
セリフで判る人物と背景
今回は、いろんなキャラの口調で書いてみました。
そのヒト、その時代、その世界には、それぞれの書き方がある、という例になればと思います
ふさわしいセリフまわし
シラスでも文章術の配信をしています。
いやあ、説明を言葉でするのって、独りだと、どーっと喋ってしまってダメだけど、誰か参加してくれるといつまででーも話せるものですね。
普段はコメントなど拾いつつなるべく話を広げるようにはしていますが、やはり書き言葉と喋り言葉では勢いと情報量が違うんだよなあ。
色々と促され求められ、其処で漸う、「語彙」の事々なぞお伝えでも致しましょうか、と、考え巡らせていた訳で御座いますが……。ほんに不案内で御座います故、赤恥を掻くのも些か辛う御座います。
んなことグズグズ考えてやがるから、ワッチャぁいっち言ってやったンだ。ウジウジ御託並べてねえでちゃっちゃと説明しちまえコノヤロウってね。
こればっかはいちいち声に出して芝居を打つとなりゃあ、エェ、面倒だ、てなことになるのぁ道理だ。だったらここんとこへ書いちまえばいいと。
其れは然様であるに違いはないが、他に煩わしき難事が或るのも事実相違ない。
たかが語彙と雖も、頭の中の語の数のみに或らず。彼の御仁ならば斯様な口調であるべし、彼なる御婦人ならば斯くの如き言の葉の白玉を散華にも似て振り撒くであろう、などと考えを巡らせ、適宜相応な独白を為さねばならぬ。
要するにさあ、時代がどうとか、ヒトがどーゆーふーなのかとか、その世界がどんなふーなのかってことをさあ、なんていうのかなあ――前もって? そう、前もって、考えといて、それにピッタンコな言葉を選ばなきゃならないってことなんだよねー。
役割語やキャラ語
役割語というのがあるのは知っておるかの? わしのような博士は、一人称が「わし」、語尾が「じゃよ」になるのじゃよ。
現実でこんな言葉を使う者は、まずおらんのう。
しかし、こういう喋り方によって、年配の男性の博士というキャラが立ち上がるという仕組みなのじゃ。
あんなあ、日本語学者の田中ゆかり先生の本にはな、〈方言コスプレ〉ちゅうのがでてくるんや。
これなあ、うち、まだ読んでへんのやけど、お話伺ったとこによると、役割語が浸透してしもて、たとえば学校で「ちょっとおふざけキャラのほうが人間関係やりやすいやんかぁ」とか思た時に、関西出身でもないのにニセモンの関西弁使たりする。キャラ語、て言うてはったと思うで。
関西弁イコール芸人、みたいな先入観あるんとちゃうか?
ま、せんぐりせんぐり関西弁繰り出して、それでうまいこといくんやったら、キャラ作りも無駄とちゃう、ちゅうことやけどな。キッチリ突っ込んでくれる友達作りぃや!
