ニンジャの話 その19 ダイエット
すべての物事にはポジティブな面とネガティブの面があります。それは認知症でも同じです。認知症のネガティブな面は多くの人たちが語っていますし私もこのノートで書きました。しかしとってもポジティブな面もあります。
それは「毎日がフレッシュ」なことです。
認知症は短期記憶を無くしてしまいます。前日にあった嫌なことや数週間位前にあった気になること、下手すれば数年前の嫌なことだって忘れてしまいます。ネガティブなことも含めて全て忘れていくのです。
生まれ持っての性格がとても明るくポジティブな父。前日どんな嫌なことがあっても認知症効果で朝起きるとそれはすっきり清々しく目覚めます。その父を見て毎日がフレッシュってスゴイなと私もおどろきました。小さなことにくよくよせずに嫌なことがあっても忘れてしまう能力を身につけたことはよく考えてみるととても素晴らしい天からの贈り物です。
忘れることができると言うポジティブな面を見た私は母に提案をしました。
「お父さんがいっぱいためているこの様々なモノ、お父さん買ったこと忘れてるんじゃない? 買ったこと忘れているなら処分してしまってもお父さん翌朝には忘れてしまうんじゃない?部屋が綺麗になってたらむしろ喜ぶんじゃない?覚えてるかどうか試してみない?」
仮説がたったら次は検証です。どうなるか考えていても埒が開きません。頭の中で行うシミュレーションと現実に起こることには乖離があります。コントロール可能なリスク内で検証することが大事です。
まず私は長屋門の2階にあった居室をターゲットとして片付け始めました。両親が半ば物置のように使っていたお部屋です。ここには昔からこの家にあった本棚や古く使わないベッドなどが置いてありました。私の狙いはこのお部屋を全く何もないまっさらな12畳の和室にすることでした。この部屋に主に置いてあったのは父が大学で働いていた時に研究室に所蔵していた書籍や文具などでした。大学の研究室から引き上げるときに捨てるものは何もないと言って大量の段ボール箱に入れて引き取ってきたものがほとんどです。大切に持ってきたとはいえと資料は古くほとんどのものは資料的価値や歴史的価値がないものでありました。捨てるのを嫌う父はただただ捨てるのが忍びないためにわざわざ古民家まで持ってきたものです。
早速ですがほぼ2日かけすべての資料を持ち出し処理場に持っていきました。書籍や資料がなくなり使われなくなった本棚なども同様に処分しました。大量の段ボール詰めの資料と家具で埋まっていた和室は2日後に全くものが置かれていない昔ながらの和室になりました。
作業は父はデイケアセンターに行っている時間帯で行ったので、父は私たちが何かを捨てていると言う場面を見る事はありませんでした。目にしたら当然怒るでしょうからね。
居室が全く何もなくなりご綺麗な和室に戻ったのを確認した私はいよいよ実験に入ります。私は父を父の書類で埋まっていた部屋にお迎えします。こう言いながら。「お父さん、うちにこんな部屋あったんやな。ここ綺麗な部屋やな」
私の仮説は当たっていました。父は「ここはどこだ?旅館みたいだな。とってもきれいで気持ちいいなー」と言ってたいそう気にいってくれたのです。
この小さな成功に気を良くした私は本格的な断捨離を実行します。母屋にあった両親の寝具、テレビなどの生活用品を先程キレイにした2階の居室に移動をしました。これで母屋に父がいない状態を作り出せます。
トイレが遠くなるとか台所が遠くなるなど母は難色を示しましたがキレイになったを見てもらい。何かを捨てる前には了承をもらうことを条件に母には何とか納得してもらいました。
そしてここから約2ヶ月をかけて古民家のダイエットが始まりました。
続く。
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