My Love〜高校生編・最終話「さよならの向こう側 -前編-」
裕華は不安そうな表情を隠さずに静かに切り出した。
「ヒロちゃん、うちのお父さん、転勤が決まっちゃった…函館に…。」
「あ、そうなの、でもお父さん、単身赴任だよね?」
「いや、今回は家族で動くことになったの…。」
「え? ど・どうしてぇ?」
「元々函館生まれのお父さんだから、今になって会社が専門のポストを用意してくれて、函館で骨を埋めてくれ!と言われたらしくて…
お父さんもその会社の心意気をとても嬉しく感じて……だから、ぜひ家族でって……。」
「…裕華だけでも残ることはできないの?」
「お父さんが許してくれなかった……。」
「……どうしようもないの?」
「うん、今度の異動はお父さんにとっては栄転だから…だから家族で動きたいって……私達…離れ離れになっちゃうよ!そんなのいやだぁ~。」
裕華がそう言いながらメソメソしはじめた。しかし僕はなぜか冷静だった。そんなの、どうにでもなるだろうと思っていた。
真面目に僕は裕華を自分の家に来てもらってせめて高校卒業までは一緒に通うように裕華の両親に頼み込もうと思った。駄目なら僕が函館にいけばいい!
僕は子供のような、我がままな駄々っ子のような稚拙な考えでいた。
「大丈夫、裕華、僕がなんとかするよ。だから泣かないで!」
冷静に考えていたつもりだが…冷静に考えると、どれもこれも非現実的な、実現不可能に近い事ばかりだった。だが僕はあきらめたくなかった。あのとき、心に誓った言葉があるからだ。
「もっと裕華のためにそばにいよう、もっと裕香を愛してあげよう!」
遠くへ行ったからといっても2人の心は変わらないと思いたいけど…そばにいる事の出来ない刹那さは想像もできない…。
だから、諦めたくはなかった。最善のことはすべてしようと思った。
僕はその日の放課後、すぐ裕華のうちに行った。もちろん裕華と一緒に……。
お母さんとは3回ほど会っていて、僕らの交際を快く思ってくれている、いわば「味方」お母さんにその事を言うのは筋が違うとは思ったが裕華をこの街に残してもらえないか?とお願いした。
しかし裕香のお母さんからは良い返事を頂くことはできなかった。お父さんにも会って土下座する覚悟まであったが裕華とお母さんの反対でそれは無念にもNGとなってしまった…。
裕華のお母さんが口を開いた。
「荒木君、ごめんなさいねね…今回こんな形になってしまって、でも月に1.2度は釧路に出張でくるはずだからそのときに裕華を連れて来て顔を会わせるという事でしか会えなくなっちゃうね。おばさん…できるだけ応援するから許してね、荒木君…。」
「それでおばさん、旅立つのはいつですか?」
「25日の日曜日よ。」
「え~? 随分と急ですね……わかりました。いろいろ…すみませんでした。」
僕は裕華の家を出た。裕華はバス停まで見送りに着いてきてくれた。
わかってはいたが16歳の未成年の力というのはこんなにもひ弱で、こんなにも小さなものなのかということを思い知らされた。どうにもできない自分が悔しくて仕方がなかった。
しかし、隣にいる裕華はなぜか静かに微笑んでくれた。
「ヒロちゃん、私、正直ヒロちゃんがそこまでするなんて思っていなかった。なんか、とてもうれしい…。もう絶望的だけど会えない訳じゃないし…手紙も写真も、電話もできるし、月に一回くらいは会えるんだし、ねっ…。」
「でも俺、裕華とできるならそばにいたい!裕華が会いたいときにいつでも会ってあげられる距離にいたい。」
「ヒロちゃん……ヒロちゃんの気持ちはとても嬉しいし、よくわかるけど…それはどうしようもないのよ……でも私ね…今、嬉しいんだぁ…ヒロちゃんの心はどんなに離れていても、もう絶対に裕華しかないんだなぁって確信できたから……だから、こう言っちゃおかしいけれど、そんなに辛くないんだ……変かな?私…。」
裕華は僕の知らない間に随分と大人になった。知りあったときはこんな事が言えるような子ではなかったのに…。
いろいろな事があった約半年の恋、裕華は立派に大人の女性になった。それに対して情けないのは男の僕だった。そばにいないと心動くかも?という自信のなさ、男の性(サガ)ともいうが肉体的な存在がやはり必要なのだ。男というのはダメな生き物だとつくづく思う。
どちらにしても時間がない。何かサプライズなことをしたい。僕は今度の18日の日曜日、裕華とおそらく最後になるデートに誘った。
ヒロちゃん、最後にいい思い出作ろうね…。」
最後じゃないことはわかっているはずなのに…
会おうと思えば会えるのに…裕香の一言、一言が僕の心に染みた。
二人とも針1本で一瞬にして弾ける水の入った風船のような心境だった。
〜最終話・後編に続く〜