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詩「死に沈む」

20240815

何をしたって無駄だってことを
考え始めると損をするのは一部の人間だ
彼はそんな人間に餌を与えないために
何もしなかった 気怠い腕を垂らすだけ

固まった思考がさらに強度を増して
反発していた心がついに離れ離れになる頃
(やっぱり無駄だったんじゃないか)と
大切なもののリストにチェックを付けた

そんな彼が死んでから数ヶ月経った
アパートの一室で溶けていたんだとさ
それから毎晩のようにうちへやって来る
酒を飲みながら楽しそうに笑っている

死んで良かったとしきりに言っている
やっとやることが見つかったとも
それが何なのか教えてはくれなかったが
良い加減 鬱陶しく感じ始めている

ある晩 「今日は寝具を貸してくれ」と
彼が言うので 仕方なくソファで眠る
泊まるのは初めてだったが まあ良いだろう
「今日でここに来るのは終わり」と言っていたから

目が覚めると彼は消えていた
寝心地が悪いせいで痛くなった身体をさすった
家を出て仕事をこなし 帰宅すると眠気が襲った
寝具に飛び込むとスイッチが切れるように寝た

深夜に目を覚ますと動けないことに気がついた
大きな黒い塊が目の前で揺れていた
それを眺めていると何もかもどうでも良くなった
これまでの人生も 肉体が溶けていくことも

次の日からやりたいことがたくさん出来た
こんなに幸せであるなら仲間を作らなければ
街を歩いていると彼に出会った
「よう 新入り 良い顔してやがるな」

彼のように笑えているなら嬉しかった
つまらなかった日常が嘘のように思えた
住んでいたアパートには人だかりが出来ていた
彼と一緒に 酒を飲みながら眺めた

「これから どうすれば良いんですか?」
「簡単なことだ 思うようにすれば良い」
「でも何をしても無駄なんじゃないですか?」
「だからこそ 今そうやって笑えているんだ」

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