1つの出会いが人生を変えることもある、という話
この言葉に、あの時ほど励まされた事はなかった。
そしてその言葉を投げかけてくれた人との出会いがなければ、私は全く別の人生を歩んでいたかもしれない。
1つの出会いが人生を変えることもある。そんな話ー。
深夜の駅にて
その時の私は、心底焦っていた。
当時私は地方の大学生で、就職活動の渦中にいた。某社のエントリーシートの締切りが、翌日に迫っていた。
その日の夜、私はようやくの思いで書き上げたエントリーシートを抱えて駅前の中央集配局へ駆け込んだ。24時間やっている集配局は配達も早い。
(ここなら)
という思いで持ち込んだが、郵便局の職員の対応は冷淡だった。
「明日中には届きません」
粘っても職員はにべもない(当然の対応だ)。
時間をかけて書いたエントリーシート。それがすべて無駄になる。スタートに立つチャンスすらも失ってしまう… そう思うと目の前が暗くなった。
諦められないー
私は駅の構内へ走った。
向かった先は、新幹線の改札口
そこで私は、新幹線に乗りそうな人を掴まえては
「あの、東京行きませんか」
そう聞いて回った。
翌朝に東京から速達で発送すればまだ間に合う。東京行きの新幹線に乗る人に駄目元で頼みこもうとしたのだった。藁にもすがるような思いだったろうと思う。因みにその時私は、寝間着姿だった。
話しかける人すべてに冷たい目を向けられた。
中には「あっち行け!」と冷たくあしらう人もいた。当前の反応だったと思う。見知らぬ寝間着姿の男がいきなり「東京行きますか?」と話しかけてくる。不審以外の何物でもない。
それでも私はアタックを続けた。
何人目だったろうか。
「行くよ」
そう答えてくれた人がいた。背の高いスーツ姿の男性だった。
私は必死に事情を説明した。自分が今困った状況にあり、厚かましくも明朝に郵送物を出してほしい旨を告げた。
「就活か」
男性は聞いてきた。
「はい」
そう答えると郵便物の裏を見て「○○受けるの!?」となぜか驚いていた。
「はい、それで今困ってて・・・」
男性は手にした郵便物をまじまじと見つめていた。
そして「よし、分かった」と言い、私に目を向けた。
「俺が責任を持って出す」
それを聞いた私は「ありがとうございます!」と頭を下げた。
(これでスタートラインに立てる…)
胸をなでおろした。
速達の代金を含めて500円を払おうとすると男性は「お金はいい」と手で制した。
「俺が払っておくから」と。そして言った。
「頑張れ」
力強く、真心のこもった言葉だった。
しばし押し問答があったが、結局お金まで払ってもらうことになった。男性は「じゃあ、責任持って出すから名刺渡しておくよ」と名刺を私に差し出した。
「本当にありがとうございます」
私は改めてお礼を言って頭を下げた。
「就活、頑張ってな」
また男性は言い、夜のホームへと姿を消した。
後日、その会社から「エントリーシート届きました」と連絡が来た。
男性は見ず知らずの、それも不躾な大学生との約束をきちんと果たしてくれていた。お礼のメールを送ると、以下のようなメールが届いた。
私が受けていたのもマスコミの企業だった。
あの時ー
男性が郵便物をまじまじと見つめていた姿を思い出した。男性が身勝手な大学生の願いを聞き届けてくれたのはそういう理由もあったのだとその時理解した。
私は改めてお礼の言葉を伝えた。
●
男性との出会いから数か月後ー
私は就職活動を終えた。
結果を男性に報告すると、男性は非常に喜んでくれた。
「気持ちいい報告をどうもありがとう。東京に来た時には是非連絡してください。お酒でも奢りますよ」
そして私たちは、東京で再会した。
会ったのは焼き肉店。学生だった自分は初めて行くような高級店だった。
「お金を払おうとしないでください。これはお祝いですから」
会う前、男性はそう言った。どこまでもカッコイイ人だった。そして私たちは「あの時」の話をして盛り上がったのだった。
「こんな出会いは中々ないですから、また会いましょう」
私たちは、握手して別れた。
もう10年も前の、忘れられない出会いの話。
1つの出会いが人生を変えることがある
いつも何気なく使うその言葉に、あの時ほど励まされたことはなかった。そしてその言葉を投げかけてくれたこの男性との出会いがなければ、今の自分はまた違った人生を歩んでいたかもしれない。あの日の私はこの言葉に励まされ、そして救われた。
男性との縁は今も続いている。
話になるのはやはり「あの時」の話。
幾つもの偶然と必然の縁が重なって今の自分がいる。
男性との縁もその一つだ。近々、また会いたいなと思っている。
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ふとしたした出会いが人生を変えることがある。そんな経験をした大学生のツイートを見て、当時のことを思い出して書いた話です。
縁を大切に。
皆様、引き続きお付き合いくださいますよう^^
※そしてこの話の一番の教訓は「時間に余裕を持って行動しろ」ということだったり。抜けていた当時の自分の所業、そこから繋がったこれも「ご縁」だということで。(了)