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赤いキノコへの興味は……
南方熊楠の名前は知っていた。彼が博物学のすぐれた研究者だとの知識もあった。しかし、隠花植物、とりわけ、キノコの研究にすぐれた業績を上げたというのを昨夜のテレビ番組で知った。そこで、この冬から見慣れていた赤いキノコにも、あらためてひかれたのだろう。
名前は見た目のとおり緋色のキノコ、「ヒイロタケ」である。伐採され、空き地に転がされたクヌギの木に生えている。もうずいぶん長い間、ヒイロタケは頑張ってクヌギの木に寄生したままだ。久しぶりに近寄ってみると、冬よりもさらに大きくなっていた。
キノコの知識は皆無である。都会育ちならずとも、キノコを熟知するには、生半可の環境では無理だ。飛騨高山を訪ねたとき、朝市で地元の人が採取してきたキノコを売っていた。そこでも、しきりに注意をうながしていたものだ。
スイスを訪ねたのは秋だった。これからの季節、キノコの図鑑を手に、人々が森へ入っていくという説明があった。そして、年に何件も毒キノコによる中毒事件が発生すると聞いた。ぼくにとって、自然界のキノコは恐怖以外のなにものでもなかった。
群馬や長野では、地元の方からキノコをもらって食べたことがある。オッカナビックリだったが、彼らが食べるつもりで採取したのを分けてもらったので、「まあ、大丈夫だろう」と思って、それでも緊張しつつ食べている。
このヒイロタケに毒はないが、無味無臭の上、食感からも食用には適さないという。しかし、赤い天然色素を持つので「きのこ染め」に使われていたという。かつては、キノコまで使って布を染めていたのをヒイロタケで知った。
ただ、この倒木には、もうひとつ、白いキノコも生えている。ヒイロタケが古くなると白みがかっていくそうだ。きっと白いキノコも、元はあざやかな緋色だったのが色があせてしまったのだろう。明日の朝、もう一度、写真を撮ってじっくり見てみたい。