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ヴィパッサナー瞑想 Day0 5つの戒律と聖なる沈黙 【世界旅行記094】

2013年1月21日(月) ヴィパッサナー瞑想 Day0 - 回想 -

2013年1月9日(Day0)
明け方まで文章を書いていたせいで、ほぼ徹夜明けの状態でKLセントラルへと向かった。事前にカーシェアリングを依頼してあったので、その車を探して乗り込む。センターのウェブサイトで、カーシェアリングの提供と依頼が相互にできるようになっている。事前に連絡しておけば、センターへ向かう参加者の車に一緒に乗せてもらえる仕組みだ。センターは郊外にあることが多いので、こうした仕組みは非常に便利である。ただ、ボランティア的なものだと思っていたら、40リンギット(約1,200円)も徴収されたのには、どうも釈然としない。

乗せてもらったのはマレーシア人女性の車で、ほかにケニア人女性とカナダ人女性2人が同乗した。みな流暢に英語を話し、わたしはうまく輪に入れなかった。

センターは思ったよりも遠く、到着まで3時間ほどかかった。クアラルンプールはマレー半島の西側にあるが、センターは東側のクアンタン市にあった。ちょうどマレー半島を西から東へ突っ切った形になる。実は当日まで、わたしはセンターの場所すらよく把握していなかった。

高速道路を下りてすぐのところに、今回お世話になるセンター、ダンマ・マラヤ(Dhamma Malaya)はあった。あたり一帯、緑で埋め尽くされている。広大な南国的な林のなかに、オレンジ色の屋根の建物が見えてきた。センターは思ったよりもきれいで広く、ちょっとしたリゾートのようだった。

入口に貼りだされた参加者名簿で自分の部屋番号を確認し、各自勝手に部屋へ向かう。わたしの部屋はO3(O棟の3番)。男性用の宿泊施設はOからSまでの5棟で、全部で42部屋あった。すべて個室になっている。

部屋は6畳もないくらいの広さだが、全部屋に洗面所、シャワー(水のみ)、トイレが付いている。部屋の一部分の床が高くなっており、そこにマットレスを乗せてベッドにする。ベッドの下は空洞になっていて荷物を収納できる。部屋にはカラーボックスが置かれ、洗濯ロープが張ってあるほかは何もない。ムダなものは一切なく、その分すっきりしていて、場末の安宿よりよほど環境がいい。寄付で成り立っているのに、こんな立派な設備があるのかと驚いた。

夕方、ダイニングホールで受付が始まった。まず、瞑想法の紹介やコース中の規律が書かれた書類に目を通すよう言われる。ウェブサイトに掲載されているものと同じで、わたしはすでに何度も読み込んでいた。ヴィパッサナーは盲目的信心に基づく儀礼や儀式ではないこと、静養・休暇・社交の場ではないことなどが記されている。

コース中の規律としては、「5つの戒律」を守ること、「聖なる沈黙」を守ること、他の一切の宗教的儀礼を断つこと、ヨガや運動をしないこと、音楽を聴かないこと、読み書きしないことなどが記されている。これらを読み、個人情報を記入してサインし、登録作業は終了した。

「5つの戒律(Five Precepts)」とは、1. いかなる生き物も殺さない、2. 盗みを働かない、3. いかなる性行為も行わない、4. 嘘をつかない、5. 酒や麻薬などを摂取しないことを指す。これらはシーラ(道徳律)と呼ばれ、修行のベースをなす。

「聖なる沈黙(Noble Silence)」とは、言語・非言語を問わず、一切のコミュニケーションを断つことを指す。会話はもちろん、ジェスチャーや目くばせも許されない。もちろん身体接触もしてはいけない。ただし、先生やコースマネジャーとは、個別に話すことが許されている。瞑想に関することは先生に、生活上のトラブルなどはコースマネジャーに相談する。

コース中は、男性と女性は完全に分かれて過ごす。ダイニングホールと大きな瞑想ホールを結ぶラインを中心に、敷地内の右半分が男性エリア、左半分が女性エリアとなっている。両者のあいだの敷地には木が植えられていて、たがいのエリアに入れないようになっている。ダイニングホールも男女別に分かれていて、建物はひとつだが、右から入ると男性用、左から入ると女性用の部屋になっている。瞑想ホールだけはひとつの大きな部屋で、両者を分ける敷居はない。たがいの姿が見える。しかし、ここも中央を境に行き来することは許されない。

