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詩「思い出のレンゲン」👁️15

20240912

「お前なぁ せっかく出られたのに何で戻って来ちまうんだ
 歓迎するわけがねえだろ 一つ目の男なんてよ
 気味が悪くて仕方ねえ この村ではな
 昔から 一つ目は悪魔だって言い伝えられてるんだ」

彼はそう言われて 黙って立っていた
ジュンは不安そうに 立ち塞がる村人と彼を交互に見た
「しかも妙な小僧連れてよ 誘拐したのか?
 そいつを食うつもりなんだろ? 一つ目」

生まれ育ったレンゲンという村へ向かう道中
彼は胃が痛そうな顔をしていた
「どうしたの?」ジュンは心配になって聞いた
「ああ ウロに言われたから向かってはいるものの

 俺はあの村で生まれて 閉じ込められて
 捨てられたんだ まだ俺を嫌っている連中も多いだろう
 何故だか知らんが 一つ目は嫌われるんだ
 この世に二人といないほどに珍しいからかな?」

「でも ウロが言ってたんでしょ?
 昔 クロウに似た一つ目の男の人が居たって
 そうすると 探してみれば結構いるかもよ?
 一つ目の人たちが住む村もあるかも?」

「そう 思うよな? でも俺はそう思えない
 おそらく 一つ目は世界中で俺一人だ
 これは何となくだかよ カンってやつだが
 俺のカンは 当たって欲しくない時は当たるんだ……」

村人たちは彼の頬を叩いた
「ほら ほら なんか喋れよ!
 一つ目の次は口が聞けなくなったか?
 それとも頭がおかしくなったか?」

「やめろ!」ジュンが叫んだ
「ジュン ありがとう 大丈夫だ」彼は笑った
「何が大丈夫だよ! 俺たちは大丈夫じゃねえ!
 面倒を起こされたらどうする?」村人は叫んだ

「そこまでにしておきなさい もう良いでしょ
 あんたも 用事があるならさっさと済ませて帰って
 面倒ごとを持ち込んだら 代償は払ってもらうわ
 やりたいことやって 帰りな」

「お袋……」彼は小さく呟いた
「黙りなさい! 誰があんたの母親ですって?
 私がどれだけ屈辱を受けたか知らないで!
 早く行きなさい!あんたらも道をあけて!」

ジュンは彼を見た 彼はとても悲しそうだった
村を通り 禁足地となっている山道へ向かった
縄を越えると 彼はジュンを抱き上げて中に入れた
そうしている時も 村人たちは彼を睨み続けていた

「お母さん 怒ってたね」ジュンは歩きながら気まずそうに言った
「ああ まあ無理もないかもな
 我が子が変な姿に生まれちまったんだ」
そう言いながら彼は小さな遺跡を探した

正確な位置まではウロから聞けなかったが
バラクサの住民に聞き込みをすると
レンゲンの封じられた山の奥に小さな洞窟があり
その中に遺跡があるらしいと分かった

「何でそんなこと知っているんだ?」彼は聞いた
「知ってるも何も バラクサの頭良いやつはみーんな
 その遺跡を調査してたんだよ
 でも二十年くらい前からレンゲンが封じちまった」

「遺跡の調査?」
「ああ 古代文字がびっしり書かれていたり
 訳がありそうな絵もたくさん見つかったんだ
 小さな遺跡って言っても価値がある場所らしいんだ」

彼は生まれ故郷にそんな場所があったなんて知らなかった
「ありがとう!おっちゃん あ 食いもんも買ってくよ」
「おう! ここは食いもんが美味いからな!」
「そうだな また来るよ」彼は笑顔で言った

バラクサでの笑顔は消えてしまい
憂鬱な顔で遺跡を目指す彼を見ながら
ジュンは何かを言おうとしたが
言葉が見つからずにいると ポケットに違和感を感じた

「ん?何これ」取り出すと折り畳まれた小さな紙だった
「どうした? 疲れたか?」彼はジュンを見た
ジュンは紙を開いて中の文字を読んだ
「クロウ! なんか これって大切なことじゃない?」彼に紙を見せた