オタク界隈、かてて加えてオタク差別が激しかった時代のことでござるよ。拙者のような武士言葉を使う男性オタクが有象無象おったでござるな。
拙者が思うに、これは「非日常コスプレで現実逃避」をいたしつつ「その言語で遊べる友達関係の確認」をなしていたのではなかろうかと。いやいや、浅薄至極な考えでござるが。愚かさをたとえれば劉禅。中国蜀の二代目皇帝で、その名も高き劉備の長男、幼名を阿斗といい……あ、ここらへんはいい? サビシイでござるが、まあいたしかたない。
閑話休題でござる。つまりですな、これなど、キャラ語を使うことで自分の〈村〉を確立するという、「嗚呼オタク文化を愛する者よ、寄る辺なき民よ、ここへ集え! 共に語らおう!」的な現象だったでござる。
舞台設定と小道具と語彙
例えばわたくしが御姉様の身になる空想に耽るといたしましょう。いえいえ、花の顔、天女の立ち居振る舞いをなさる御姉様にわたくし如きがなろうはずも御座いませんが、ここは何卒御恕し下さりませ。
気高き御姉様が白魚のような御手で御持ちになるのは、ガラスのコップなどでは御座いません。そこは是が非でも〈玻璃の杯〉と……。そうでなければ、御姉様の見目麗しさにそぐいませんもの。
腰を御掛けになる御椅子は、何卒猫脚でありますように。御腰をそっと支えておりますのは、屹度屹度、ゴブラン織ですわ。薔薇や牡丹……嗚呼、それら大輪の豪奢な花は何と御姉様に御似合いになることでしょう!……が、すこぅし枯れた、けれども歳経った豊穣を思わせる香りを放ち、御姉様をお支えしている……。
御姉様にまつわる物事は、斯様でなければ、と、わたくしは思い描いておりますの。
あらあら、貴女はなんと御可愛らしい空想をなさるのでしょう。さすがはわたくしがエスの契りを結んだ仔猫。自慢に思いましてよ。
わたくしたちのように耽美なエスを元のまま描くには、この時代の風俗では無理がある。貴女はそう仰りたいのね。
吉屋信子先生にのめりこみ、中原淳一先生のモガの真似をし、「それいゆ」や「少女の友」を、それこそ瞬きも忘れて見入ったあの時代の小道具なくして、わたくしたちの関係は語れませんもの。
よしやわたくしたちが手を取り合って時を超え、先の世に生まれ直したとしても、綺麗なもの、美しいもの、仄かなもの、幽玄をたたえるもの、そのようなものどもに心奪われる感性でなければエスの契りは伝えられませんわ。
時代小道具や言葉が使えないとしたならば、せめて、機械の端の丸みに指を這わせて貴女の頬を想い、化繊の布を纏っては貴女の軀の冷たさを想う、そのような心地でいるでしょうね。違うかしら?
わたくしが彼の世で、もっとおきゃんな性格であったとしたら、貴女への「食べてしまいたい」ほどの愛は、「食っちまいたい」などと漏らしているかもしれませんわね。
同じ気持ちなのに舞台によって表し方が違うだなんて、沙翁であればどのように書き分けたか、ほんに興味が尽きませんわ。
ほんっと、おめえが何言ってんだか俺には判んねえけどよ。
少なくとも俺の〈世界〉を書くつもりなら、リサーチってのが必要じゃね?
ツッパリとか暴走族とかってのはもう廃れてっけどさ、やっぱ、特別な用語ってのがあるじゃん。
なにもアヤつけるつもりはねえよ。ただ、いろんなヒトがいるんだから、判んねえって泣きを入れたりイモ引いたり(ビビる)するより、ちょぉーっと力こめて、それらしいことしろってだけだ。
俺らの暗語で「画を書く」ってのがあってよ。ま、騙すとか陰謀とか、そんな意味っつーか。
テメエでないモノを書くんだったら、ヌケのない画を書いて、相手にイイユメ見させてやれって言いたいね。
途中で、おや、なんてぇことで疑われたら、ユメなんかイッパツで醒めちまう。こっちのやることなすこと、目ぇ引ン剥いてシキテンをキって(見張っている)やがるヤツがごちゃごちゃいるんだからよ、アミかけ(取り締まる)られないようにシゴトしねえと。
調べましょう!
それで、実際はどうするのか、という問題が持ち上がってきますね。
専門書を読む、その風俗を描いた作品を読む(一次資料ではないので慎重に)、人となりを表す口調を真似る、界隈用語を使う、などなど、もうそこは調べ倒すしかないと考えます。
それでも、この原稿のように、間違いやツッコミどころ満載の作品になってしまうかも。
だって、私、そのヒトじゃないんだもん(開き直る)。
まあ、最後のキャラが言うように「イイユメ見せる努力」だけは忘れないようにしたいと思います。
てなことで。どっとはらえ。
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