【短編小説】バスに乗ったら30年後の未来に行ったお話~第8話~
【第8話~茜色の誓い~】
こんにちは~♪ ヒロのしんです。
第8話!!公開いたします。
最初に考えていた以上に長いお話になってしまいました。💦
けれど、残すところあと2話で完結予定です。
その後、エピローグも入れる予定なので、もう少しお付き合い頂ければメッチャ嬉しいです。(^^♪
それでは、【バスに乗ったら30年後の未来に行ったお話】
本編第8話スタートです。
【プロローグ~30年前の貴女へ~】
【第1話~彼氏と花火を見に行ってきます~】
【第2話~浴衣じゃないから~】
【第3話~僕の知らない街~】
【第4話~突然の再開~】
【第5話~行くしかない~】
【第6話~30年間の時間旅行の果てに~】
【第7話~家路へと~】
こちら👇️
【第8話~茜色の誓い~】
わたし達は、駅の向こう側にあるバス停へと向かって歩きだした。
この30年後の未来に、初めて足を踏み入れたあのバス停だ。
しばらくの間、わたし達は無言で歩き続けていた。
二人っきりになった瞬間、何を話したら良いか
わたしにもおそらくわたしの手をギュンと握っている
彼もそうなんだろう、と思った。
あまりにも現実離れした環境に突然放り込まれ、
あまりにも現実離れした話を聞かされ、
考えること自体を脳が自ずと拒否した様な、
そんな空虚感が二人を覆っていた。
「あれっ?」
歩道橋が近くに見えてきた時だった。
彼が首を傾げる。
彼の目線の先を追うと、歩道橋の真ん中辺りを見つめていた。
『どうしたん?』
「今、歩道橋の上から視線を感じて」
「何となくそっちの方向を見たんやけど・・・」
『知ってる人?』
「ううん。ここからじゃ遠くてよくわからんかった。」
「でも・・・誰もおらんかった。」
『なに、それっ。気のせいじゃない。』
わたしは無理矢理に笑顔をつくって、
それから、力いっぱい手を握りしめた。
「響さん、痛いって。やっぱ、気のせいやんな。」
そうでもしなくちゃって。
無理にでも笑わなくちゃって。
だって、彼の顔が一気に青ざめていくのを見てしまったから。
少しは落ち着いてくれたんだろう。
そこからバス停までは、いつものような
会話をすることができた。
「結局、街中で見かけたあの電話みたいなやつって」
「何やったんやろうね。オカンも持っていたけど。」
「いろいろと、ありえへん事を聞かされたり、」
「何か、俺も変なこと呟いたりして、」
「それどころじゃなくなって」
「聞けないままやったな。」
『ほんまやね。あと、マスクつけている人が多いのも』
『やっぱり気になるね。』
(それを知ったところで)
(この世界で見聞きした事は、ほぼ全て忘れてしまうんだけれど。)
と、わたしは一人苦笑いを浮かべていた。
『それは、未来のお楽しみって事で』
『結局、全部忘れてしまうみたいやから。』
今度は彼が苦笑いを浮かべた。
「響さん。何か響さんの雰囲気変わったね。」
「強くなったって言ったら変かもしれないけど」
「うん、やっぱ在り来たりやけど、」
「今までよりも強くなったというか」
「清々しさみたいなもん、感じる」
「オカンから何か聞いた?」
(こういう所だけ、鋭いんやから・・・。)
なんて答えようかと首を傾げていると、
彼はさらに続けた。
「あと・・・。いや、やっぱいいわ。」
(あー。七瀬くんの事か。)
すぐに理解した。
(もしかして、何か思い出したんかな?)
『わたしね』
『ほんとは言うつもりなかったんやけど』
『わたしが忘れたくないこと、今やから言うね。』
『いろいろ考えたんだけど・・・。』
『新くんばっかりに重荷を背負わせちゃダメだよね』
そう言って、先ほどのお母さんとのやりとりについて
わたしはかいつまんで話をした。
もちろん、わたし達が結婚することや、
七瀬くんの事などは伏せてだけど。
彼は黙って聴いていてくれた。
気がつくと、バス停はもう目の前だった。
「響さん。ほんと、ありがとう。」
「ななのこと、いろいろモヤモヤすることあるけど」
「俺の方は全て忘れてしまうから。」
「俺が忘れてしまった、」
「今日この日の俺の言葉を」
「30年後、俺に教えてほしい」
「その時、その時まで、いやその後も、」
「俺とずっと一緒に・・・いてほしい。」
(えっ?これってプロポーズ??)
(プロポーズの言葉よね??)
(えっ?えっ?めっちゃ嬉しいんですけど)
(けど、なんて言ったら良いの?)
(こういう時って・・・)
(なんて言ったら良いの!!ねえ、お母さん!!)
わたしは歩みを少し遅くして、
斜め後ろから、彼の表情を盗み見る。
耳が真っ赤だ。
勇気を振り絞っての言葉だったのだろう。
耳だけじゃなく、顔までも赤くなっていくのがわかった。
(うわー。やっぱそうだ。)
(これって。これって。)
わたしは、もう一度、
さらに強く手を握りしめて、
彼の耳元でこう言った。
『私のほうこそ、末永くよろしくお願いします。』
彼の耳はさらに真っ赤に染まっていった。
振り返ると目の前がオレンジ色に染まっていた。
歩道橋の向こう側に見える、
夕陽がわたし達二人を祝福しているように輝いていた。
歩道橋の上からの、
あの視線は今はもう何も感じなかった。
第9話に続く。