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【魚舞い上がる川】第1話

川ものがたり 

<舞台>神崎川_高浜橋にて


今回、【短。ものがたり】に出てきた主人公二人が【川ものがたり】にも出演することになりました。
二人が出会ってから約2週間後の出来事。
川を舞台に、二人はまた不思議な世界を体験することに・・・。


あれから、2週間。
その間、僕と響さんはポケベルでのメッセージのやりとりをチョコチョコとしている関係だった。

メッセージと言ってもポケベルのため、挨拶程度のやりとり。

(オハヨー)
(アツイネ)
(キヲツケテ)
などなど。

大学では何度か響さんの姿を見かけた(目が合った)が、彼女から声をかけて来るでもなく、だからと言って、こちらから声をかける勇気もなく、過ぎ去って行く響さんの後ろ姿を見つめるだけだった。

そんな初夏のある日の土曜日。
大地に降り注ぐ、陽射しがキラキラと輝いていたことを今でも覚えている。

(キミノウマレタ)
(マチヲミテミタイ)
(キョウアエル)

って、僕はドキドキしながらそのメッセージを
何度も読み返していた。

(ダイジョウブ)
(エキマデムカエニイクヨ)

自宅の固定電話に向き合い、メッセージを送る。

(13ジコロエキツク)

逸る気持ちを抑えながら、さらに固定電話のダイヤルを押す。

(マッテル)

12時過ぎ。
約1時間前には、僕は駅の改札口前にいた。


(めっちゃ早い。)
あまりにも早く彼が住んでいる街、彼がいつも使っている駅に着きそうだ。

あの日以来、大学でも何度か顔を合わせているのに、どうもぎこちない。
目線だけで挨拶を交わす程度。

正直言ってわたしは友達が少ない。
大学でもほとんど一人で行動している。
たまに、ナンパ目当てで声をかけてくる男子もいるが、軽くあしらっている。

そんなわたしが、あの日、前から気になっていたからとは言え、自分から声をかけるなんて、今でも信じられないくらいだ。

そんな一人行動をしているわたしのことを
彼は、遠くから見つめてるだけで、声をかけてくるそぶりもない。

彼の気持ちがよくわからない。
いや、わたしが自分の気持ちをよくわかっていないのが本当のとこか。

重い女とか思われているのかな。けど、嫌われているとは思わない。
あの後、ベル番号も交換したし、何度かやり取りもしている。

今日、彼を誘ったのはわたし自身スッキリしたいからだ。

彼にメッセージを送る前に、まずは見た目からスッキリしたいと思い、
久々に髪をバッサリと切った。

夏を快適に過ごしたいとの思いもあったが、何かを変えたかったから。
肩くらいまで伸ばしていた黒髪ストレートから、茶色がかったショートボブにした。
この髪型、気に入ってくれたら良いな。
てか、気づいてくれるかな。

さすがに、こんだけイメチェンしたら気づくでしょ。
と、心の中で突っ込む。

(やっぱり、見た目だけ変えてもあかんわ。全然スッキリせえへん。)

彼のことを考えると、落ち着きもなくなってくる。

リュックサックから読みかけの小説を出したり、仕舞ったり。
たった一駅なんだし、小説を読むこともないけど、
と、またもや心の中で突っ込む。

結局、車窓に映る自分の何とも言えない
情けない顔を見つめながら、一駅をやり過ごした。

わたしは、
彼の彼女になりたいの?
もっと仲良くなりたいんじゃないの?
彼のことをもっと知りたいんじゃないの?

意識すれば意識するほど、緊張感が増す。
そして、あっという間に彼との待ち合わせの駅に着いた。

『ふぅっ』
つい、ため息が出てしまう。
ドアが開き、改札口へと向かう階段を上る。

(まだ、時間あるな。どっかでお茶でもしようかな。)
(初めて降りる駅やから何も知らんけど、良い店があれば良いな。)

改札口が見えるところまで来た瞬間、
心臓の音が自分にも聞こえるくらい、ドキドキが一気に高まった。

彼がいた。しかも目が合った。
めっちゃビックリしているのが、遠目でもわかる。
わたしも同じ様な顔をしているんだろうな。

ああ、だめだ。
わたし、この人のことが好きなんだ。


・・・・第2話に続く・・・・


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