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出演料のいらないハリウッドスター

それは、ゾンビだ。

ウィル・スミスとゾンビの知名度はどちらが高いだろう。
アンジェリーナ・ジョリーと隕石はどちらが有名だろう。

ウィル・スミスもアンジェリーナ・ジョリーも出演してもらうには何十億円もかかるけど、同じくらい派手かつ有名なゾンビはタダで使える(もちろん俳優の人件費はかかる)。

つまり、ゾンビは「出演料ゼロのハリウッドスター」である

という暴論。

いちおう理由を整理すると、以下。

①ハリウッド映画がルーツかつハリウッドスター並に世界的知名度が高く、
②ヒキになる有名な見た目(スター性)を持ち、
③襲われるというハラハラドキドキをつくれるのに、
④権利者がいないのでコピーしても無罪だし、
⑤特定個人ではないので、意味と機能を再現するのが容易


とくに理由④と⑤は大きい。

④コピー無罪
これが最強。堂々と真似できる。ゾンビ自主映画が故・ロメロに訴えられたという話は聞いたことがない。

⑤再現が容易

・極論、血糊と演技だけでほぼ再現可能
・その演技自体も独特のオーラや凄みが必要ないので容易
・見た目もメイクをがんばればまぁまぁの完成度に持っていける
・特定のコスチュームがない(普段着をそのまま使える)

これは扱いやすい。そのわりにおもしろくできる。コスパが良いのだ。

ゾンビと似たモチーフに狼男やフランケンシュタイン、吸血鬼、ミイラ、あとはサメなどの有名なムービーモンスターたちがいるが、それらの利便性はゾンビほどではない。

狼男、フランケン…それらしくするメイクがけっこう大変
吸血鬼、ミイラ…それぞれ犬歯、包帯だけでそれらしく再現できて簡単だけど見た目が地味、もしくはしょぼくなる
・サメ…論外である。撮るのは無理だしCGでもきつい。逆手にとって遊べばシャークネードはできるけど、自主映画で背びれだけでやったところで相手は皇帝スピルバーグだ。やめといた方がいい(逆に勝ったらすごい)。

というわけで、自主映画にゾンビものが多いのはゾンビが好きな人が多いのもあると思うけど、言語化して明言してないだけで上記のような理由もあると思う。自主映画でエンタメしようとすると自然とゾンビ映画が選択肢に入ってくるのだ。たぶん。

ジャンルとして定着してるから、固定ファンもいる。リーチしやすい。

つまり、ゾンビという設定とビジュアルでケレン味を担保したら、内容で勝負できる。地味だけど良い話を思いついたら、それが映画などの映像作品だとしたら思い切ってアレンジしてゾンビものにするだけで最地味映画よりは観てもらえる率が格段にあがるかも。

そしてゾンビは見た目が再現しやすくて便利なのに加えて、音でも扱いやすい。常にうめき声を出してるからだ。吸血鬼や狼男と違って、姿すら映さなくてもうめき声だけで存在を表現できる。

そもそも、音は便利だ。
映像より用意しやすいのに、映像より説得力がある。

目で確認、把握できない情報なのでハラハラドキドキさせるには音は映像より重要かもしれない。

僕が尊敬するジェームズ・キャメロンの『エイリアン2』でも、水平方向の動体感知センサーの音が、エイリアンが近づくにつれて速くなるシーンは非常に怖かった(キャメロンの監督術に興味を持ったらこの記事へGO!)。

ゾンビもので、車で山に避難して夜ラジオをつけて「都内は全滅です」というニュースが聞こえるシーンをつくれば、実際に都内が全滅したシーンを一生懸命CGでつくるよりよっぽど恐怖をつくれるだろう。そこに近くの茂みからうめき声と木をかき分ける音が聞こえてきたら一丁上がりだ。

もしくは先に地下の避難所に逃げた恋人に電話するシーン。電話に出たのに恋人の声はせず、スピーカーからたくさんのゾンビのうめき声が聞こえればそれは、しょぼメイクのゾンビにかこまれた女優が「キャー!!!」と言うのを撮るよりよっぽど怖い、はず。

うーん、考えれば考えるほど便利だ、ゾンビ。




------ここから自作の宣伝に入りまーす------

実はゾンビと同様、著作権フリーかつハリウッド由来の知名度があるスターがもうひとりいる。

隕石だ。まぁ衝突シーンをつくるのは無理だけど、物語に登場させること自体は何十億かけなくても、可能だ。伊坂幸太郎の『終末のフール』は100億円なくても映画化できる。

