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【魚舞い上がる川】最終話

川ものがたり 

<舞台>神崎川_高浜橋にて


最終話となります。
第1話・第2話のお話はこちらから。。。


次の瞬間、
風が何かとぶつかって共鳴し合っているような、唸り声が聞こえて来た。

二人して、突風に体を持って行かれそうになる。
その時だった。
(えっ)
彼の手が、わたしの右手をギュッと握りしめたのがわかった。
「大丈夫?」

顔の赤らみを隠すように俯いたわたしに気付かず、
彼はさらに続ける。

「あれ!」
「あれ見て。響さん。」
(なに??)

その時の光景はなんと表現して良いかわからない。

突風にあおられた川の水が、
一つの塊のように、
一つの生命体のように、
上へ上へと持ち上げられていた。

『竜巻?』
「そう・・・みたいやね。」

わたしは、唖然としながらも、
彼の横顔に目を移す。
何だか照れくさそうに、けど、嬉しそうにはにかんだ笑顔。

そして、宙に浮かんだ川の水の行方を見続ける。
水の中に、何かキラキラしたものが見える。

「魚や!魚がいる!!」
『えっ、本当?』

わたしは眩しさに目を細めながら、じっと見つめた。
太陽の光を反射した魚のうろこがキラキラと、
まるで宝石のように輝いていた。

(見たことはないけど)
『ダイヤモンドダストみたい。』
ため息のように、独り言を呟いていた。

『きれい』
「ほんまに」
神様からのギフトを二人して見とれていた。

その間も、二人は手を繋いだままだった。
感動を共有するかのように。
二人は黙ったままお互いの手を握りしめて、その光景に見惚れていた。

本当に偶然の出来事。
この神崎川のとある橋の付近で突風が吹き
川の水を一瞬のうちに、空中へと押し上げる現象が起こった。

この日の、この不思議な出来事を僕は一生忘れはしないだろう。
そして、その後に起こったことも含めて全てを。

そして、静かに静かに、川の水は何事もなかったかのように、
元の流れへと戻っていった。

もちろん、一匹の魚も河川敷に打ち上げられることなく、
水とともに川へ帰っていった。

川の水の行方を、目線を下げて見守っていた時、
彼女の声が聞こえてきた。

『何これ?』

さっき、彼女の言ってたダイヤモンドダスト現象か。
さらさらとした氷の結晶の様なものが、体に降りかかってきた。

空中に舞い上がった川の水が、ゆっくりとゆったりと、
雨よりももっと遅い速度で降り注いできたのだろうか。

シャワーの水よりも、もっと細かい水の粒子みたいだ。
その水の粒子が、頭上から降り注ぐ太陽の陽射しを反射して、
さらに輝きを増していた。

彼女の方を振り向く。

(天使みたいや)
あっけにとられて、ただただ見惚れていた。

僕の目線の先には、
水の粒子と太陽の陽射しに包まれ、神々しさをまとった彼女がいた。

彼女の手を握ったままだったことに、
その時になってようやく気づいた。
けど、彼女は嫌そうな素振りも見せず、そのまま握り返してくれている。

「あの、響さん」
『ねえ、君』

ほとんど同時だった。

『君から言って』
彼女の目は、僕をまっすぐに見据えている。
僕は勇気を振り絞って、気持ちを伝えた。

『ありがとう。これからよろしくね。』
『わたしの彼氏、新くん。』

(初めて名前で呼ばれたかも。)
嬉しさのあまり僕は響さんの顔を見つめたまま、
握っている手にさらに力がこもっているのに気が付かなかった。


(痛ったー)
繋いでいる彼の手がさらに力強く握り返して来ているのに気付く。

『痛い!』
と言うと、彼は慌てて手を離した。

「ごめん、つい興奮しちゃって。」
(ほんと可愛いんだから)

自然と顔が綻ぶ。
(今度はこっちの番よ。)

わたしは最強に意地の悪そうな微笑みを浮かべて、
新くんを見つめて、こう言った。

『でもね、君はそれくらい強引な方が良いよ。』
そして、ちょっと背伸びしながら、
彼の唇へ、そっとわたしの唇を押し当てた。

了。


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