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漁業の実態を調べてみて気づくこと

先日観た Netflix の Seaspiracy を受けて、日本の漁業の実態がどういうものなのかを、改めて知ってみたくなった。魚をよく食べる日本人として、魚が好きな人間として、食べることが好きな人間として、知識は深めていきたいな、と思って。


漁獲できる魚の量

まずは、魚の数が減っているという事実に対して、ではどれだけ捕っていいのかということについて、から見ていくと。

魚はどれだけ捕っても良いのかというとそんなことはなくて、各国ごとに漁獲可能な量が決められている。これがTAC(Total Allowable Catch)というもの。TACはいわしとかさんまとか、魚の種類ごとに分けて管理されている。

TAC がどうやって決められているのかというのは詳しくは分からなかったのだけど、毎年会議で各国ごとの割当が決まっていっていることから考えると、何かしら魚の量を見極める調査があって、そこから各国の消費実態とか利害関係とかで調整が行われているんだろうな、ということは推測できる。

で、このTACの漁獲可能量と実績が、水産庁で公開されている。

ここで、馴染みが深い魚についての動向をグラフ化してみた。

グラフ化してみることで、いろいろと見えてくるものがある。

  • 漁獲可能量は減少一辺倒というわけではないこと

  • ときどき漁獲可能量をオーバーしている場合もあること(良いの?)

  • 漁獲可能量を使い切れていないこと

とくに最後のが結構問題で、つまり、それだけ枠があっても捕れない状況にあるということだと思っている。つまりこのTACの枠も、資源管理という意味ではあまり意味がないのでは? ということ。


TACの問題点

魚が捕れなくなっていて魚の数を増やさないとまずい、というのは魚関係者(消費者も含めて)全体でコンセンサスがとれていると思うのだけど、本気で資源を回復させたいのであれば、捕りたくても捕れない、くらいの枠設定じゃないと意味がないのでは。ゆるゆる過ぎる気はする。

TACはもうひとつ大きな問題点があって、実際には「あった」というべきかもしれないけれど、それは「早いもの勝ち」ということ。各漁船ごとに枠が決められているのではなくて、県などの管理単位で枠が決められているので、その枠の中であれば早い者勝ちになってしまう。

これは一応改善されていて、個別割当方式(IQ方式)が2020年に施行された改正漁業法で定められた。けど、他の国では早いところでは1970年代から導入されていたこの方式が、漁業では世界有数という日本で導入されていなかったということが問題。

あと、ようやく始まったはずのこの方式も、2024年現在でどこまでちゃんとできているかは怪しい。

https://www.jfa.maff.go.jp/j/koho/pr/mado/attach/pdf/index-43.pdf

この水産庁の情報誌を見てみると、「準備が整ったものから導⼊の可能性を検討してまいります」って……。「可能性を検討」ってなに? 「導入していきます」でもなく?

なんか、当事者意識が足りなさすぎる気が……。

実際に漁業をしている方々にとっても、魚が取れなくなってしまっては元も子もないと思う。なかなか思うように魚が捕れない状況で、「魚を獲るのは我慢してください」と言っても無理だと思う。みんなの善意に頼っても、結局悪意を持っただれかが出し抜いて一人勝ちしようとする。それに気づいた善意の人も「なら自分たちも」とそのレースに参加するか、退場する(=漁業やめる)かしかない。いわゆる「共有地の悲劇」というやつ。

そうならないようにするためには、TACのような資源管理制度が、実効性を持って厳密に決められてる必要がある、というのが有識者の見解としても挙げられていること。このあたりは、水産庁などの国や役所が、もっとしっかりしていかないといけないのでは、と思うのだけど。

一応、水産庁のページには資源管理についていろいろな情報が載せられている。年次の白書とかもあって、その中ではかなり細かいことも公開されている。

こういうのを見れば、情報が隠されているとかそういうことではないことが分かる。分かるのだけど、でも実態としては情報公開が足りていない、と感じてしまう。

一応、良い方向のニュースなどもあって、太平法のクロマグロは数が回復してきたという。そのため、今年2024年は漁獲枠が1.5倍に増えたとか。

増やしても大丈夫なのか、と心配にならなくもないけれど、一応調査の結果としては増えているということなんだと信じる。マグロについてはこうやって改善傾向が出ているということなので、ある程度資源管理は機能している(のだと思いたい。)


養殖について

養殖についてはあまり調べられていないのだけど、いくつかの報道をみるかぎりだと、あんまり養殖だから良いともいえない状況なのは確かだと思う。結局のところ餌としての魚が必要だし、水域が汚染されることとか、病気が蔓延しやすいこととかは、陸上での畜産業と同じような課題がある。

あと、個人的に、養殖の魚は脂が多すぎてちょっと嫌になる。脂がうまい、という感覚は分かるのだけど、トロトロというかドロドロすぎて気持ち悪い魚とかときどきいるので。養殖の鮭とかだと、きれいないろに見せるために色付けしているとかは有名な話。10年くらい前にその話を知ってから、養殖の鮭は買わなくなった。年に数回、国産の天然鮭なら買うかな、という程度になってしまっている。


未利用魚について

漁業をやるうえでは「未利用魚」というのも大きな課題。

「水産物の流通過程において、魚体のサイズがふぞろいであったり、漁獲量が少なくロットがまとまらないなどの理由から、非食用に回されたり、低い価格でしか評価されない魚」というのが、水産白書での定義。

