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ニンジャの話 その35  世界へ!


古民家「里の館」が “The Ninja Mansion“となり Jittery Joe’s Coffee を併設し順調に認知を伸ばしていた2017年5月。私のメルアドに一本のメールが届きました。アメリカのScott Mowbrayさんという方からです。来日する予定があるからNinjaの取材をしたいという内容でした。マイケルの友人でカフェのオープンの時に一緒にNinjaを訪問してくれた Keith Schroeder さんから話を聞いて興味を持ってくれたとのことでした。その当時ブログで書くからという理由で無償で宿泊を提供してほしいというリクエストは多方からいただいておりましたがお受けしたことはありませんでした。しかし今回は知り合いの紹介です。喜んでお受けしました。念のためにこの方がどのような方か調べるとScottさんが素晴らしい経歴を持っていることがわかりました。元Time Magazine の編集者で全米雑誌賞James Beards Awardを受賞している本格的な作家だったのです。取材をお受けする連絡をした翌月、Scottさんは来日し2日間Ninjaに滞在しました。父の話、母の話、私の話、弟の話、家族全員に丁寧に話を聞き、施設や両親の写真をたくさん撮りました。父は得意なハーモニカの演奏をご披露しました。不思議なもので認知症を患った後でも父の音楽のスキルは全く衰えていませんでした。Scottさんは満足されて、来た時と同じように静かにお帰りになりました。

7月。Scottさんから再びメールが届きました。
”Good news for Ninja Mansion!” というタイトルがついています。何かと思ってメールを開けると。“おめでとう!私の提案した案が採用されました。全米規模の雑誌社がAirbnbマガジンを創刊します。Ninja Mansionが記事になりそこで紹介されることが決まりました。もっと写真が必要なのでアメリカから写真家を派遣します“ という内容でした。 

後からわかったことですが、Airbnb社はAirbnb Magazineという雑誌を発刊する予定を立てていました。世界中にある特別なAirbnb登録施設のユニークな物語を紡ぐというコンセプトでした。認知症の母が父を介護しながら、日本の人口30人の山間で築150年の民家を再生して外国人に宿を提供しているというストーリーは彼らの興味を引いたのでした。ScottさんはAirbnbから記事の依頼を受けお話を紡げそうな取材対象を探していたのでした。

いきなり世界デビューする話には驚きましたが、もちろん嬉しいびっくりです。しばらくして写真家のCait Oppermannさんが来日しました。当時の私は知る由はありませんが、彼女も有名な写真家です。とくにスポーツの著名人を多く撮影されており大坂なおみさんの写真なども撮られています。さすがプロのカメラマンです。素晴らしい写真を何枚も撮影していただけました。父はハーモニカの演奏をリクエストされ気合の入った演奏を披露しました。(それがこの記事に掲載されている写真です 笑)これも後で気が付きましたが、彼女のホームページのトラベルセクションの一番初めの写真は我が家のちゃぶ台の写真です。なぜちゃぶ台笑
そしてあっという間の2017年の秋号。THE Ninja MANSION Experimentという記事名で紹介されることとなりました。ちょっと短くなったウェブバージョンの記事はこちらで読むことができます。

世界中に両親の古民家を紹介することができ、親孝行したような気がして私は嬉しくなりました。またマガジンではそれなりの数の施設が紹介されていたのですが、“Ninja Mansion“と唯一固有名詞で紹介されしかもそれがタイトルになっていた施設はNinjaだけでした。自分の考えていたブランド戦略は正しかったのかもしれないと思いました。

喜んだのは母です。父の介護がいかに大変か多くの方に共感していただけるだけでも気持ちは楽になります。廃屋だった古民家を40年間かけて修復した家族の歴史が詰まっているこの場所を世界中の読者に伝えていただけることにも感激しました。英語で書いてあるのでいまいち分かりにくかったかもしれません。でも彼女の歴史が雑誌の記事となって世界中に知られることを故心から喜んでいました。ネット上だけではなくこのような形で紙に残ることは彼女の世代にとっては大きな意味があります。民泊から始まった縁の糸は、カフェにつながり、カフェから新聞そして雑誌へと繋がっていきました。誰も知られず、屋根に穴が開き、床が抜けていて朽ちていくはずであった古民家は世界中の旅行者に知られる存在になりつつありました。

40年以上前に喘息で苦しむ父に良い環境をと考えて買った古民家。刀剣探索で偶然見つけた古民家。子供たちの夏休みがガッツリ投資されていた古民家。観光の洗礼を受けてわずか2年でこのように世界の旅行者に知られことになるとは! 観光の力ってすごい! って心から思った出来事でした。また偶然や縁が重なって紡がれた細い糸が導いてくれるような経験でもありました。そして観光の力はここで止まることはありませんでした。まだまだ信じられないようなことが起きることになります。

続く


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