もともと隕石モノやらディザスタームービーが好きだったからというのもあるが、自分も自作でありがたく隕石ならぬ"彗星"というモチーフを使わせてもらった。(いまのところミミ・レダーにもマイケル・ベイにも新海誠さんにも怒られてないし、本多猪四郎さんに夢で怒られることもない)

しかし彗星(隕石)がゾンビと比べて弱いのはその再現難易度だ。

隕石や彗星の衝突シーンを自主映画でやるのは不可能だ。不可能ではないけど、どうがんばったところでお客さんはILMが何十億もかけてくつったシーンと比べることになる。

だから拙作『東京彗星』では、"彗星が衝突する"と発表されるニュースや、そうなったときに起こるであろう社会的な変化とドラマを駆使して、隕石(彗星)さんというハリウッドスターにご出演いただいた。

ゾンビで言うとゾンビそのものは映さず、ゾンビが発生したニュースやゾンビを見た人のリアクションで表現した感じである。

デスクトップで捏造できるビジュアルはいくつか用意した。
観測衛星でとらえた写真、衝突ルートの図、彗星など。

衝突のシーンはハリウッド映画のように様々なアングルでダイナミックに描写することは難しいし勝てないので、固定カメラで遠景。
登場人物が目撃するシーンを客観で描くのではなく、その映画の中の世界の人々が目撃するのと同じもの…お天気カメラに捉えられたニュース映像ということで表現した。

劇場公開を狙った映画ではあるけど、テレビ画面で観るとそのカットはそのあいだだけ、画角的にも完全にテレビに映ったニュース画面そのものになる。映画と現実の垣根を超えるといったら言い過ぎだけど、そんな感じの効果を狙ったショットである。

音に関しては『東京彗星』では頻繁に彗星の接近と避難を伝えるラジオニュースを使った。現役アナウンサーの友達に読んでもらったのでその音声情報自体はもはや"完全に本物"である。他にも、

・避難を促す市内放送
・避難サイレン
・スマホに届く警報の音
・ニュース速報の音

などを駆使した。特にサイレンは便利で、ただ人ちゃんとが映っていないだけの普通の東京の空撮フッテージに、鳴り響くサイレンの音をのせるだけで、"緊急避難で人がいなくなった東京"というスケールの大きいカットをつくることができた。

サイレンはサイレンである。音質やミックスの差はあれど、ウィル・スミスの映画で鳴るサイレンと、僕の自主映画『東京彗星』で鳴るサイレンに、実質差はない。そういう工夫で細かく勝負していった。制作過程や想いは前回の記事でまとめてあるので、よかったら読んでみてください。

このように、ゾンビや隕石などの"出演料ゼロのハリウッドスター"を誰もやらなかった方法でうまく使えば、100億円なくても100億円映画と戦うことはできるはずなのだ。

ビッグ・ビジュアルがなくても、ビッグ・ストーリーはつくれる。

少なくとも映画1本に100億かけられない日本発の実写映画で、芸術映画じゃなくいダイナミックなメジャーエンタメ映画で、世界(主にアメリカ)の映画と本気で戦うには、それしかないと思っている。まぁ最近はハリウッド映画よりキラキラ邦画が稼いでるけど、国内に閉じた映画ばかりじゃ、ジャパンはクールじゃない(海外映画祭で賞獲ってから言えよ、と思ってもそこはぐっとこらえてくださいな)。

ウィル・スミスもアンジェリーナ・ジョリーも出てないけど、ハリウッド出身の隕石ならぬ彗星にご出演いただき、なおかつ大西利空、篠田諒、榎本"CHAMP"光永、その他たくさんの素敵な役者さんたちが出てくれた短編映画『東京彗星』は今週末24日(日)二子玉のショートショートフィルムフェスティバル&アジア2018 Cinematic Tokyo部門内で上映があります。予約満席ですが、当日券あるかも。

23日公開、ゾンビ映画に革命を起こしたと言われてる『カメラを止めるな!』(超観たい)のあとは、是非二子玉へ。チケットは無料だから『東京彗星』は今回に限り…

観賞料のいらない、ハリウッド(を意識した)ムービー。

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また映画つくりたいですなぁ。夢の途中です。