【短編小説】バスに乗ったら30年後の未来に行ったお話
【プロローグ】~30年前の貴女へ~
200X年8月、その日僕は自転車で実家に向かっていた。
もう少しで実家に着くという時のことだった。
20代後半くらいの女性とその女性に手をつながれた4歳くらいの男の子が実家の方から、とぼとぼと歩いてくるのに気づいた。
彼女たちを横から追い越した時、女性の背中で寝息を立てている2歳くらいの子どもがいるのを見留めた。
僕はちょっと通り過ぎた辺りで自転車を停めた。
そして、僕は思った。
(あーこういう事やったんか。)
僕は唐突にあの日のことを思い出した。
今日と同じくらい、暑い暑い夏の日。
8月の太陽の陽射しが肌を射す、とにかく暑かったあの1日。
その瞬間、頭の中でその日の光景が鮮明に浮かび上がってきた。
太陽の眩しさ、蝉の鳴き声、小さくもめっちゃ頼もしく感じたあの背中。
そして、僕にとっていちばん大切な彼女の不安そうな横顔。
その今にも涙が零れそうな瞳に、僕の泣きそうな顔が映っていたことも。
けど、それ以上に僕の感情を揺さぶった出来事があったような気がする。
鮮明に浮かび上がってきたはずの記憶の中で、その光景だけが
靄がかかったみたいにボヤケていた。
(泣いていた、僕が)
(いや、今はそれどころじゃないな。)
「こんにちは。何か困ったことでもありましたか?」
僕はその女性に声をかけていた。
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