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読書『ザ・フォーミュラ』

アルバート=ラズロ・バラバシ著『ザ・フォーミュラ、科学が解き明かした「成功の普遍的法則」』(江口泰子訳/光文社/2019年刊)を読みました。

自己啓発っぽいタイトルですが、内容を簡潔に説明すると「パフォーマンスが同じ場合、名声を得るものと得ないものの違いは何か」を、統計をもとに解明した本です。フォーミュラとは公式のことです。(有名な本なのでしょうか?僕は存在すら知りませんでしたが……)。

トピックが盛りだくさんなので、印象的なものを書いてみます。

成功の法則が5つ書かれていて、その第一の法則が『パフォーマンスが成功を促す。パフォーマンスが測定できない時には、ネットワークが成功を促す』です。

パフォーマンスが測定できるジャンルの代表は、スポーツです。テニスの世界ランキング1位は、テニス界で1番努力した人と言っても問題ありません。そして、パフォーマンスが測定できないジャンルの代表がアートです。20世紀で最も重要な作品はデュシャンの『泉』ですが、デュシャンが20世紀で1番努力したアーティストとは言い難いと思います。つまり、努力が結果に反映されないのがアート業界です。

言葉を変えれば、アートには、作品の良し悪しを判定する客観的な方法が存在しないということです。では、現に存在する、評価されている作品たちは、何を理由に評価されているのか?……それがネットワークです。つまり、キュレーター、美術史家、ギャラリーのオーナー、美術商、エージェント、オークション会社、蒐集家たちの見えないネットワークが、自らの利益にかなう評価を下しています……。これって、狭義のアートワールドの定義っぽいですよね。

統計から見ると、デビュー後の5年以内にMoMA、グッゲンハイム、ガゴシアン、ペース、Met、シカゴ美術館、NGAなどで展覧会をしていないと、世界的なアーティストにはなれないそうです。マジで悲報!と思ってしまいますが、大丈夫です。その高みから見たら、我々はまだデビューさえしていません(というのが僕の解釈です)。

大切なのは、自分がどのようなアートの社会的なネットワークに属したいかという野心、だそうです。どこに住むとかとは関係なく。

このトピックは、まだまだ展開します。内容が気になる方は、本書を参照してください。これから世に出るアーティストは、まずこれを読んで、正しく絶望した方が良いです。そこからがスタートです。

もう一つ、面白かったのは、論文が引用される研究者の年齢のトピックです。統計で見ると、30〜40歳で書かれた論文が圧倒的に引用されています。グラフで見ると、山の形が30〜40歳でピークになって、あとは右肩下がりに地べたをはう感じです。そこから、優秀な研究には若さが必要とよく言われるそうです。美術界も似たようなものですよね?

でも、これにはカラクリがあって、論文の生産量のグラフを、引用数のグラフと重ね合わせると、ピッタリ一致するそうです。つまり、40歳を過ぎると、論文の執筆量が減るので、引用数も減っている関係です。

そこから言えるのは、アーティストも作品制作数を減らしてはいけないとうことです。まあ、それは、統計を見ずとも、世の巨匠たちを見ていればわかりますけど。例外はあると思いますが、みんな死ぬまで制作しまくっています。むしろ、老いてますます盛んな感じです……。そして本書の最後には、北斎が70代で、あのビッグウェーブを描いた例が記されています。

……あと、もう一つ。大切な教訓をこの本からもらいました。アート作品を客観的に測定する方法がないということは、アートの世界は、「底辺から一段づつ登り詰めてトップを狙う」ものではなく、今の自分の作品がナンバーワンであることを証明する戦いであることです。そこに謙虚さは無用です。これは、個人的に反省……。

#アートの思考過程

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