ニンジャの話 その26 民泊
Airbnbという会社の名前はその時初めて知りました。当時民泊新法はありません。気軽に参入できる新しい宿泊施設そして不動産活用の方法としてAirbnbは破竹の勢いで施設数を増やしていました。インバウンド客が増え施設の不足も追い風になっていました。
「何かよくわからないけど、会社を上げて対策に取り組まなければならないほどの競合ならよく知らなければ!」
アムステルダムから帰ってきてすぐにAirbnbを代表とする民泊というビジネスについて現地調査を始めました。実際に民泊活用しているホストの方々は当然、民泊プラットフォーム事業者、民泊サービス事業者、システム提供者、清掃などのオペレーター、資金を提供している銀行など関係していると思われる方にはインタビューしてどこに強みがあり弱みがあるか自分なりに整理しました。
日が当たるところには影ができるように、民泊にも功罪あります。ここでそれをついて議論をするつもりはありません。数ある功罪の中で私が秋田で観光に目覚めた私が注目した民泊の特徴は「日本の高齢者に適したシステム」であるということでした。
民泊は初期投資をほとんどかけずに始めることが可能です。宿泊産業は設備投資が非常に重い産業です。何にお金かかるのかといえば人を泊める施設を作るところにお金がかかります。そしてほとんどは銀行借り入れで建築が行われるため事業開始前から大きな資金が必要です。この大きな設備投資を何何もかけて回収することの困難さが宿泊事業への参入障壁になっています。ところが日本の高齢者の持ち家率、戸建所有率は各国と比較しても異常に高く、民泊を始めるにあたって設備投資が必要ありません。これは高齢者にとって物凄いアドバンテージです。民泊新法以前のAirbnbバブルに踊っていた当時の東京の若いホストの方々は普通賃貸借契約で部屋を借り、民泊化して稼いでいました。もちろん稼働率が高ければ賃料と利用料の差額が大きいので利益が出ます。しかし家具などの設備投資、賃料や水道電気代などの固定費が発生するのでリスクも抱えます。特に賃料は重いです。ほとんどの高齢者はこの賃料や家具などの設備投資が必要ありませんし、固定費のインパクトもほとんどありません。ゲストが来ても来なくても今までの支出に変わりがないからです。彼らにとって民泊はほぼ変動費だけで営業できます。失敗のしようがないのです。
さらに言えば人件費という固定費もかかりません。民泊ホストという名前は絶妙なネーミングですが民泊ホストの本質は自営業者です。自宅の一部屋を貸して清掃するくらいなら自分でできます。負担も大したことありません。布団の上げ下げや掃除の労働負担は比較的小さく高齢者でも可能です。複数の施設を同時に運営するようになるとどうしても組織化や外注をしなければなくなり事業者になる必要がありますが自宅だけでやっている分には人件費すら必要なくなります。
そして最後に民泊は高齢者を幸せにする可能性が高いという点です。接客業は人と人との交流を促します。基本的にホストとゲストは1対1の関係です。そのためコミュニケーションの頻度も質も高まる傾向があります。高齢者にとって人と話すということは大変重要であることはさまざまな研究結果から明らかです。交流は健康に役立ち、生きがいとやりがいを提供します。仕事をしている高齢者は健康寿命が長く幸福感も高いいう研究もあります。また金額の多寡に寄らずともお金を稼ぐという行為が高齢者に安心を与えます。
民泊を調べれば調べるほどわたしにはこのビジネスに適していると思われるある人の顔が浮かんできました。「これってうちのお母さんに最適のビジネスじゃん!」
続く
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