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第2回:難しくないジャズ

Spotify Podcastの新番組「Happy Sad Song」。
サウンドクリエイターの草野洋秋とトリリンガル・シンガーのジナが世界中の様々な音楽を紹介してゆきます。
第2回目は「難しくないジャズ」というコンセプトの下、ジャズに関わるアーティストだけではなく、音の響きがジャズ寄りでありながら優れたメロディや音作りが特徴的な作品を集めました。

[今回ご紹介する楽曲]


1.Jesus etc / Norah jones

原曲はオルタナティブ・カントリーロックバンドのWilcoの楽曲で、ここではノラ・ジョーンズがカバーをしています。
切ないメロディで、恋人を静かに励ますような一曲となっております。同時に、高層ビルが崩れてゆく描写がアメリカの9.11の事件を彷彿とさせる楽曲でもあります。

ノラジョーンズは2002年リリースの1stアルバム「Come away with me」がグラミー賞の複数部門で受賞し、現在のブルーノートレコードを代表するミュージシャンの一人になっています。(サイドプロジェクトのLittle williesやPuss n Boots等のバンドメンバーとしても活動)

ノラ・ジョーンズはインドの有名なシタール奏者であるラヴィ・シャンカールの娘さんでもあり、異母妹にシタール奏者のアヌーシュカ・シャンカール、従兄弟にはインド音楽とロックミュージックの融合を試みたミュージシャンのアーナンダ・シャンカールがいます。
(お父さん、妹さん、従兄弟さんがインド楽器のシタールを主に使用するのに対して、ノラはピアノを用いたジャズサウンドを聴かせます。彼女はアメリカのテキサス州で育っており、アメリカのジャズやカントリーミュージック、ソウル、ロックの要素をその楽曲から感じる事が出来ます。
お父さんのラヴィ・シャンカールはビートルズのジョージ・ハリソンにシタールを教えた人物でもあります)

2.Too young to go steady / John Coltrane

ジョンコルトレーンがメロディを歌うようにテナーサックスを吹いているアルバム「ballad」の一曲です。アルバム全体がこういうしみじみと一人で聴ける雰囲気の曲ばかりで、仕事に疲れて一杯バーで飲むような時に、大変おすすめな作品となっています。
この「Too young to go steady」は元々ナット・キング・コールが歌ってヒットした楽曲です。

収録メンバーは、コルトレーンの代表作を多く支えたカルテットで編成されており、詳細は下記の通りです。

・テナー・サックス:ジョン・コルトレーン
・ピアノ:マッコイ・タイナー
・ベース:ジミー・ギャリソン
・ドラムス:エルヴィン・ジョーンズ

旧ブルーノートレコード社長のアルフレッド・ライオンのインタビューを読むと、ライオンにとって悲しかった事の一つは、ジャズミュージシャンにギャラを払う時、彼等がそれを薬物の購入に使ってしまう事だったと語っています。
(コルトレーンがブルーノート・レコーズに残した作品「Blue train」を作った理由は、彼がドラッグを欲していたためだったという逸話があります)

コルトレーンのドキュメンタリー映画を観ると、努力家な人物像が伝わってきます。自宅の2階に数週間閉じこもり、薬の禁断症状を堪えて薬物を断つ事に成功したり。練習熱心で家族に心優しく、音楽を探求する人柄に触れる事が出来ます。
(コルトレーンがマイルス・デイヴィスのカルテットに在籍していた時期を振り返った)マイルスのインタビューを聴くと、「あいつはいつも、(テナーサックスを)どう吹いたらいいかを俺に尋ねてきた」と語っています。

3.Down in the Seine / The style council

1985年にリリースされたアルバム「Our favourite shop」に収録されている一曲です。スタイル・カウンシルはそのグループ名の通り、様々な音楽スタイル(ソウル、ジャズ、ファンク、ボサノヴァ、室内楽、ネオ・アコースティック、ハウスミュージック等)をアルバム毎に聴かせるグループでした。

