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ニンジャの話 その32 進化

褒められることによって人がどのように変わるのか。まるで実験を見ているかのようでした。トライアルを続けることを決めて母は進化していきます。

「ねえ、パソコンの使い方教えて」
「ねえ、Airbnbのメッセージってどうやって見るの?
「日本人の人だったから私がメッセージ返しておいたわよ」
「メッセージボード新しくしたんだけどどう?」
「私、五平餅マイスター取ろうと思うんだけどどう思う?」

どんどん積極的に運営の主体となっていきます。掃除しかしないと言っていたのが信じられないほどです。

私が一番驚いたのはこれです。

“私、英語の勉強しようかしら“

勝瀬道子 当時73歳

この言葉を母から聞いた時はホント嬉しかったです。今や母は向上心のかたまりです。外国人がなんと言ってこの家を褒めているのか実際に知りたいのです。外国人のお客様一般に言えることですが、入館した際のリアクションがものすごく大きいです。ご案内した時にめちゃくちゃ喜んでいろいろ話します。喜んでいることは雰囲気でわかります。しかしなんと言っているのかはわかりません。母はこれを知りたかったのです。

「褒められることで人はここまで物事に積極的に取り組むようになるのか」目の前で変わっていく母を見ることは新鮮な驚きでした。母に対しては物事に対してものすごく慎重な人だとの印象を持っていたのですが実際は違っていました。母は理屈やお金で動きません。民泊開始に際して、母の承認をえるために私は人情に頼りましたが、今やそれは必要ありません。彼女を今動かしているのは「褒められる」というコミュニケーションのパワーです。ゲストブックも、ウェルカムボードも、パソコンのメッセも英語も共通しているのは相手に喜んでもらいそのフィードバックをもらうための手段です。特にゲストブックは何度も何度も読み返して喜んでいました。ある意味昨今のSNSと似ているかもしれません。一種の承認欲求かもしれません。しかしそれが現実の場でサービスアップとして現れ、それによってゲストがさらに喜び称賛が増えるというポジティブなスパイラルを形成する時、承認欲求の高まりと充すことよる多幸感はむしろ好ましいことです。

トライアル終了後、さまざまな国からのゲストが訪問しました。北アメリカ、中国、台湾、香港、タイ、西ヨーロッパ諸国が多かったですが、珍しいところでは南アフリカ、アラブ首長国連邦、ブラジルなどからもいらっしゃっていました。例外なく入館直後驚きの声をあげ、母は満足します。世界中からの承認と褒めが自宅にいながらにして、夫の介護をしながらにして体験できるのです。

観光業、宿泊業を営んでいらっしゃる方なら同意をしていただけるのではないかと思います。喜んでいるゲストと直接コミュニケーションできることはこの業種に与えられた最高のギフトです。

母の事業は順調に進みます。そしてそれに伴い古民家自体も少しづつ進化を始めました。

続く

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