放射線ホルミシス仮説 vs. LNT仮説
一般にホルミシスとは「一定レベルを超えて摂取すると生体に有害なものでも、その値(閾値)を超えなければ却って生体に好ましい影響がある現象」のことだ。ホルミシス理論で最も代表的な仮説は放射線ホルミシス仮説だ。
放射線ホルミシス仮説とは「一定量の放射線を被曝することによって免疫系が刺激され却って生体に有益な効果がもたらされる」とする考え方だ。ちなみにこの放射線ホルミシス仮説に対立する考え方がLNT仮説(閾値なしの直線モデル)だ。LNT仮説は「放射線による人体への影響に対する閾値は存在せず、放射線の影響と放射線の量は理論上限りなく小さい線量まで比例する」とする考え方だ。LNTモデルに従えば、どんな少量の被曝でも理論上は癌発症率が上昇すると仮定され、個々人の生活実態や放射線感受性といった要素が無視されてしまう。
長期低線量被曝による人体への影響については専門家の意見もまちまちだが、生物進化の過程で獲得した放射線耐性は当然ながらヒトにも存在する。長期にわたって相当量の放射線を被曝したからといって将来必ず癌を発症したりその他の健康被害(晩発性障害)が生じるわけではない。しかしながら、この放射線耐性はストレスや栄養状態によって個体差があると思われる。環境ストレスや精神的ストレスが多かったり体内の栄養バランスが崩れたりしていると放射線に対する抵抗力(放射線耐性)は低下するはずだ。
放射線耐性は損傷を受けたDNAを修復するメカニズムが有効に機能する限り維持される。そしてこのDNA修復機能が働かなるレベル(限界線量)を超えない限り基本的に健康は維持されるものと思われる。この限界線量を引き上げるには放射線被曝によって生成されるフリーラジカルを抑制する作用のある抗酸化物質をできるだけ多く摂取する必要がある。
LNTモデルは現在、放射線学会の主流とはいえ統計的には有意差が認められないため仮説の域を出ないのに対し、放射線ホルミシス仮説は仮説とはいえ、マウス等を使った動物実験ではホルミシス効果の存在が確認されている。またISS(国際宇宙ステーション)に長期間滞在して大量の放射線を被曝している宇宙飛行士たちが地球帰還後の追跡調査でも特に目立った健康上の問題は出ていないこともホルミシス効果の存在を裏付けるものとなっている。逆にこれをLNT仮説で上手く説明するのは極めて困難だ。
私自身は放射線ホルミシス効果を次のように定義している。「低線量放射線を長期にわたって被曝し続けても一定レベル(閾値)を超えずDNA自己修復機能や免疫系が健全に働いていれば健康状態は維持される上に放射線に対する耐性が強化される。なお、閾値は個々人の生活実態(生活環境や体内の栄養バランス)や放射線感受性によって変動する。」