リーダーのポール・ウェラーはThe Jamというイギリスのモッズ バンドで人気を博していましたが、自身の幅広い音楽嗜好を発揮するためにThe Jamを解散させて、キーボード奏者のミック・タルボットと組んだのがこのスタイル・カウンシルです。(その後、ポールウェラーはソロになってブリティッシュ・ロックの大御所的な存在になってゆきます)

「Down in the seine」ではドラムのスティーヴ・ホワイトがスネア・ブラシを用いて繊細でテンポの速い変拍子のドラミングを聴かせてくれます。
(スティーヴ・ホワイトは、ポール・ウェラーがソロになってからも2000年代途中までドラムを担当しているのですが、「スタイルカウンシル時代は、(ロック的な)バックビートは叩かないように言われていた」とインタビューで語っています。スタイルカウンシル解散以降は、彼は武道を始めて身体作りを行うと共にロック寄りのドラミングになってゆくのでこの時代の対照的なサウンドが面白いです。)

4.Jesus children / Robert grasper

スティーヴィ・ワンダーのカバー楽曲で、オリジナルは70年代のスティーヴィ・ワンダーの名盤アルバム「inner visions」に収録されています。
このカバーバージョンのボーカルで参加しているレイラ・ハサウェイは70年代に活躍したシンガーソングライターのダニー・ハサウェイの娘さんでもあります。

鍵盤プレイヤーであるロバート・グラスパーはブルーノート・レコーズに所属して、現代的なアプローチでジャズアルバムをリリースしていましたが、2012年リリースのアルバム「Black Radio」ではネオ・ソウル系(ソウルミュージックとヒップホップやジャジーなサウンドを掛け合わせたサウンド)のシンガー達とのコラボ作品が増えてゆきます。音作りにもボコーダー(歌声をシンセサイザーに通して機械的なサウンドにする)を使用したり、ヒップホップの様なボトムの太いドラム音を多用したり、歌ものとして洗練された楽曲を聴かせています。その後、本作の続編的な作品「Black radioⅡ」と「Black radioⅢ」をリリースしています。
(この曲を含むアルバム「Black Radio」はグラミー賞で最優秀R&Bアルバム賞を受賞。現代のブルーノート・レコードを代表するミュージシャンの一人となっています)

2016年にはマイルス・デイヴィスが生前に録音した楽曲のトラックを使用して、ロバート・グラスパーと仲間達が独自に音を加えた再構築作品「Everything's beautiful」をリリースしています。(おそらくオリジナルの録音の合間に収録されたであろうマイルス・デイヴィスの声すらもサンプリング素材として楽曲に使用しています。)


[Happy Sad / 草野洋秋 プロフィール]

Happy Sad ホームページ:
- HAPPY SAD / Sound designer Hiroaki Kusano (happysadsong.com)

作曲作詞、歌、楽器演奏、録音、ミックスまで一人で行うというスタイルで活動する サウンドデザイナー/シンガーソングライター。2013年、表参道ヒルズにて開催されたMTVとLenovo 主催のクリエイターコンテスト「CO:LAB」にて、自作曲 「Everyday」が国内DJ部門優勝/ファイナリストに選出される。

並行してゲーム作品のサウンドクリエイター職として多数の作品でサウンドディレクションとサウンド制作に参加している。
(Netease Games, Funplus, NHN Playart株式会社, 株式会社スタジオキング,
株式会社ノイジークローク等のゲームパブリッシャーやサウンド制作会社においてサウンドディレクター/サウンドデザイナーとして数多くのコンテンツ制作に関わる)

近年では、CM広告音楽やTV番組BGM、海外アーティストの楽曲リミックス制作等にも参加。BGMや効果音の制作、映像に対して音を付けるMA作業、そして作品全体のサウンドイメージを提案 / 映像側や企画側の要望をヒアリングして音に落とし込むサウンドディレクション業務まで包括的に対応。


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