紙にはこう書かれてあった
『お前らの探してるものはわかってる
 村の奴らはそれを恐れてる
 遺跡の前で落ち合おう 少し話したい』

「何だ? 誰の字だ?」彼は不思議そうに紙を見た
「村人の一人かな? でもあんまり知らないよね?」
「そうだな 孤児院に入れられちまったし
 そもそもほとんどの記憶がないんだよな」

二人は山道の途中で大きな岩を見つけたので
座って休むことにした
バラクサで買って来た食べ物と飲み物を開いて
小さく見える村を眺めながら食べたり飲んだりした

「ジュン さっきはありがとうな 本当に
 やめろって言える奴は強いんだ お前は強い」
「うん だってクロウがあんまり言われてるから
 やり返さないのは正しいかも知れないけど」

「いや ジュン 俺は少し考え方を変えるよ」
遠くを見つめたままの彼をジュンは見た
「考え方? どんな風に考えるの?」
彼はジュンに向かって笑って答えた

「今度から むかついたら殴ってやる」
「そんなことしたら 二度とここに来れなくなるよ?」
「良いんだ 元から戻って来るつもりはなかった」
「じゃあ僕も むかついたら殴る」ジュンは拳を前に出した

充分に休むと 再び歩き始めた
合計で三時間ほど歩くと 小さな洞窟が見えた
その前に人影があり その男は石に座っていた
彼とジュンが近付くと 立ち上がって話をし始めた

「久しぶりだな 元気そうじゃないか」
「親父……」彼は男を見て呟いた
「そうだ 覚えてないかも知れないと思っていたが
 母さんに頼んで メモを渡してもらったよ」

「親父 話って何だ? 俺はこの遺跡にヒントがあると言われた」
「ヒントも何も 答えが揃っている
 お前ももう充分に大人だろう? 理解出来るはずだ
 母さんと俺が お前を捨てた理由も」

そして 彼の父親はピストルを構えた
「ここでお前を殺さなきゃいけない理由も」
ジュンは身構えた 「どうして!」
ジュンは思っていたことをぶちまけた

「どうして自分の子供にそんなこと出来るの!?
 一つ目として生まれたからって!そんなの理由にならないよ!」
「その子は?」彼の父親は聞いた
「拾った子だ」彼は冷静に答えた

ジュンは彼を見た その瞳の色は諦めに満ちていた
彼は深く絶望していた 歓迎されないのはわかっていたが
父親から銃を向けられるとは思っていなかった
「親父 撃つんなら早く撃てよ」

「ダメだよ! クロウ!ぶん殴るんでしょ!」
ジュンはそういうと拳に力を込めた
するとそれに呼応するように拳を鱗が覆った
「ジュン 何だそれ?」「わかんない!」

ピキピキと音を立てて鱗が鎧のようにジュンを包んだ
「カワイイ カワイイ ワタシノ コ」マリンの声が聞こえた
「お母さん……力を貸して」ジュンが呟くと
鱗が上半身を完全に覆い尽くし 戦闘体制に入った

「ジュン!大丈夫か?」彼は慌てた
「うん!全然平気! むしろ何だか安心するよ!」
「奇妙な少年だ 実験の結果か?」
「あんたは何をわけわからねえこと言ってんだ?」クロウは父親を見た

「そうか もしそうだとしたら 人類史上初めてだ
 禁忌を犯した者がいるらしい
 ドラゴンと人間が交わったのか?
 ドラゴンから生まれたのか? 人間からか?」

「ドラゴンだ!」ジュンは叫んだ
彼は少しパニックになったが おかげで自暴自棄から解放された
「おう! ドラゴンとアホ野郎の子供だよな!」
彼は自分でもよくわからないことを叫んでピストルを構えた

