今年に入って、余裕もないのに2月、4月とヨーロッパに出張している。2月はストックホルム、4月はイタリアとオランダ。いずれも照明関連のリサーチと取材、そして食の探求だ。結果思うのは、投資した費用と時間以上に数倍も得るものがあったということ。普通の観光旅行でもそうだと思うが、とにかく海外に行くと非日常であることに好奇心とアドレナリンが半端なく放出されるのだ。ここでは、イタリアにほぼ絞って書いてみたいけれど、私のテーマである「光 / Light」と「食/dishes」は本当に影響しあい、刺激をもらいあい、互いに"欠かせないもの"であることなのだと確信に至る。
新しいよりも、タイムレス
イタリア、最初に訪れたのはミラノ。毎年4月はミラノサローネ(国際家具見本市)が開催されていて世界中から建築・インテリア、デザイン関係者が集まる。2年に一度、照明に特化したEuroluce (エウロルーチェ)があるので、ここのところ続けて2年ごとに行っている。専門じゃないと、あまり気づかないかもしれないけれど、明らかに形として目を引くものは多くなく、機能や技術の方がどんどん進んでいるのを感じる。
そのおかげで、何十年も前に生まれた名作が復刻したり、愛されてきた定番品もLEDの進化によって継続していくことができる。私は、この流れが気に入っている。時間を経ても古びることなく尖りすぎず、どの時代にも定番となっていくものがある。
テクノロジーの進歩によって、形にとらわれ過ぎたモノは淘汰されていくのだと改めて思った。形(デザイン)の前に照明なんだと。奇抜で斬新で驚きの形で注目を浴びるものでも、照明として機能が追いついていなければ無用の長物だ。これはどんな世界にも通じることかもしれない。
5日間滞在中、夕食は絶対外せなかった。何しろ、ほぼ毎日朝食、昼食抜きで歩き回り86箇所にもおよぶ取材を含む収集をしていたので、唯一の栄養補給が夕食だった。なので"美味しいもの" でなければいけなかったから現地に行く数週間前から綿密に調べ予約を入れていた。ここでも感じたのは、イタリア料理の定番が一番美味しくて、旬の食材を活かしている一皿が心身ともに滋養となった。もちろん、イタリア料理のベースを活かした新しい食材の組み合わせに出会ったのも収穫で、食べていても楽しかった。この新鮮で驚いた美味しい一皿は数年先には愛される新たなスタンダートになっていくのかもしれない、それは一つの"機能"であり、"革新"なのだと思う。
分野が違っても、共通するセンスのよさ
ミラノを後に、北イタリア3箇所のワイナリーへ3日間かけて向かう。ミラノからヴェローナへ。ワインのインポーターさんと合流し、そこからまずは少し北東よりのヴィッツェンツァへ。
兄弟3人でワインをつくっているワイナリーSIEMANは、弟さんの一人は元IT系、長男の方は元会計士だったと。無濾過で有機、料理に合うワインをつくっている。思うに、以前の職業はきっと彼らのワイン造りにも活かされてるはず。経験が無駄になることはないのだ。
翌日は、フリウリへ。ここでまた素敵なセンスを持つ造り手に出会う。Villa Jobという、教会の真隣にあるワイナリー。こちらも有機栽培なのだけど、ぶどうの木が生えている土の香りがとっても良い匂いで綺麗。自生しているハーブが素晴らしく、ワインもふわっとハーブの雰囲気がある。
そして、丁寧につくられたワインのラベルがカッコいい。決して、狙っているのではなくこれも、これからの時代に合う発信なのだと思う。クラシカルなパッケージだけが必ずしもイタリアワインのおいしさを伝えるツールにはならない。そして、巻頭写真は、このVilla Jobのワインパッケージや輸出業務する部屋の入り口だ。今回、一番インパクトを受けたセンスの良いシーン。壁の色、年季の入ったコンソール、そこが置き場所となった赤とゴールドのスタンドライト、寄り添っているように見えるぶどうの木。この切り取ったシーンの一つ一つが持ち主のセンスを語っている。
