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何もない空間に浮かんでるように 集中する~2023年10月に読んだ本から

読んだ本を忘れないため、毎月、読んだ本の中から 印象に残った本 を 記事にしている。10月は、2冊。


1 キッチン・セラピー 宇野あおい


森の中の「町田診療所」。診療所とあるが、病院ではなく「キッチン」。 

日々の生活に疲れた人が、あるじの町田モネと一緒に料理を作り、立ち直っていく。

1話目は、「家にある食材すべて」を使ってカレーを作ることになった巧己が主人公。
大根、合い挽き肉、タバスコ、わさび・・このくらいなら違和感はないが、うまい棒めんたいこ味、雪見だいふく、いきなり団子 と およそカレーとは結びつかないような食材も鍋に投入することになる。


2話目の主人公は、9年前に宮古島で食べたマンゴーで パフェを作りたい真琴。

入りたかった会社に入って、好きな人と結婚して、欲しかった子供を産んだ。全部望んだものなのに、欲しかったものを 全部組み合わせた結果が ゴミ溜めでゾンビ映画だなんて いったいどういうことだろう。

と、思い通りにいかない日々を嘆く真琴の 追い詰められ具合にも胸が苦しくなる。


みんな町田モネの助けで、新たな視点を持てるようになっていく。

このお話が印象に残ったのは、ストーリーの面白さもあるが、それ以上に、ちょっとした表現が とてもすとんと心に落ち、「あれ、この作家さん、もしかして相性が合うのかも」と 思わされたため。

たとえば、
(春先の寒さの表現)

腕と首筋が 冷えていく。


(突然現れた 明るい日差しが まんべんなく照らしている 空き地は)

あまりにぽんと現れたので、空間ごと空から落ちてきたような印象だった。


(スパイスをつぶす作業で)

僕はありえないほど集中していた。周りが消え、何もない空間に浮かんでいるようだった。

この感覚、なんだかとってもよくわかる気がした。

他にも

誰よりも私自身が私を大切にしてこなかったのだ。
(中略)
「違う」ことを自分でやり続けて、「違う」と怒り狂っていたのだ。自覚することも、きちんと伝えることもないまま。

この作家さんの作品、また読んでみようと思う。


2 星合う夜の失せもの探し: 秋葉図書館の四季   森谷 明子

ひいおばあちゃんが遺した開かずの文箱、いなくなったブックカフェの猫・・・利用者がかかえる謎を 秋葉図書館の司書さんたちが解決のお手伝いをする6つの物語。

「れんげ畑のまんなかで」 「花野に眠る (秋葉図書館の四季)」 に続く秋葉図書館シリーズの第3作目。

2話目「事始(ことはじめ)」の主人公、健一。
別れた妻・茉莉まりをほめるつもりで、茉莉まりの大好きな本を引き合いに出し、
「君は、すごく評判のいい嫁さんだったんだ。『風と共に去りぬ』に出てくるメラニーのように・・」
と言って、激怒される。でも、健一には 茉莉まりが怒った理由がさっぱりわからない。

私も健一と同じく、「風と共に去りぬ」の原作を読んだことがなく、映画しか見ていない。メラニーには、優しくてしっかりした女性というイメージしかないので、 茉莉まりの怒った理由はわからなかった。

映画を見直してもわからない健一は、知り合いの司書さんに相談する。
ここで、「文庫版でしおりひもつき」という情報から、茉莉まりの読んでいた本を推理し、さらに健一が 謎の答えに気がつけるようなヒントをしのばせて 文庫版「風と共に去りぬ全5冊」を渡した司書さん。さすが!
 

6話目「人日(じんじつ)」には、秋葉図書館の開設準備の様子が出てくる。
「4万冊の本が搬入され、配架作業をしていく」という記述に、わくわくしちゃう私。

手伝いたい!!

でも、非力だし、腰痛持ちだからきっと役にたたないだろう。


文中に、「枕草子」「じごくのそうべい」「カラマーゾフの兄弟」とたくさんの古今東西のお話の名前が登場する。

「岩波少年文庫が ある時期まで一冊ずつ箱に入っていた」という話も、ちらっと出てきて思わず笑顔になる。
私が、初めて岩波少年文庫を読んだのは、ちょうど最後の箱入りが発売されていた時期。
「岩波少年文庫のあゆみ 1950-2020」によると、オイルショックによって1974年から函なしの軽装判になったとのこと) 
何度も読んだ箱入り「クオレ」は、今でも手元にある


この本を読んだのは10月。
今回この記事を書くにあたって、もう一度借りてきたのだが、読み出すと面白くて(すでにあまり覚えていなかったというのも大きいが)、結局全部また読んでしまった。

前2作と同様、この3作目も目次が素敵で味わい深い。思わずメモをしてしまった。
 
「良夜(りょうや)」「事始(ことはじめ)」「聖樹(せいじゅ)」「春嵐(はるあらし)」「星合(ほしあい)」「人日(じんじつ)」



岩波書店からトートバッグが届いた。
夏の岩波少年文庫フェア2023に応募したものだ。

ふだん、懸賞のたぐいにはほとんど応募しない。でも、今回は「対象の岩波少年文庫を3冊買ったら全員にプレゼント」ということだったので、応募してみた。


「ぼくが子どもだったころ」E.ケストナー作 池田香代子訳

ケストナーの作品の挿絵があしらわれている。
「ええと、これは、『ふたりのロッテ』、こっちは『飛ぶ教室』かな?」
と にやにやしながら見ている怪しい私。

春になったら、このバッグに本を入れお出かけしよう。どこかでコーヒーを飲みながら読書の時間としたい。「春になったらやること」の候補その1だ。

読んでいただき ありがとうございました。