「もし お前たちが私を殺してくれれば
 もう私も 責任を感じずに済む
 だがお前たちは何もわからないまま
 どうする?殺すなら早くしてくれよ?」

「親父が先にピストルを構えたんだろ?
 それを下げてくれよ そしたら俺も下げる
 話し合おうじゃないか
 ジュンだってそうすれば殴らないよな?」

「うん!殴らない!」ジュンはシャドーボクシングをしていた
「その動作だと殴りそうだぞ?」彼は戸惑った
様子がおかしい ジュンは気分が高揚しているようだ
彼は先にピストルを下げて懐にしまった

すると彼の父親は彼に発砲した
咄嗟に目を閉じて開くと ジュンの腕がそれを防いでいた
「ジュン!大丈夫か?お前撃たれたぞ?」
「痛くないよ! 今助ける!」ジュンは叫んだ

ピストルを構える彼の父親までの数メートルを
ジュンは一気に飛び跳ねて 腹を思い切り殴った
ピストルは飛んでいき 血を吐きながら身体は大木にめり込んだ
彼はそれを呆然としながら見ることしか出来なかった

ジュンはフーッと息を吐くと
鱗が剥がれ落ちて 元の姿に戻っていった
「お母さんが力を貸してくれたよ」
「あ ああ そう みたいだな」彼は気絶した父親に歩み寄った

縄で縛り上げ 起きるまで待った
「ジュン その力を使ったのは今日が初めてか?」
「ううん 一度使った気がする 僕は気を失ってたけど」
「やっぱりそうか 思い出したんだな」

ジュンは深呼吸しながら答えた
「何となく 女の人に痛いことされた時
 お母さんの声が聞こえた気がするんだ
 この鱗は 僕がドラゴンの息子でもある証拠だね

 何が起こったのかはわからなかったし
 すぐには記憶が戻らなかったけど
 だんだん何が起こったかわかったよ
 教団の人たちにしたことも」

彼は自分の手のひらを見つめるジュンに言った
「さっきはありがとうな おかげで死なずに済んだ
 お前が守ってくれたんだ いつか礼をしたいな」
ジュンは笑った「じゃあまた レストランに行こうね」


彼の父親が目を覚ますと 彼は質問を始めた
「どうして俺を殺そうとするんだ?」
「何故って それは 世界が終わるからだよ
 お前は知らないだろうが お前は呪われた存在だ

 遺跡に入ったらわかるが もしそうするなら
 私を殺してからにしてくれ
 ついでに 母さんも殺してやってくれ
 あいつに苦労をかけてしまった」

「それは俺が決める 別にあんたを殺しに来たわけじゃない」
彼は煙草に火をつけて 深く吸い込んで吐いた
「お前 煙草吸うんだな 一本分けてくれないか?」
彼は父親に煙草を咥えさせてやり火をつけてやった

「この遺跡には何があるってんだ?
 何もかも教えてくれ 俺にはよくわからねえ」
「ここには先人たちの記憶がある
 そして 先人たちの隠したものがある」

「先人たち?」彼は少しイライラしつつ頭を掻いた
「そうだ 先人たち つまりはお前のような
 一つ目である種族の記憶だ」
彼はピタリと動きを止めた ジュンと顔を見合わせた

「どういうことだ?」
「今普通に暮らしている人間たちは
 一つ目の種族を滅ぼして この星をまとめた
 一つ目の種族はドラゴンと同様 元からここに暮らしていた」

「待てよ 何言ってるか全然わからねえぞ?」
「なら 自分で確かめてみると良い
 人間は遺跡に拒絶される ただ一つ目なら?
 拒絶などされない 早く行け」

彼とジュンは立ち上がり 洞窟に歩き始めた
洞窟に入る寸前で彼は止まり 振り返ると聞いた
「あんたは これからどうするんだ?」
「どうもしない 一つだけ ……すまなかった」

洞窟の中は狭いが人が通れないほどではなかった
道にろうそくが落ちていたのでライターで火をつけた
進んでゆくと 大きく開けた場所が見えた
そこは炎が要らないほど青白く輝いていた

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