この後ワインの造り手2組とイタリア最終日を飾るピエモンテで会うのだが、1組とは自営しているレストランで、もう1組とは彼らのワインを扱っているレストランで。
このレストランで食べたカルボナーラのセンスと味、空間のライトのセンスにかなり衝撃を受けた。カルボナーラはいつから、ソースが"かかっている" "かけている" ものというイメージになったのか ? そんな固定イメージを覆されるものだった。そして、ギリギリ目線まで位置を落としてているハンギングライトが、平然と当たり前のようにレイアウトされている。
これが10年以上前によく提案していたハンギングライト。どうしても未だにブランド名が思い出せない。。が、ここで出会えてとっても嬉しかった。時を超えて本当にタイムレスなのだ。隣のなんとかはよく見えるとは言うけれど、必ずしもヨーロッパだからセンスよく見えると言うことではない。本質がちゃんとベースにあり、自分たちのつくり出すものに自信があるから、そのセンスがインテリアにもワインにも、料理にも現れてるのだ。日本も同じことだと思う。
ボーダーレスな創造
宿泊したところは、いずれも個性があったし、そして不便なことはほとんどなかった。何よりも、そこを運営してる側のセンスに脱帽だった。今回はミラノ、ヴィッツェンツァ、スロベニアの国境近く、ピエモンテ、アムステルダムの5箇所の宿泊施設に泊まったが、その中でもピエモンテのアグリツーリズモ、アムステルダムのホテルのセンスは衝撃だった。
ピエモンテは、ミラノがあるロンバルディアの隣でもあり冒頭にも書いたが、ミラノサローネを訪れる人たちも宿泊するというLe Capuccina というアグリツーリズモ。確かに洗練度は感じたが、一番印象的だったのが、夜のアウトドアライトの使い方。
プールサイドのライトアップや、外通路の灯りのセンスも良いが、なんといっても地中埋設ライトの上に風合いのあるガラスボトルを置いてボトル全体がアウトドアライト化させているところ。宿主は、照明やインテリアの専門ではないと思うが、こちらはオリジナルのワインをつくっていたり、ミシュランの星もとっているレストランも運営している。何気ないセンスから柔軟な考え方で見せ方が変わる手本だなと思った。
そして、イタリアの後に訪れたオランダで最後の2日間泊まったのが、SWEETS HOTEL。ここは運河の街アムステルダムに多くある橋の管理室をホテルにして生まれ変わらせた。広さは、ワンルームのアパートよりも狭いと思うのだが、絶妙なインテリア設計で快適であり窮屈な感じが一切ない。効率の良いオペレーションも良いのだが、最大のポイントは窓からの景色。元: 橋の管理室 と言うことは、目の前が運河である。昼間は、大型船が通るとその橋が自動で跳ね上がる(といってもゆっくりと)景色を目の前で見ることができる。
日没後と、朝焼けの景色は言葉にならないくらい美しかった。ホテルの部屋にいながらにしてこの景色を体感するというのは、ここに泊まることでアムスの街の一番の売りを観光できるということでもある。
滞在が2日間だったしアムスは最初の1日だけ、必ず訪れるTIME&STYLE、そしてヘンク・スタリンガのスタジオ(←ここに関して別途詳しく紹介したい) 以外、変な表現になるが、" もったいなくてどこにも行かず ホテルに篭っていた"。それくらいホテルから外に出たくなかった。このホテルのデザインディレクションしたのは、ロイドホテルのディレクターでもあった方だと聞いている。
センスとヒントに境界線なんて無い。上記のカルボナーラの発想のように、物事の創造には分野を超えるクリエイションがあってこそなのだと思う。それが多くの人に衝撃と感動、幸せを与えるのだ。