詩「人生悪役ⅩⅩⅦ」

2021-01-26

タヌキは サメとシャチのように
木に括り付けられた
しかしフクロウは 両手両足に
ナイフを刺すことはしなかった


ロープで締め付けられた手首と足首が
木を一周回って 縛られた
彼は手錠をかけられたまま 這いつくばっていた
(ちくしょう…どうしたら良い!?)と考えながら

「フクロウさん ありがとうございます」
タヌキは微笑んだ フクロウは目を逸らし
「彼はね… 友人があまりいなかったんですよ
 あなたが 初めての友人でしょう」と言った

タヌキは 心底嬉しかった
社会では まともに相手にされなかった
恋人が出来ても すぐに裏切られた
友人は すぐに疎遠になった

彼といた時間 タヌキは楽しかったと感じた
一年にも満たないほどの期間だったが
(とんでもない目にあったな)と思い返し
絶望的な状況の中 笑ってしまった

ぐるぐると フクロウがタヌキの周りを歩き出した
鼻歌は メロディを忘れてしまい
鼻の奥で突っかかっていた
ザクザク というフクロウの足音だけが響いた

『おい』と声がした
(え?)とタヌキは思った
『お前 こんなとこで死ぬのか?』
(誰の声だ!?)タヌキはあたりを見回した

それに気がついたフクロウは止まった
「どうしました?」眼光は優しげだった
「いや… 声が聞こえて…」とタヌキが言うと
頭の中で 爆発するほどの叫び声が聞こえた

『ふざけるな!!!俺はまだ死なねえぞ!!!
 クソ野郎!!!臆病者め!!!
 手を貸すのはこれで二度目だ!!!
 良く見てろ!!これがお前の力だ!!!』

タヌキの頭の中の暴力の根が
脳の中を掻き回し 急激に伸びていった
すぐに 異変を察知したフクロウは
内ポケットに入ったナイフを出した

「な…なんだ?」ひりひりと張り詰めた空気に
少しだけ フクロウは動揺していた
タヌキの身体が脈打つのを感じた
彼は 顔を上げ それを見た

---

フクロウは 顔面が押し潰されていた
眼球が飛び出し 鼻は折れ曲がっていた
あたりの木々は拳型に凹んでおり
頭蓋骨から飛び出した脳みそが あたりに散乱していた

彼は とても怯えていた
タヌキの姿を見ながら 汗をかいていた
タヌキは その姿を見て
(ああ これがあの時の…)と思った

タヌキは フクロウの服から
鍵を探し出し 彼の手錠を外した
彼は戸惑いながら タヌキのことを見ていた
タヌキは また記憶が無くなっていた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?