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【短編小説】バスに乗ったら30年後の未来に行ったお話~最終話~
【最終話~再び刻み始めた時間~】
【エピローグ~30年後の僕から~】
こんにちは~♪ ヒロのしんです。
いよいよ最終話、そしてエピローグまで行っちゃいます。
思った以上に長いお話になり、さらにファンタジー要素まで結構ぶち込んでしまった本作でした。
今となっては結構寂しい気持ちまりますが、次回作に向けてネタ探し始めております。
それでは、お待たせいたしました。
最後の最後まで読んで頂き、少しでも楽しんで頂けましたら、メッチャ嬉しいです。
【プロローグ~30年前の貴女へ~】
【第1話~彼氏と花火を見に行ってきます~】
【第2話~浴衣じゃないから~】
【第3話~僕の知らない街~】
【第4話~突然の再開~】
【第5話~行くしかない~】
【第6話~30年間の時間旅行の果てに~】
【第7話~家路へと~】
【第8話~茜色の誓い~】
【第9話~時をこえた再会~】
こちら👇️
【最終話~再び刻み始めた時間~】
そして、僕たちは199X年の8月3日に戻ってきた。
30年後の母と別れた後、僕たちはこの時代へ初めて降り立ったバス停へと向かった。
バス停に着くとすぐに(母の言っていたとおりに)誰も乗っていない車内の蛍光灯だけが煌々と輝いているバスが滑るようにして到着した。
バスに乗り込むと、一番後ろの座席に腰を落ちつけた。
そこからの記憶はほとんどない。
バスの窓から外の景色を眺めるも、真っ黒な墨汁で塗り張られたように、何も見えなかった。黒と黒の少しの隙間から、街のネオンがチカチカと光っているのがわかるくらいだった。
その光景に響さんは、一瞬顔を曇らせたが何も感じなかったように、僕の手を握りしめて、身体を預けてきた。
響さんの温もりを繋いだ手と身体の半分に感じながら、僕は寝入ってしまったのだった。
何分くらい経ったのだろう。
バスが右に大きくカーブをしたと思ったら、以前にも感じたことのある衝撃を感じた。
そして次の瞬間、バスの中の空気が一気に押し出されるような圧迫感を再び感じた。
戻ってきたのか。
恐る恐る目を開けてみると、窓には目映いばかりの夏の陽射しが降り注いでいた。
響さんに目を向けると、彼女も寝ていたようだった。
目をしばたたかせながら、僕の腕にしがみついてこう言った。
『帰って来れたの』
「たぶん。大丈夫やと思う。」
「ほら、ここ見て」
彼女は僕の左手首に目をやると、満面の笑みを浮かべた。
そして、僕たちは誰も居ないバスの中で、未来へ行った時と同じようにそっと唇を重ねた。
僕の左手首のアナログの腕時計。
秒針はカチカチと動き始めた。
短針は3時を、長針は30分を指していた。
未来の世界へ迷い込んでから、ずっと止まっていた時間が再び動き始めた。
了
【エピローグ~30年後の僕から~】
30年前の母に声をかけた後、僕たちはアーケード商店街の一角にある喫茶店にいた。
外観は、寂れた昔風情が漂ってきている見た目だが、中に入ると照明がそこそこ明るく、それでいて落ち着いた雰囲気を醸し出していて、何より音楽の趣味が良い。ゆっくり一人の時間を堪能できる僕のお気に入りのお店だ。
お店の雰囲気以上に、ここの一押しのポイントは、バナナ&イチゴのチョコパフェである。
バナナとイチゴをふんだんに盛り付け、これでもかと言うくらいにチョコレートソースがたっぷりとかかっていて、控えめに言ったとしても、パフェ界隈で僕史上1位・2位を争う絶品なのである。
そんな、僕おすすめの店ではあるが、僕が見つけて来たわけではない。
実は、小学校の時に母に連れてきてもらったのが最初だ。
『ここね。』
『お母さんの恩人に連れてきてもらった場所なの。』
唐突に、あの頃の母の言葉が蘇る。
(そっか、そう言う事やったんやね。)
それまでのモヤモヤが、霧が晴れ渡るように視界がクリアになって行くのを僕は感じていた。
僕の目の前には緊張の面持ちで座っている母と4歳の男の子。
2歳の男の子は、母の腕にしっかりと抱かれていた。
そして、テーブルにはアイスコーヒーが二つにオレンジジュースが一つ、さらに僕おすすめのパフェが運ばれてきていた。
その光景を見ながら、母は目をぱちくり瞬いていた。
「暑かったでしょう。どうぞ、これで喉を潤してください。」
『良いんですか?こんなに。しかも息子にまで。』
「良いんです。困ったときはお互い様ですから。」
『ありがとうございます。そしたら遠慮なく頂きます。』
そう言って、母は隣にちょこんと座っている男の子に目を向けた。
『ほら、新も頂きます、よ。』
【いただきます。】
僕は、ストローを咥えながら、30年前の僕を見つめていた。
4歳の<新>には大きすぎるのだろうパフェと悪戦苦闘しながら、スプーンを差しては口に運び、差しては口に運びを繰り返していた。
そんな僕の視線に気づいたのか、4歳の<新>は僕に向かってニコッと笑ってくれた。
僕も笑顔を返す。
母の様子が落ち着いたのを確認した後、僕はここが未来であること、元の時代への戻り方を伝えた。
そうなんだ。
<未来の世界から自分達の元いた時代への戻り方>
ずっと昔から覚えている。忘れることができない<言の葉>
頭の中、いや心そのものに居座り続けていると言っても過言ではない、この<言の葉>。
僕はさっきまで思い出すことのなかった<元いた時代への戻り方>をセリフを言っている役者のように母に伝えていた。
自分の口から発しているのに、自分の言葉じゃないような感覚。
それでも、充分に母には伝わったようだった。
母は、居住まいを正した後、何度も何度も自分にそして未来のためにその言葉を呟いていた。
そんな母の姿を横に座っていた<新>が不思議そうな表情で見つめていた。
そして、彼はスプーンを持ったまま、
【じゃあ、僕も。】
【僕は、みんなと一緒に食べたこのパフェのことを忘れない。】
【短編小説】バスに乗ったら30年後の未来に行ったお話
ホントの終了。
最後の最後までお付き合い頂きまして、
本当にありがとうございました。(^^♪ by ヒロのしん