詩「人生悪役ⅩL」最終回

2021-01-28

十年の拘束から解放されたタヌキは
とぼとぼと 力無く歩いている
長い 永遠に続くような 廊下を抜けて
鉄格子の向こうから 所持品を返される

絶望の穴蔵から 這い出ることが出来る
ブザーと共に 高い塀のゲートが開き 眩しい太陽を見る
足がすくんで仕方ない
深呼吸をしながら ミリ単位で進む

外は 穏やかな気候で
陽の光は タヌキを明るく照らしている
それでも タヌキは不安で押し潰され
サイコロくらいに 気が小さくなる

辺りを見回すと
タヌキを迎えに来たと思しき人物が見えない
タヌキが不思議に思っていると
「おーい」と微かに聞こえる

その声を辿って 視線を移すと
突き抜けるような青い空の下に
間違いなく 彼が
あの『彼』が 立って こちらに手を振っている!

彼はこちらに歩いてくる
タヌキは 浮き上がるような気持ちになる
本当だった!間違っていなかった!
これまでの記憶も 彼の存在も

「よう 久しぶりだな!遅れちまって本当にすまねえ」
彼はそう言って タヌキの肩を叩く
「久しぶりです とても とても 会いたかった…」
タヌキは泣きながら答える

「泣くなよ! これからだぜ
 俺たちはまだ終わっちゃいねえ
 兄丸組なんて ただの通過点だ
 俺は あんたと手を組むって決めてるんだ!」

彼は停めてあった車の助手席に座り
タヌキは 運転席に座る
彼から 鍵を渡され タヌキはエンジンをかける
車が走り出すと 音楽が流れ出す

「俺たちには ヒグマはもう必要ねえ
 あいつには世話になったけどな
 これからは 俺とあんただけでやって行くんだ!
 最高だろ? 何も恐れることはねえ!」

そして 彼は タヌキにこれまでのことと
これからのことを話す
タヌキは ようやく自分の帰るべき場所を見つけ
そこへ向かって アクセルを強く踏む

彼は タヌキを見て 長い時間の経過を感じる
そして 今はもういない人々のことを思う
兄丸組を解散した時のことも思い出す
あの時は タヌキが猛反対したっけな

これから俺たちは 行けるところまで突っ走る
そこが崖だろうと 山だろうと 何だろうと
スピードを緩めることはない
タヌキと俺は お前たちを置いて行く

だから着いてこい
いつか俺たちを追い越すその時まで
俺は走りながら いつまででも待ってやる
そうだよな?タヌキ あんたは俺の味方だ

お前らにとっちゃ 俺は厄介者だぜ
お前らを見りゃ ぶっ飛ばすかもしれねえ
何故なら 俺は悪い奴だからだ
そう育って来た これからもそうやって生きていく

お前らはどうだ? 良い奴か悪い奴か
そんなこと俺にはわからねえ
俺は 胸を張って言える 自分が悪い奴だ!とな
だから 突っ走れるんだ

俺とタヌキが死んだら
お前らは祝いのパーティーをやると良い
俺らが居なくなったことに感謝して
骨つき肉でも食べれば良い

そうだ! 俺はここにいる!
妄想なんかじゃねえ!そうだろタヌキ!?
ざまあみやがれ! そうだろタヌキ!?
あ? 長くなっちまったな

また会えるのを楽しみにしている
俺に追いついてこい!
…おいタヌキ!お前は なぜそんなにヘラヘラしてるんだ?
なんか良いことでもあったのか?

え? 俺ばっかり喋ってずるい?
まあ言わせてくれよ 十年も待ったんだ
え? ああ もうそろそろ高速に乗るのか
まあ そういうことだ! じゃあな!

ガチャン! ツー ツー ツー ツー………

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