ニンジャの話 その31 ドーパミン
2回目のトライアルでお見えになったゲストは日本の方でした。大晦日に8人組のグループです。「予約が入ったからといって必ずお受けする必要はないよ。大晦日からお正月だからお断りしますか?」と母に聞くとお受けするとのこと。意外にやる気が出ています。初めのトライアルの成功で自信を得たようです。今回は日本人だから言葉の問題はありません。私もカスタマーサービス開店休業です。日本人だから大丈夫だっただろうなと安心していた翌日、元旦。私の携帯に母からの電話がありました。
「なあ、相談があるんだけど」
あれ?トラブル発生してたのか? トライアル終了か? ギクっとしたことを悟られないようにしつつ母の次の言葉を待ちます。
「ゲストブックを置いたらええと思うんやけどどう思う?」
今回お泊まりいただいた方たちからも大絶賛を受けたようです。ゲストは年末年始に里帰りをされた家族の方たちの人数が多くて自宅に泊まりきれなかった隣の市の方たちでした。
「家の近くにこんなにステキな古民家があったなんて知らなかった!」「雰囲気が良くてものすごく寛げた」「素敵なお家を持っていらっしゃっていいですね!」お泊まりになった8人全員からものすごくお褒めいただいたことに母はとても気を良くしていました。
「ほら、宿に泊まると落書き帳みたいなのがあるじゃない? あれに感想を書いてもらったらイイと思うのよ!」
母、ノリノリです。褒めてもらうことは精神と身体にとてもよい効果をもたらすそうです。褒められるとドーパミンが脳から放出されます。母はドーパミンのシャワーを浴びていたのです。
「イイんじゃない? とてもいいアイデアだと思う!」
もちろん私も大賛成です。
トライアル3回目のお客さんをお迎えする際には、古民家にはゲストブックが備え付けられました。気をよくした母はゲストブックだけでなくちゃっかりウェルカムボードまで作成していました笑 母は自走を始めたのです!
もう母は木を見で滑るスキーヤーではありませんでした。林間を滑るルートを見つけ出すことができるだけではなく、自分の力で滑る抜ける「道」には何本ルートがあることに気がつき、自分でさまざまな林間ルートを模索始めたのでした。
母は結婚前に短い時間教員をしていましたが、人生のほとんどを専業主婦として過ごしました。喘息で緊急入院を重ね、仕事に没頭し、その後認知症を発症する父を支えることが彼女の仕事でした。それは十分賞賛されるに値する仕事であったのですが日常的に感謝やフィードバックを得られにくい作業でした。ホストになることを通じて彼女が家族以外の他者から感謝され承認されることに喜びを感じていたのです。
3度目のトライアルが終わった後、私は母に尋ねます。母は答えます。
「続けてみてもいいわね」
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