詩「人生悪役ⅩⅩⅩⅧ」

2021-01-27

タヌキは 手当てをされると自室に戻った
一人一つの小さな部屋の中
白い壁に見守られながら
高熱と痛みに耐える日々を過ごした

男は 腹いせにタヌキに暴行を加えた
施設長は 男に前任者と同じ罰を与えた
無理矢理 狂人と化すことになった男は
次の日から 監視される側に回った

それから タヌキは厄介者として扱われ
施設を出るまで 自室に閉じこもることになった
接触した者に暴力衝動を与えると誤解されて
彼は「印象回復操作剤」と「強制コミュニケーション療法」を受けた

ぼんやりとしていた
傷が治っていくたびに
ふんわりとしていた
熱が下がっていくうちに

タヌキは 彼のことを待っていた
妄想の産物だったとしても
もう一度 壁に映そうとした
しかし 記憶の欠片は 吹っ飛んでしまった

『なあ』
声が聞こえた気がした
「もう 僕は大丈夫だよ」
タヌキは声に答えた

『そうか
 なら俺は もう去ろう
 お前は 最後までクソ野郎で
 弱虫だが 気に入ったぜ』

タヌキはハッとした
辺りを見回したが 当然誰もいなかった
現実と夢の狭間で タヌキは確かに その声を聞いた
そしてそれ以降 ヒグマは出なくなった

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