フィッシュマンズ「King Master George」山中湖レコーディング その2
闘魂2019の配信の余韻が素晴らしすぎて中々筆が進まない。ノイキャンイヤホンで聴くと各楽器の分離と配置とダブの空間が素晴らしくZAKの仕事っぷりにねじ伏せられる想いだ。
フィッシュマンズの山中湖レコーディングの記事はおかげさまでビュー件数が一番の記事になった。山中湖スタジオについても記憶が曖昧になっていたので検索して調べてみたところ山中湖スタジオは当時はビクタースタジオの傘下にあったリゾート滞在型音楽スタジオで現在は「サウンドビレッジ」という会社が施設が管理している模様。1989年の設立だから92年5月頃の「King Master George」レコーディングは比較的新しかったのだろうか。90年代の音楽産業華やかりし頃はこのようなリゾート地に宿泊・滞在出来るスタジオがいくつもあってバンドやアーティストが自然の中で集中して制作に取り組むと言うウッドストックに設立したベアズヴィルスタジオのような様式を目指したものだったと思う。
http://www.soundvillage.co.jp/index.html
上記のリンク先のHPの中に写真があって内装が若干変わっているけど恐らく「山中湖スタジオ」というのがフィッシュマンズがレコーディングしていたスタジオだったと思う。スタジオと客室が繋がっていて「映画フィッシュマンズ」のシーンで風呂上がりの欣ちゃんがインタビュー風にコメントしたりハカセがファミコンやっていたのもその客室(リビング?)的な場所だったはずだ。
そして問題の時は来た。「フィッシュマンズ全書」でも「King Master George」のプロデューサー窪田晴男さんがコメントを寄せているが「放課後」と呼ばれていたらしい夕食後の自由な時間でスタジオで遊ぶチャンスに出くわした。すでにそれが自分がスタジオに来る前の何日にも行われていたかどうかはわからないがスタジオにはいち早く佐藤くんが一人で演奏をしていたのを発見し僕は必死でカメラを回した。「映画フィッシュマンズ」の予告編・第2弾ドアタマでドラムキットに座った上半身裸の佐藤くんがカウントしながらドラムを叩き出すあのカットもその時のもののはずだ。映画ではカウント部分しか使われていなかったが続いて叩き出された佐藤くんのエネルギッシュなパンクドラミングがすごかった。佐藤くんはまるで音楽の塊のようだった。佐藤伸治という音楽の神の動く映像をついに間近に収めることに成功したかのような高揚した気持ちがあったことをあの映画予告編で思い出した。
そのうち他のメンバーもスタジオに入ってきて自分の担当楽器以外の楽器を手に取りジャムを始める。今度は佐藤くんはベースを手にしていた。オルガンに小嶋くん、ハカセはギター、譲くんはサンプラーを弄っていた。ドラムキットには結局、欣ちゃんが座った。スタジオの中にはローディのフクちゃんは残っていたかも知れない。コントロールルームには窪田さんとエンジニアの藪原さんとディレクターのY君が入ったので自分もスタジオの外からカメラを回すことにした。窪田さんがコントロールルームから「録り始めるから、好きなように何曲でもやってくれ」と全書には記述されているが実際どうだったか全く記憶にない。
ベースを持った佐藤くんもすごかった。低い位置のストラップで決めてやはりパンクっぽいリフをガシガシ弾いていた。欣ちゃんと小嶋君の二人、THE BOTTOMSがそれについていくイメージで何パターンか試していたようだったがしばらくしてそれも落ち着くと譲君のサンプラーで足音が刻まれ始めた。あの曲の始まりだ。初めは足音のテンポで刻まれたゆったりしたインプロビゼーションで佐藤くんが弾くベースラインはまるでキング・クリムゾンの「暗黒の世界」のようだなと思ったが途中からアップテンポのリフを佐藤くんが弾き始めると小嶋くんのオルガンもヒートアップしていく。フィッシュマンズのオリジナルトリオ、THE BOTTOMSのコンビネーションに驚愕させられる。小嶋くんに鍵盤の心得があるとは聞いたことはなかったが見事なインプロビゼーションだと思う。CDではここにミュートトランペットソロが入っているがこれは後からダビングしたもののはずだ。ハカセのエコーがフィードバックするダブギターも後から処理したものじゃないかな。譲君は淡々とサンプラーの足音を刻んでいたと思う。それほどオリジナル・メンバー3人のコンビネーションは凄まじくて演奏が終わった時はすごいものを見てしまったと記憶している(こればっかり笑)。とにかくこのものすごいインプロビゼーションもビデオに収めることに成功した(ハズだ、このビデオ、今はどこにあるのだろうか)。
その後、コントロールルームでのプレイバックもあってメンバーも窪田さんも演奏の出来に満足したのかこの日の「放課後セッション」は多分これで終了だったはずだ。翌日もレコーディングは続くのだがそのことは別の回に書こうと思う。それからCD「King Master George」のサンプルが上がってくるまで僕はこのインプロ曲がアルバムに採用されたことを全く知らなかったのでCDを再生しながらこの曲が入っていることに驚いた。トランペットがダビングされてエレクトリック・マイルスみたいにかっこよく仕上がっていたことにさらに驚きながらなぜ「トナカイ」という曲名になったのかも全くナゾだった。今でも海外のサイトとかで「Reindeer」というタイトルで紹介されているのを見るととてもおかしな気持ちになる。
《追記》
「映画 フィッシュマンズ」予告編第2弾に使われていたドラムキットに座る佐藤くんの映像について叩き出したのはパンクドラミングと書いたもののあのカウントのテンポでパンクドラミングは無いかなと思い始めて来た。映画本編ではカウント後のドラミング映像も使われていたっけ?記憶が曖昧です。ベースを持った時もドラムを叩いている時も佐藤くんのパンキッシュな振る舞いの印象が自分には強すぎるのかも知れない。
もう一つ「闘魂 2019」のエンドクレジットに 福岡 司(黒澤楽器)さんのお名前を発見して嬉しい気持ちになった。譲君からもフクちゃんから今でもサポートしてもらっていると聞いていたしフィッシュマンズの絆はすごいなあと思う。
《さらに追記》
3回目の鑑賞@立川シネマシティでドラムキットの佐藤くんがカウントの後に叩き出したのはパンク・ドラミングではなくレゲエ・ドラミングだったことを確認。あと上半身ハダカでベースを低く構えているカットもあったので間違いなく「トナカイ」の映像はあるだろうと思った!