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後輩や部下にやる気になってもらう

組織の中では上司の仕事は後輩の指導という部分が多いものですが、サラリーマン社会では余程気を付けていないと部下がやる気をなくすとか部下の成長を阻害するような発言をして、結果として知らず知らずのうちに指示待ち族を作ってしまう事があります。部下はその事実を教えてくれませんので、上司は自分で気付かなくてはいけません。

仕事が出来る上司の場合

人はお手本を見た時に二通りの反応をします。『このお手本の様に上手になりたい』と願い、努力するようになる場合。もう一つは『なんと素晴らしいお手本だろう。素晴らしすぎてとても自分にはできない』とすっかり諦めてしまう場合があります。

プレーヤーとして優秀な上司による部下への『俺は仕事が出来る』アピールは得てして後者になり易いものです。上司は部下に働いてもらうのが仕事です。それなのに部下と能力で張り合って、部下のやる気を削いで、どうするつもりなのか。これは三国志の諸葛孔明タイプの人が陥り易い上司です。

上司の仕事は全部とは言いませんが、部下の仕事とは異質なものです。一応部下に仕事を教える事が出来る程度の能力は必要ですが、常に部下より出来る必要はありません。

ライオンや象使いの場合を考えてみましょう。人間にはライオンのような強力な牙や爪はありません。象のような巨体や力もありません。それなのに人間はライオンに火の輪をくぐらせ、像に芸を仕込む事ができます。ここでこういう芸をしてねと教える必要はありますが、ライオンより上手に火の輪をくぐる必要はありませんし、象のように長い鼻で芸をする必要もありません。

教えるからには教えられるものより高い技術を持っていなければと思う人が結構いますが、教師が必ず生徒より優れている必要はありません。ライオン使いや象使いは日常の餌やりから下の世話まで配慮します。考え方によってはどちらが主人か分かりません。上司の役割は部下が仕事をしやすいようにお膳立てをする雑用係りだとも言えます。スポーツの場合のアスリートに対するコーチの関係に似ています。

自己効力感について

孫が可愛くて仕方のないおばあちゃんが、いくつになっても口までご飯を運んで食べさせてあげんばかりに世話をするので、その子はやがて自分一人では何もできない人物に育ってしまうというのを『おばあちゃん子は3文安い』と言います。これは昔から起きてしまいがちな現象を指す言葉です。もちろんお婆ちゃんに育てられたからと言って、皆がこうなるとは限りません。ただ猫かわいがりしすぎて育てるとそうなってしまう事があります。

誰に聞いたら良いか分からないような手探り状態だったのに、自分一人の力でなんとか課題を克服する方法を見つけた時、あなたは心の中でとても誇らしい気持ちになったのではないでしょうか。この感覚を自己効力感と言います。自分で何かを成し得たというこの感覚は教育心理学の言葉として成立するくらい重要な概念です。

何事かを自分の力で成し遂げる事ができた。そんな自己効力感が得られた時、人は自信を持つ事ができます。そしてもっといろいろな事にチャレンジしようという熱意が湧きます。ところが先回りして教えてしまうと、仕事はうまく行ったとしても、この自己効力感を味わえないで終わってしまいます。

『そうすると失敗してしまうよ、こうしたほうがいい』と先回りして丁寧に教えて貰えて有難いけど、自分自身の力で答えを見つけ出すという快感を味わえないで終わってしまいます。そして仕事がつまらなくなって、この部下も『指示待ち人間』に近づきます。

能動感と受動感の違い

例えばDIYのセミナーに参加して、講師が『ここはこうした方が良いよ』と肝心な作業を全部やってしまって、できた椅子を持って帰らされたらあなたはその椅子に愛着を持てるでしょうか。講師のアドバイスを受けながらも手を出されず、全部自分でノコギリを引き、金槌で叩いたとしたら、多少歪んでいても、釘が途中で折れていても『この部分はうまくできた』と愛着の湧く一品になるでしょう。

指示を出すというのは自分で答えを見つける喜びを奪う行為でもあります。仕事でも苦労はしても自分で答えを見付けたい。自分の力で仕上げたいのに上司が先回りして指示という名の答えを出してしまったら、自分の創意工夫を発揮する部分が無くなってしまい、面白くなくなってしまいます。

自分から働きかけてみたい自分から能動的に動いてみたい。自分で工夫して課題を克服してみたい。これを能動感と呼びます。人間は能動感を求める生き物らしいです。

上司が良かれと思い、失敗しないように先回りして細かく指示を出すと『やらされている感』が強くなります。受動感を強く感じると人間は無気力になります。工夫しようしても先に答えを言われたり『そうじゃない、こうしろ』と自分なりの取り組み方を禁止されたりすると、面倒臭くなり、面白くなくなります。それが続くと『指示待ち人間』ができあがります。

助長

『助長』とは、ある男が隣の畑と比べて自分の畑の苗の育ちが悪いのに腹を立てて一本、一本苗を引っ張り、『成長を助けてやったよ』と満足気だったのが、翌日になると根が切れて全ての苗が枯れてしまった。という逸話から来ています。

上司の中には『出来ない』を『できる』に変える瞬間を部下に経験させてやればいいのだな、『よし、それを手伝ってやろう』と張り切ってしまう人がいます。特に上司になったばかりの新米上司にその失敗が多いみたいです。その行為が『助長』になり易いのです。

上司から『ああすればうまくいくよ』『こういう場合はこうすればいいよ』と親切にアドバイスすると、部下はつまらなくなります。自分が創意工夫する余地を奪われてしまうからです。自分の仕事が自分のものではないように感じられ、『やらされている感』が強まります。そしてやがて上司から命じられるままにだけ動く『指示待ち人間』になります。

上司からすると『俺ってなんて熱心に指導する上司だろう』と自己満足しているかも知れませんが、熱心なあまりに『助長』し、部下の意欲の根を切ってしまっています。つまり、部下のモチベーションを上げてやろうと上司が働きかけると、部下のテンションは逆にさがります。

部下の意欲を掻き立てるには、余計な事をするよりは余計な事を減らす方が余程いい。まさに『一利を興すは一害を除くに如かず』です。

それでは『助長』の男は自分の畑の苗を成長させたいならどうすればいいのでしょう。それは、適切な量の肥料をやり、乾いた日には水をやり、雨続きの日には水抜きをして、苗が育つのに最良の環境を作ってやり、成長自体は苗に任せる。それが一番いい方法でしょう。

部下のモチベーションを直接引き上げようとするより、やる気を下げる要因を除去する事に努力した方がいい。そうすれば、意欲は勝手に湧いてきます。私の場合は若い人が自分と違う案を出してきた時でも出来るだけその人に経験を積んでもらう為に若い人の案を採用し、ワクワク感を持って仕事をしてもらえるように心がけていました。


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