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パンチャカルマ体験 【世界旅行記046】

2012年10月3日(水)〜4日(木) バラナシ → ニューデリー(夜行列車 Shiv Ganga Exp)
2012年10月8日(月)〜9日(火) ニューデリー → リシケシュ(夜行バス)
2012年10月12日(金) リシケシュ

ふたりして体調を崩し、1泊の予定だったニューデリーに4泊も滞在してしまった。体調が少し落ち着いてきたのを見計らって、次の目的地であるリシケシュへと向かった。ニューデリーの街は騒々しい。空気も悪い。治るものも治らなくなる。リシケシュは田舎町で療養にうってつけのはずだから、早めに移動してしまいたかった。案の定、鉄道切符は直前で買えず、またオンボロの夜行バスで向かった。「この道のりを我慢すれば……」という思いで、激しく揺れるバスに朝までひたすら耐えた。

ガンジス河の上流に位置するリシケシュは、ヨガの聖地として有名な町である。1960年代にビートルズが滞在して瞑想や曲づくりに耽ったことでも知られる。妻は昨年、仕事のかたわらヨガ教室に通い続け、インストラクターの資格を取った。そんな妻にとって、このインド奥地にあるリシケシュを訪れ、ヨガ三昧の日々を送ることは、この旅で唯一といってもいいくらいの具体的な「やりたいこと」だった。一方のわたしはと言えば、ヨガはまったくの素人だから、この町での行動はすべて妻にゆだねることにした。

体調が万全とは言えなかったわたしたちは、ヨガにひたる前に、アーユルヴェーダ(Ayurveda)に挑戦することにした。リシケシュは、インドの伝統医学・アーユルヴェーダが盛んな町でもある。アーユルヴェーダというと「オイルを使ったマッサージもしくはエステ」くらいのイメージしかなかったが、インドではれっきとした予防医学として確立されており、治療には西洋医学と同じくドクターの資格が必要だという。

リシケシュの町を歩いていると、「Ayurveda」と書かれた看板が嫌というほど目につく。観光客相手に格安でマッサージだけを行う店も多いが、なかにはドクターのいるきちんとした病院もある。そういう病院のひとつを見つけ、わたしたちはパンチャカルマ(Panchakarma)なるものを受けることにした。

今回お世話になったクリニック「Hemadri Ayurveda Centre」。

このパンチャカルマというのは、体内の毒を排出する「解毒・浄化プログラム」である。本来は最低2、3週間は入院して、徹底的に治療するものらしい。この病院では、最短3日間のプログラムが用意されていたので、通院しながら体験的に受けてみることにした。プログラムには付いていなかったが、追加でドクターの診察もお願いした。診察を受けないと、決まったプログラムを型どおりやるだけで、個人の体質にあった治療をしてもらえない(いずれにせよ、しょせん3日程度では治療といえるほどのことはできないのだが)。

ドクターの診察は、脈診によるものだった。中国でも街なかで脈診するドクターを見かけたが、東洋医学ではメジャーな診察方法なのだろうか。優秀なドクターになると、脈診だけで体調や病歴を言い当てられるという。脈を触ってわかる違いは、強さと速さくらいのものだと思うのだが……。

Dr. M. L. Mauryaによる脈診の様子。

わたしの診察結果は、「ヴァータの強いヴァータ・ピッタ(VP)」だという。なんのことやらさっぱりわからない。横で聞いていた妻が、「ああ、やっぱりあなたはヴァータなのね、そうだと思った」などと言っている。会話についていけず、すっかり蚊帳の外におかれたまま、胃腸に効くという2種類のハーブ薬を処方してもらい、プログラムの内容も決めてもらった。食事制限も厳しく、昨日食べたものを訊かれて「パスタとパンとフレッシュサラダだ」と答えると、ぜんぶアウトだと言う。胃腸が回復するまで、体にやさしいものしか食べてはいけないという。おかゆのようなケチャリやムング豆のスープなどを勧められた。

あとで調べたところ、アーユルヴェーダでは、人間を含むあらゆるものは「ヴァータ Vata(空・風)」「ピッタ Pitta(火・水)」「カパ Kapha(水・土)」という3要素(トリ・ドーシャ)を持っていると考えられており、人間の場合、この3要素の強さの違いが性格や体質の違いとして現れるという。わたしが診断された「ヴァータ・ピッタ」の特徴は、「冷え性」「胃腸が弱い」「想像力と実践力に富む」「ストレスを感じると不安と怒りを交互に感じる」と出た。まあだいたい当たっているが、これでは占いの域を超えないのでは?と疑いたくなる。3種類プラスその組み合わせ程度なら、脈診での判断も可能だろう(脈診の際に体温もわかるから、「冷えているからヴァータ」と診断していてもおかしくない)。

さて、処方してもらったパンチャカルマのプログラムは以下のようなものである。施術が終わると全身オイルまみれになるので、シャワーを浴びる。それも含めて、各回とも約2時間で終了。このほかに、ヨガ・レッスンも合わせて受けた。

  • Day1 : Abhyanga(全身オイルマッサージ)、shirodhara(「脳」のオイルマッサージ)、Steam(サウナ)

  • Day2 : Abhyanga、Steam、Nasyam(鼻からオイル)、Karna Pooran(耳からオイル)、Kawala(口にハーブ団子)

  • Day3 : Abhyanga、Steam、Kati Basti(肛門からオイル、つまり浣腸)

個人用スチーム。このなかにすっぽり入って頭だけ出す。これが実に気持ちいい。

受けてみた結果はというと、それほど期待しないで受けてみたわりに、意外と体調はよくなったし、胃腸もすっきりした。毎日行われるアビヤンガとスチームのセットは、ゴマ油の香ばしい匂いが漂って、極楽の時間だった。マッサージはかなり強いものだったが、おそれていた揉み返しはなかった。2日目には穴という穴にオイルを注入され、最終日には浣腸で胃腸のなかまできれいにしてもらった。

朝早く起きてマッサージを受け、そのあとはヨガ・レッスンを受ける。それが終われば近くのアーユルヴェーダ専門のレストランで、体にやさしい食事をとる。パンチャカルマの効果もあっただろうが、体調の回復にいちばん役立ったのは、そうした規則正しい生活によるものであるような気もする(ほんの数日のことではあるが)。ひさしぶりにヨガで体を動かして、全身こりかたまった自身の体を思い知った。ヨガの先生は「ヨガはエクササイズではありません」と言っていたが、その日のうちに足や首に筋肉痛が襲ってきた。せめて寝ながら90度に足をまっすぐ上げられるようにはしたい。

お世話になったスタッフの面々(写真を撮るとき全然笑ってくれず……)

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Travelife Log 2012-2013
世界一周の旅に出てから12年。十二支ひとまわりの節目を迎えた今年、当時の冒険や感動をみなさんに共有したいという思いから、過去のブログを再発信することにしました。12年前の今日、わたしはどんな場所にいて、何を感じていたのか? リアルタイムで今日のつぶやきを記しながら、タイムレスな旅の一コマをお届けします。


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