野で飲むコーヒーの味
ひとり暮らしになり、最初のころは、ときどき、外のお店で夕飯の世話になっていた。そのうち、新型コロナウィスルが広まってきたのと、出かけていくのが面倒になり、自炊生活を続けている。
ぼくの趣味が若いころからキャンプだったから、自炊も苦にはならないはずだとかなり誤解されてきた。ほかの人たちはいざ知らず、野で作る食事と家で毎日作る食事とでは、大げさにいえば概念がまるで違う。
たしかに、野遊びでは、食事もそれなりに楽しんでいた。キャンプはバーベキューを楽しみ、食べにいく手段とかたく信じておられる方々もいるが、ぼくはキャンプでバーベーキューをやったことがほとんどない。
あれは準備もあとかたづけも大変だ。ぼくのキャンプは、もっと簡単にチャチャと作り、あとかたづけも楽なメニューばかりだった。それでも晩ご飯は気合いを入れていた。コンセプトは「非日常を楽しむ」なので、メニューを決めるのも苦労したが、かなり楽しめた。
キャンプで作った料理があまりにおいしいので家でも作ったことがあった。しかし、「野外」という究極のスパイスのない野外料理は家だとおいしくない。そもそも野外と家の中とではあまりに環境が違い過ぎる。そのいい例がコーヒーだろう。
野で飲む1杯のコーヒーは至福の味だと、アウトドアズマンの有名人がのたまう。アウトドアにはシェラカップというステンレス製(いまではチタン製が主流かもしれない)のカップがある。このシェラカップで飲むコーヒーは絶品だというが、どんなカップを使おうと、コーヒーをうまいと思って飲んだ覚えがない。
コーヒーのうまさを味わえるのは屋内である。外だと香りが鼻腔に達するより前にサーッと飛ばされていく。野だと香りを楽しめないので、たばこもカラいだけだった。ぼくの場合、屋外でそこそこ飲めたのが、理由はわからないが。昔ながらのインスタントコーヒーだった。