登録作業のあと、貴重品を預けた。財布や携帯電話などの貴重品はもとより、部屋に持ち込んではいけないものをここで預ける。本当は書籍や筆記用具などもすべて預けないといけないが、貴重品ボックスの容量が限られていることもあり、そこまで厳密に預けている人はいなかった。みな何かしらの成果や変化を求めてコースに参加しているので、わたしを含めて、あえて規律を破ろうとする人はいないだろう。

あとでわかったことだが、ここで登録作業や貴重品預かりをしているスタッフは、みなコースの参加者たちであった。参加者のなかには、わたしのような初参加の新しい生徒(New Student)と、2回目以上の古い生徒(Old Student)がいる。古い生徒がボランティアとして、こうした作業に当たっていた。それとは別に、奉仕者(Server)と呼ばれる人たちもいる。この人たちが、期間中の食事の準備やセンターの管理をボランティアで行っている。

そのあとのミーティングで、コースマネジャーの紹介があった。コースマネジャーも男性と女性に分かれている。男性側のコースマネジャーは、アイルランド人だった。奉仕者のなかには、マレーシア人だけでなく、欧米人の姿も見かけた。古い生徒のなかにも、欧米人が4、5人はいたと思う。このコースマネジャーも、無報酬のボランティアである。

いよいよ明日から10日間のコースがはじまる。今日は夜に1時間だけ、瞑想の時間があった。ここではじめて先生と対面した。先生も男性と女性に分かれている。全員が席に着くのを待ち、カーテンの向こうから先生が登場した。外見はいたって普通のおじさん、おばさんである。どちらもマレーシア人だろう。男性の先生は、ペルーのフジモリ元大統領のような感じだったと言えば、「普通のおじさん」のイメージが伝わるだろうか。

瞑想ホールは100人以上がゆとりを持って座れる大きなピラミッド状の建物で、内部は吹き抜けになっている。床は大理石で、そこに座布団が敷かれている。座席は指定制で、わたしのシートは5B(前から5列目、中央から2列目)。

男性の参加者は40名強、女性は50名ほど。約100人近い参加者が、これから毎日、このホールに集まって瞑想する。同じ空間だが、男性の先生が女性の参加者に個別に話しかけることはない。逆もまたしかり。あくまで、ふたつの集団を2人の先生が別々に見ている感じでコースが行われる。ちなみに、この先生たちも無報酬のボランティアである。

「聖なる沈黙」がはじまったのは夜の瞑想からで、それまでは参加者同士で話ができた。ダイニングホールにいるとき、20歳の若者が話しかけてきてくれた。おそらく参加者のなかで彼がいちばん若いだろう。母親に勧められて参加したという。その母親は今回、奉仕者として参加している。その母親が彼のところにやってきては、いろいろと世話を焼いている(まだこの時間は男女の行き来ができた)。母親というものは、どこの国でも共通してお節介なものである。わたしにまで「部屋にこれはあるか、あれはあるか」と世話を焼いてくれた。ありがたいことである。その母親が教えてくれた。「明日から夕食はないんだからね!」

知らなかった。今日だけは夕食が出るが、明日からは出ないという。よくよくタイムテーブルを見返すと、夕方5時からは、「ディナー」ではなく「ティーブレイク」と書かれている。フルーツしか出ないらしい。はたして明日からやっていけるだろうか。いよいよ修行の日々がはじまる。

全個室の宿泊施設。奥のドアの向こうにトイレとシャワーがある。簡素だが居心地はいい。
(右側に立てかけてあるのがマットレス。これを横にしてその上に寝る。
もちろんシーツも枕もある)

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Travelife Log 2012-2013
世界一周の旅に出てから12年。十二支ひとまわりの節目を迎えた今年、当時の冒険や感動をみなさんに共有したいという思いから、過去のブログを再発信することにしました。12年前の今日、わたしはどんな場所にいて、何を感じていたのか? リアルタイムで今日のつぶやきを記しながら、タイムレスな旅の一コマをお届けします。


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