詩「人生悪役ⅩⅩⅩⅦ」

2021-01-27

タヌキは その時 彼がどのメーカーのコーヒーを飲み
どんな漫画を読んでいたか思い出せなかった
しかし 彼の顔ははっきりと見えた
声も 煙草の匂いも しっかりと捉えられた

(これは どっちなのだろうか?)
常にタヌキはそう考える
(現実だったら良かったのにな)
常にタヌキはそう願う

まるで ゲームの中のドットの世界だ
彼の顔だけは リアルに浮かんでいる
男は ぼーっとしているタヌキを見る
(また 空想に耽っているのか)と思う

先日 食事に誘った女にプロポーズした男は
それを断られ 落胆していた
だからか タヌキの呑気な姿を見て
腹が立って仕方なくなる

男は立ち上がり タヌキを立たせたる
タヌキは少し困惑したが
何か検査をするのだろうか?と思う
男は 腕を揺らして 力を抜いた後

拳を硬く握りしめ タヌキの腹を殴りつける
拳は タヌキの腹にめり込んでいき
内臓までその衝撃が行き渡ると
拳は離れ タヌキは蹲る

何が起こったかわからないまま
床に勢い良く ゲロを吐く
男の靴に少し そのゲロがかかって
さらに逆上した男は 彼を蹴り続ける

『ぉぃ…』と 小さな声が聞こえる
タヌキは その声が何かわからない
『おまえ くそ おい…』少し大きな声になる
男は 彼の顔面を蹴り飛ばす

『起きろ!!!!』
タヌキは大きな声で叫ぶ
男は驚き 後退りする
「くそが 驚かすんじゃねえ」と男が言う

「だめ だ」と言うと
タヌキは失神してしまう
男は その後もしばらく彼を蹴り続けた後
仕方なく 他の職員に彼を任せることにする

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