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地域の神輿を担いでみたい…。

小さい頃からの夢と言うほどのものじゃないけれど、ずっと強く心の中に留まって、ふとした時に思い出す憧れがある。

夏が来ると大人になった今でも、繰り返し蘇る、淡い思い。どこかに行く予定もなく、暇を持て余して寝てばかりいた小学3年生の夏の記憶。

遠くから聞こえてくる掛け声に誘われて団地の玄関を飛び出すと、ジリジリと照らされたアスファルトの道路を威勢のいい掛け声とともに、活気と男らしさを従えてやってくる大集団。

みんな誇らしそうに、わっしょい!っしょい!わっしょい!っしょい!と合いの手をリズミカルに打ち、その日ばかりは道路のど真ん中を練り歩いている。
普段は無口な同級生の大崎くんが男の顔をして集団にまぎれている。

生来自分には持ち得ていない覇気に見惚れて、僕の団地まで来ないかと眺めていると、僕の団地の前、道一本分だけ越えずに引き返して行った。アスファルトから立ち昇る熱気の向こうで、陽炎の如く淡くゆらめいて遠ざかっていく人たち。

僕は担げない側なんだ。

気がつくと僕の横には授業中にゲロを吐いてゲッ君とあだ名がついた田所くんと、不登校のトモくんという同じ団地に住む同級生の友達が横にいた。
トモくん、今日は出て来れたんだね。
恐らくみんな同じ気持ちを抱えて眺めていたと思う。

あの神輿を担いでみたかった…。

あの神輿を担いで道路のど真ん中を男の顔をして練り歩いてみたかった。
そして、担ぎ終わった後は大人に囲まれて、打ち上げで振る舞われるであろう唐揚げとか男らしく食べてみたかった。

僕の住む団地という新興住宅には文化がなかった。
そして、祭りや神輿を担ぐなどの、地域をつなぐ行事もなかった。
道一本挟んで叶わなかった夢と憧れ。
それは大人になった今でも叶わないままでいる。

地域や文化に強い憧れを持ちながら、それを叶えず生きて来た人生がある。
あの中に入ったら、、、何度もイメージした頭の中の僕は、眉間に皺を寄せ、男の顔をして威勢の良い掛け声をかけている。

人生で叶わぬことはたくさんあるけれど、これは死ぬまでにはどうにかなるのではないかと思う類(たぐい)の夢や憧れな気がする。

地域の神輿を担いでみたい…。
どさくさに紛れての参加でもいいから。

少年時代に感じた夏の暑さとは比べものにならないほど熱かった今年の夏にまた思い出したことを書いてみた。

夢や憧れを一つずつ叶えて、人生悔いなく生きていきたい。
でも、青春時代が美しいのは叶わなかったことがたくさんあるからだと聞いたことがある。

神輿はおそらくだが、すごく肩が痛いと思う。。。
青春のように叶わぬ思い出でも良いのかな。

そんなことを思い出して、頭の中を行ったり来たりしていたら、もう一つの夢、
ゴールテープを破ってみたい…
そんな青春時代の夢の話を、また別の機会にでもしたいなと思い出す。


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