろ
 座れよ ゆっくり話そう」彼はソファーに座った

「お言葉に甘えて」男は彼の対面に座った
ジュンは二人を交互に見た 四角く囲むようにソファが出て来たので
彼と男を見渡せる彼の右隣のソファに座った
「名前は?」彼は聞いた 「ケントです」男は答えた

「ケント あんたは俺たちを知っているんだろ?
 何もかも知っているような口ぶりじゃないか
 黒龍教の親玉だろ? 教祖様ってのか
 俺を連れ去って黒龍を復活させようってことだよな?」

「惜しいですが 少し違いますね クロウさん
 僕は教祖じゃありません その息子です
 黒龍教の復活は目標ですが あなたを連れ去るわけではないです
 あなたは勝手について来ますから」ケントはソファにもたれた

「クロウがそんなことするわけないでしょ?
 だってみんなを殺したいなんて 思うはずがない
 どうして勝手について行くの?
 それに ケントさん あなたはなんで此処に居るの?」

「ジュンくん 僕はね 人を操れるんだ
 でも 今の状況は不利だ 君が居るからね」
「僕が?」ジュンは不思議そうな顔をした
「ああ お前は不利だ こいつは俺の親父を半殺しにしたからな 一発で」

「おや?そうなのですか? そこに倒れているのはジュンくんがやったと?」
「違うよ! 確かに一発は殴ったけど 死んではいなかったよ!」
彼は笑った「でもあれは最高に良いパンチだった」
「冗談ばっかり言わないでよ!」ジュンは少しむくれた

「良いですね 仲が良さそうだ
 そこの彼のことですが…… いや あなたのご両親のことですが
 随分と愛されていたのですね 羨ましい
 僕にはそんな経験がありません」ケントは言った

「どういうことだ? 俺はあの村で生まれて……
 って お前みたいな奴が此処へ来たら村の連中が黙ってないだろ?」
「ああ それはご安心を リオウさんに対処して貰ってます」
「リオウ? そりゃどういう……」彼は何かに気が付いて止まった

「……お前 エミリを殺したか?」彼の目の色が変わった
「はい 殺しました」ケントはすぐに答えた
ジュンは驚いた顔でケントを見た
表情は見えないが 冷静であることは確かだった

「なるほどな じゃあ黒龍教の中でも
 俺の友人を殺し さらには操ってる最低野郎ってわけだ
 俺は脅されても屈しない ついて行かない
 こう見えて友達は多いんだ 奇妙なことにな」彼は言った

「そう ですね そう言われると思いました
 だからあなたに催眠をかけます
 しかし このままだと僕はジュンくんに殺されるでしょう
 凄いですね その拳 いつ覚えたんですか?」ケントはジュンを見た

ジュンは拳に力を込めて 鱗を纏わせていた
怒りで息が荒くなり 今にも襲いかかりそうだった
「落ち着け ジュン こいつの話を聞いてみよう」
「わ わかった」ジュンはそのままの体勢で聞くことにした

「何を話しましょうか 疑問はたくさんあるでしょう?」
「何故俺の親のことを言い出した? お前に何がわかる?」
「村に生まれ 一つ目を疎まれ あなたは閉じ込められ
 挙げ句の果て 孤児院に入れられた 合ってますか?」

「そりゃ…… まあ 合ってるな」
「それは優しさですよ 僕から見ればね
 あなたはすぐに殺される運命だった
 一つ目とわかったのですから 当然でしょう?」ケントは続けた

「一つ目は悪魔の子 レンゲンの言い伝えにはこうあると聞きましたが
 あなたのご両親の祖先が考えたことでしょう
 この遺跡に入った人間に取り憑き 母胎を奪い取る
 そのシステムが発生する確率は レンゲンが一番高かった

 なので あなたは生まれてすぐに処分される予定だった
 でもそうしなかったのは 愛情だと思いますがね」
彼は驚いて言葉を発せなくなっていた
頭の中で色々なことが浮かんでは消えていった

「あなたは 生かされたのです
 やがて自分達で殺さなければならないかも知れない
 でも一生 どこか別の場所で過ごしてくれたら?
 秘密など知らずに 平和に暮らしてくれたら?

 そんなことを考えていたのかも知れません
 ここまで言っておいて 全て僕の憶測ですが
 あなたはどう思いますか?
 愛情ではなく 憎くてそうしたと?」

「俺は……」彼は言葉に詰まった
「そんなこと関係ないよ 結局 クロウは捨てられたんだ
 そして家族に殺されそうになった
 生きているだけでそんなことされるのは嫌だよ」ジュンが言った

「確かに ジュンくんの言う通りかも知れませんね
 僕がクロウさんの立場だったら そう考えるかも知れない
 僕の計画では あなたが秘密を誰かから伝え聞いた時点で負けだった
 けれどあなたは自分で辿り着いた 僕の勝ちです」

そう言うと ケントは携帯を取り出した
「あなたのお母様は リオウさんが拘束してます
 話してみますか?」ケントは携帯を彼の前に差し出した
「ああ」クロウは携帯を受け取って耳に当てた

「よう クロウ 元気 か?」リオウの声は虚ろだった
「ああ 元気だ そっちは?」クロウは少し苦しそうな顔をした
「最高 だ」リオウは電話口を母親に向けて言った
「最後だ 何か言え」母親は辛そうに呻いていたが 話した

「ク クロウ…… 名前も知らなかったけど
 良い名前ね あんた 随分とお友達が増えたんだね」
クロウは取り乱した「お袋! 俺は! でも……」
「父さんは死んだんだろ? だからこいつらが来た

 もうわかっているよ 私たちは失敗した
 私は あんたが生まれる前 子供を授かってとても嬉しかった
 可愛い我が子を迎える準備をたくさんした
 村の人らも 私たちを祝福した

 でも あんたが生まれた日 何もかもに絶望した
 あんたは一つ目だった 医者の人らは騒いでいたよ
 殺せと言われた すぐにね でも出来なかった
 一番絶望したのは あんたがとっても可愛かったからだよ」

「クロウ 大丈夫?」ジュンは心配そうに彼を見た
「ああ 大丈夫だ」それだけ答えると彼は聞いた
「お袋 もう何もかもどうでも良い それより
 どうすれば助けられる? どうすればあんたを殺されずに済む?」

「私は もう死ぬべきだよ
 覚悟はしていた いつかこうなるかも知れないって
 父さんとも何度も話し合った 我が子が誰かに殺されるくらいなら
 殺してあげようって……」彼の母親は泣いていた

「ケント! お前! リオウの場所を吐け!」ジュンが立ち上がった
ケントの胸ぐらを掴むと 拳を顎に当てた
「手加減はしないぞ! 早く教えろ!」殺気立ったジュンは冷静ではなかった
「やめろ ジュン 待て」彼の声は聞こえなかった

ケントは彼を見た 少し笑った
「村に行きなさい すぐに居場所はわかる」
それを聞くとジュンは猛スピードで駆け出した
「待て! ジュン! それじゃあこいつらの……」

パチン と音が鳴った
「そう 思う壺ですね ジュンくんは良い子です
 こういう手口が一番効きます
 もうあなたと二人きりです 催眠は浸透していきます」

彼は意識が朦朧とした
さまざまなことが押し寄せて それに対抗する精神力はなかった
混沌とした頭の中の檻に自我が閉じ込められる感覚がした
目の前が真っ暗になり ケントの声まで聞こえなくなった

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