自分も含め、消費者はどうしても知っている食べ物を求める傾向にあると思う。無名な魚を見かけると「どうやって食べてら良いのだろう」と思ってしまうし、調理したことがないものは手に取りにくい。知らない魚、さばきにくい魚、美味しくない(と思われている)魚は、やっぱり価値がつきにくい。

そういった未利用魚を、もっと食べていけるようにしないと。捕まえてしまったからには、やっぱり美味しく食さないといけないんじゃないの? ということで未利用魚を食べようという活動が、最近いろいろと広がっている。

未利用魚の現状とかこれからの動きとか、一例としてこの三菱総合研究所のサイトはわかりやすかった。

ところで、上に載せた未利用魚の定義だけを見ると、「捕って帰ってきたけど使い道があんまりない魚」というイメージしかない。けど実際の漁業の現場だと、「網にかかったけどいらない魚だから海へポイッ」という、混獲で洋上廃棄される魚が結構な量になっている。こういった洋上廃棄されている魚の量が、正確にこの数値の中に現れてきているのか、というのは疑問が残る。どうやって数値を出しているのだろう? センサーで自動的に計測、とかになっているのだろうか? それとも、申告ベースや推定値?

混獲や洋上廃棄は、特に底引き網とかで海底からごっそり一気にかっさらうような漁に多いとのこと。世界の漁獲廃棄量のうち45.5%が底びき網に由来しているという。

底引き網は海底の自然破壊にもつながるそうで、実際の漁法を見てみれば当然なのだけど、海底をブルドーザーでごっそりやっているのだから破壊力がはんぱない。そうして捕ってみても要らない魚が多いということであれば、なんだかやる意味があんまりあるとは思えない。これだけ水産資源が厳しい現代だと、もうそういうのはやめたら? と思ってしまう。

一応、網の目を広げて小さい魚などが入らないようにするなど、工夫することで混獲を防いだりという対策はとっているらしい。

1. 従来網は、錘(「沈子」)と錘が付随する網(「沈子網」)の間隔が約10cm(「岩下げ10cm」)であり、錘が海底の泥に食い込むことでクモヒトデなどを大量に混獲していた。そこで、錘が泥に食い込んでも、網との十分な隙間があれば不要な混獲物は抜ける(入網しない)と考え、海底と接する錘の付け方を改良した。
改良網A: 錘と網の間隔約10cm+ロープと網の間隔約30cm(「吊岩30cm」追加)
改良網B: 錘と網の間隔約10+10cm(「岩下げ20cm」へ延長)
2. 改良網A、Bともに、クモヒトデなどの混獲物が8~9割削減できる。
3. ハタハタ、タラなどの重要魚種の漁獲量は、ほぼ差がない。
4. 混獲物の入網が軽減されると、網の目合を拡大した際に、網目がつまりにくくなるため、小型魚を逃がす効果が大きくなり、ハタハタなどの資源保護にも有効となる。
5. 漁獲物の高鮮度化が図られ、「活」出荷など付加価値の高い形態で出荷ができる。例えば、県北部では、これまで行われてこなかった「活トヤマエビ」の出荷が開始された。
6. 漁労作業の軽減により、低未利用魚の出荷ができる。例えば、これまでにほとんど利用されてこなかったウロコメガレイやクモダコなどの出荷が始まった。

秋田県 水産振興センター(PDF)より


情報が広く浸透することの大切さ

こうやっていろいろと調べてみると、主に水産業者の代表の方々とかで、日本の漁業、世界の漁業についての発信をされている方は結構いらっしゃることに気づく。報道などでも、やはり水産業者代表のインタビューとかも、それなりにあるにはある。

いろいろな方が、多方面で取り組みを紹介していたり、警告も発信していたり。でも、なんとなくそれが消費者まで浸透していないように思える。自分にとっても、今回こうしていろいろと調べるまで分からないこと、新しく知ることが多かった。

魚が減っている理由は「海水温上昇」「外国漁船の乱獲」などといった責任転嫁ばかり目立ちます。このため魚のサステナビリティについて、水産資源に対する国民の意識が世界の常識とかけ離れてしまいました。下の図はフランスの調査会社による水産物のサステナビリティに関する調査データです。世界平均80%に対してダントツに低い40%。

魚が消えていく本当の理由

客観的な事実を知ること、これが大事なんだな、と。でも、それが伝わっていない。浸透していない。知ろうとしていない。

実態を正確に伝えてくれるメディアが少ない、ということは、大きな問題点としてある。でも、それだけじゃない。

日本は魚の消費量は世界第15位くらいとのこと。以前よりも順位が落ちているとはいえ、日本人の魚好きは周りを見ていればわかること。そんな魚の役割が大きい社会であれば、もっとその実態について知らないといけない。けど、そういうことが知らされる社会になっていないし、知ろうという意識は自分も含めて低い。

そんな社会にしてしまっているのは、何も全部「上」のせいなのではなくて。どちらかというと「下流」である消費者側が、もっと知っていこうという意識を持たないと、社会全体が変わっていかないんじゃないかと。

まずは知ることから、ちょっとずつでも始められたら、
もう少しだけ良い社会に向かえるんじゃないかな、と。

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