この身体とともに生きて

　 膝の痛みがかなりやわらいできた。シロウト判断だが、痛みは冬のころからの「腰痛」に由来している。30余年の持病である。思い出したようによみがえってはぼくを苦しめる。いっとき、痛みをもたらすが、やがて嘘のように鎮まる。

　数年に一度の頻度が、年齢のせいか、最近はかなり頻繁になってきた。体幹とやらがおかしくなって、腰にきているのがわかる。「体幹」の定義がよくわからないので、ぼくなりのことばに置き換えると「身体がゆがんでいる」のは明白だ。まっすぐ歩けない時期があった。

　この冬の後半は長いこと歩きづらかった。腰を悪化させてしまったのは「速歩」を採り入れたためだ。速歩がわるいわけではない。こと身体に関しては、ぼくは昔からやりすぎる傾向にある。身体をいじめることで、成果を早く得ようとする。若いときだったらそれもよかったが、80歳近い身体には逆効果である。

　たしかに腰は改善し、身体のゆがみも治った。だが、下肢全体に軽い痛みが移っていた。これはいかんと、速歩の距離を縮小した。そして、ある日、突然、左の膝に痛みが生じた。やりすぎた結果であろう。

　よく覚えていないが、10年ばかり昔、同じように膝の痛みに悩まされながら会社へ通った時期がある。膝用のサポーターが薬箱にあった。新しいステッキを買ったのもそのころだろう。まだ会社勤めがあり、犬もいたので気力で乗り切ったはずだ。

　なによりも若さがあった。それでも、会社ではだれにも気づかれないようにとふるまった。ステッキは折りたたんでカバンに入れていたのを思い出した。何食わぬ顔で通勤していたのを少しずつ思い出して苦笑している。

　初夏とともに、痛みがだいぶやわらいできた。もう、だれにもミエをはらずにいられる年齢になっている。とにかく、いま、使わせてもらっているのはさんざん酷使してきた身体である。いたわりながら夏を迎えたい。