「結」 ー Phase 7 ー Uzumakism
キッシュが美味い酒場で隣に座る紳士に話しかけた。この近くに猫が屯している場所があると言う。少々猫には飽きていたのだが気休めに覗きに行ってみた。人間になってしまったら猫を見る目が変わったみたいだ。少しこの子たちでは物足りない。船に乗る前に遊んでいた猫たちは虎だったのかも知れないな。
それから数日は猫に興味を示す事もなく、港街で出会う人間たちに声を掛けては談笑し楽しい時間を過ごした。
暫く、色んな所へ通って人間たちと交流している内に随分仲良くなるのが上手になったみたいだ。猫の頃は上手くいかなかったのに。
この身体にも少し慣れてきた。ところでこの人間の中にいたヤツはどこへ行ったのだろうか?吾輩と一体化したのかニャ。ん? 私? 吾輩?
まぁ、良い。コイツのお陰でキッシュの味を知れたのだから。
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線画を仕上げた私は画材を仕舞い込んだ引き出しから「色鉛筆」を引っ張り出した。
随分前にとある人からプレゼントされた物だ。
プレゼントされた時は、何と言うか勝手に「色鉛筆は子供っぽい」と少し思い込みがあり、使ってはみたものの引き出しの奥に仕舞い込む形になってしまっていたのだ。
アクリル画やデジタル画は何度も描いたけど、色鉛筆を使って本格的に絵を描くのは子供以来だろうか。
くれた人には、申し訳ないのだけど何となく使う機会が今の今までなかったのだ。もしかして「人のために使う」というこの運命を「色鉛筆」は待っていたのかも知れない。
だから、もう会う事のないその人にも感謝しなければならないと思う。
その人がくれた「あなたの言葉や優しさで今のわたしがいるのです。たくさんの感謝を込めてありがとう。」とメッセージが書かれたマグカップでコーヒーを飲みながらそんな事を考える。
ドイツのSTAEDTLER社の24色の色鉛筆を引き出しから引っ張り出した私は久々に使う道具に挨拶をして少し戯れる。白い紙の上にイタズラ描きをして本番前の練習をする。
この色鉛筆は、色を塗った上から「水筆」でなぞり湿らす事で水彩画のような仕上がりになる面白い画材だ。手軽に絵描けるので世界中の「小さな画伯」にお薦めしたい。
ちまちまと3日ほど色塗りをするとゴールである絵の完成が見えて来た。
何とかクリスマスまでに間に合いそうだ。
「“結”の字を“小さな画伯”に色塗りして貰い、真ん中の宇宙に何か描いて貰う」と言うアイデアを実現すべく、私は絵とは別にクリスマス・プレゼントを買って渡す事にした。
今年のクリスマスのプレゼントは2つ。
MUSUBINA KITCHENの“小さな画伯”には魔法の色鉛筆を、ガールズバーの“幸運の女神”には魔法のライターを買おう。何と言うか真心と下心が混ざり合った混沌とした感情で買い物へ出掛ける。純粋なのか邪なのか、自分のことが最近よく分からなくなって来た。どっちが自分なのか??両方か??
業の天秤を調整しているのだ、と勝手な解釈をして今日も不道徳と道徳の狭間を歩いている。
2021年12月22日「冬至」私は2つのクリスマス・プレゼントを買いに三ノ宮へ出掛けた。
この日、私の運命の歯車が音を立てて軋み始めることをこの時の私はまだ知らない。
前から目を付けていたお店へ向かう。まずは魔法のライターだ。
その道すがら、ふと「占」と言う文字が私の目に入って来た。普段なら通らない場所を通ったから、いつもなら見落とす物に気付いたのだろう。
「占い屋か…。面白そうだな」
しばらく、占い屋の看板を眺めてから私は中にいる占い師に目をやった。
何とも言えない佇まい。暇そうにしているというか、戸惑っているというか。私はこの時の占い師を「遊んで欲しそうに遊び相手を探している猫みたい」と直感的に思った。
「そうや、帰りに寄ってみて暇そうにしてたら入ってみよう。ガールズバーと楽しみ方は一緒やろ」なんて馬鹿な事を考えた。
業の天秤が邪の方に少し振れる。
「ギシギシギシ…」と音を立てて。
占い屋に背を向けて私は最初の目的地である店を目指した。しばらく歩くと以前から目を付けていたシルバーアクセサリーとZippoライターを売る店に到着した。幾つか目的に適ったモノがないか店内を物色する。「猫の絵が刻印されたライター」を見つけた私は“幸運の女神”にこれをプレゼントする事に決めた。もちろんカウンターで店員の女の子に無駄に絡むのを忘れない。不快感を与えない絶妙な境界線を保つ。境界線の越え方を時々失敗するのだが、不思議と男性に失敗する事が多い。
中性の優しい男性とは上手く行くのだが、ゴリゴリの男性とはどうも馬が合わないらしい。猫が嫌いな馬にも馬主にも近付かないに限る。
次に“小さな画伯”のプレゼントを買うために画材屋を訪れた。
もちろん探すのは“魔法の色鉛筆”だ。あまり色数が多くても持て余すだろうと思い12色の物をチョイスする。私の色鉛筆とお揃いのSTAEDTLER社の物だ。水筆はSTAEDTLER社の物がなかったので国産品を買う事にする。
満足の行く買い物をして、私は意気揚々と三ノ宮の商店街を歩く。
さて、さっきの占い師はどうしてるだろうか?
実はちゃんとした占いを私は受けた事がない。高校生時代の文化祭で占ってもらったコンピューター占い以来だ。
初めての体験にウキウキする気分と、変な客が入って来た時の占い師の反応を楽しみに私は占い屋の前まで戻って来た。
「しめしめ、さっきと同じくお客さんはいないようだ。冷やかしに入ろうじゃないか。きっとエエことがある。エエことが起きるんや」
私は夜のお店に入る時みたいにニヤニヤしながら「占い舘Luri」に入って行った。
ドアを潜って中に入ると少し戸惑った感じの占い師がそこにいた。
「占って貰える?」と軽い感じで声をかけると「どうぞ」と彼女は静かに答えた。
占い師の眼前の椅子に座るや否や私は開口一番こう告げた。
「悩み事はないねんけどね」
黒髪の猫みたいな占い師は、これまた空を眺める猫みたいな目つきで私をしばらく見た。それから私の座った席の目の前にある用紙を指し示して名前や生年月日を記入するように促してきた。
私は元々スピリチュアルな事を完全に否定しているタイプでもなかったのだが、そこまで深く入り込むこともない人間だった。
「縁がある」とか「お天道様が見ている」みたいな事を日常的に考える事はある。スピリチュアルな物に対する価値観はその程度の物だった。
基本的には科学的な事や現実的な事に主軸を置いて生きて来たつもりだ。
量子力学とか相対性理論、宇宙の話…しっかり記憶に残るような賢い覚え方は出来ないけれど、そう言う話題がとても好きで良く本を読んだりしたものだ。
友達は少なかったが、いつも図鑑が友達の代わりをしてくれていた。
小説や漫画、映画やゲームに出てくる神話や伝承の類を知る延長で、多少「精神世界」の事を知っている、くらいの人間でしかなかった。
私にとっての「精神世界」はあくまでもエンターテイメントと哲学や思想の中間地点のような曖昧な「学問」の一種でしかなかったのだ。
だが、11月の伯父の死が私の「スピリチュアルな思考」に大きく影響を与え始め「物質世界」と「精神世界」の間を隔てている「ブロック塀」に興味が出始めていた。その様な状態で私は2021年12月22日「冬至」を迎えたのだ。
所謂スピリチュアル界隈では特別な日らしいのだが、そんな事を意識していた訳ではない。それでも面白い事はそう言う日に起きる様に出来ている…。
占い師は私の記入した用紙に書かれた情報を元に、何やら謎の数字や文字を手元の書類に書き込み始めた。
「魔法の書」が仕上がるのを不思議に思いながら私は彼女の手元を見つめていた。
ジーッと飼い主の仕事ぶりを覗き込む飼い猫みたいに…。
猫のような占い師の“稀咲先生”がいる「占い舘Luri」は神戸三宮の商店街にある。
猫好きの人は是非訪れて欲しい。「猫が好きなんです♡」と告白すれば素敵なタロット・カードと貴方の運命を見せてくれるだろう。
「占い舘Luri」で“私の猫”を見つけた貴方には…
「エエことがある。エエことが起きるんや」
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「MUSUBINA KITCHEN」
〒653-0811 兵庫県神戸市長田区大塚町4丁目1−11
「占い舘Luri」
鑑定士: 稀咲先生
〒650-0021 兵庫県神戸市中央区三宮町1丁目6–12
hidenori.yamauchi
https://www.instagram.com/hidenori.yamauchi/
私の伯父「山内秀德」の遺作を投稿しています。是非ご覧ください。