変化点に潜む心配事を解決する素晴らしい方法
はじめに
自動車業界には、変化点に潜む心配事の対策を立案する素晴らしい方法があります。それは、DRBFM (Design Review Based on Failure Modes)で、トヨタ自動車が開発した品質不具合の未然防止手法(またはツール)です。DRBFMは、変更点に潜む心配事(故障モード)とその影響を解析し、その対策をレビューしながら決定する手法です。変更点に焦点を当て、その変更が製品やプロセスにさらにお客さまにどのような影響を及ぼす可能性があるかを関係者でレビューしながら対策を立案し実施します。
この記事では、DRBFMについて紹介した後、DRBFMが技術以外の変更点に関する心配事の解決のためのツールとして使用できることを示します。
方法
ここではDRBFMの概要を説明します。次の1~7のステップで進めます。
[1]変更点の特定:既存の製品や部品やプロセスに対する変更や改良点(変えた点、変わった点)と、なぜ変えたかその目的を明確にします。
[2]変更点の心配事(故障モード)の抽出:製品や部品やプロセスの変更点に対して、どのような心配事(故障モード)が発生する可能性があるかを洗い出します。
このとき、他の心配事がないか関係者でDR(Design Review)を実施します。
[3]心配事(故障モード)の原因または要因:その心配事、すなわち故障モードの原因または要因を探ります。[2]と同様に、他の原因または要因がないか関係者でDRします。
[4]変更点の影響: 各変更点に関する故障モードが最終製品や全体プロセス、さらにはお客様にどのように影響するかを解析します。
[5]心配事(故障モード)に対する対策:それぞれの心配事(故障モード)に対する対策や改善策を立案します。
[6]推奨する対応:心配事(故障モード)に対する対策が効果的な防止策や修復策であるかどうかを関係者でDRし、設計、評価、工程で行うべき内容を、いつまでに誰が実施するか決定します。
[7]実施と結果: 心配事(故障モード)に対する対応策や改善策を実施し、リスクが適切に低減されているかを責任者が確認します。
次に、DRBFMの記載例を示します。この例は説明のために簡単化したもので、表のヘッダに方法論1~7を記載しています。具体例としてハードウェアとソフトウェアの変更について記載しました。実際にはもう少し詳細なワークシート(スプレッドシート)を使用します。ヘッダに記載した[DRBFM]は、レビューする箇所です。実際のスプレッドシートには、レビュー指摘を書く列があります。
表1:DRBFMのワークシートの例(説明のため簡単化したもの)
このDRBFMの例は、2者択一の変更例です。複数の変更点について解析を行い、最もリスクの少ない(影響が小さい)変更を選択するのが望ましいです。次にDRBFMの長所と短所を述べます。
・DRBFMの長所:
変更に伴うリスク評価を行うため、問題を早期に発見しやすくなります。
変更による新たな故障モードやリスクを評価し、必要な対策を計画できます。
変更の影響を詳細に解析し、その対策をすることで、品質向上とリスク低減に寄与します。
一番の特徴はDRで、故障モード、原因または要因について関係者でレビューし、その結果を書類に残し、対策についてもレビューして関係者の総意のもと対策を実施することが可能です。
・DRBFMの短所:
レビューには、関係者の時間とリソースが必要です。特に複雑な変更や故障モードに対しては、詳細な分析が必要となり時間を要します。関係者全員がすべての変更点とその故障モードと原因についてレビューするのではなく、関係者の専門に応じて分担するがよいです。
・変更点の具体例:
システムの設計における、よくある変更点に関する具体的な例を3つ挙げて詳しく説明します。
例 1: 製品の材料変更
変更点:製品の特定部分の材料を金属からプラスチックに置き換える。
目的:原材料の供給不足やコスト削減のニーズから、特定の製品部分の材料を変更するため。
心配事(故障モード):新しい材料は既存の材料と比較して物性が異なる可能性がある。
影響の予測:材料の変更よって製品の強度や耐久性が維持できない恐れがある。
例 2: インターフェースの変更
変更点:製品のユーザーインタフェースを再設計し、ボタンの位置や機能、表示画面のレイアウトなどを変更する。
目的:顧客からのフィードバックや市場の需要変化により、製品の操作性や使い勝手を向上させるため。
心配事:ユーザーインタフェースの再設計のため、そのテスト漏れが生じる。製品マニュアルの変更が必要。
影響の予測:インタフェースの変更によってユーザーの操作性が向上する反面、不具合が発生する恐れがある。既存ユーザーにとっては新しい操作方法の学習が必要となる可能性がある。
例 3: プロセス改良
変更点:自動化装置を導入して手作業を削減する。
目的:製造過程の特定の工程が生産効率や品質に悪影響を与えていることがわかり、プロセスを改良するため。
心配事:手作業に比べ自動化作業の品質が上がらない恐れがある。
影響の予測:自動化装置の最適化に時間を要する。従来の作業者が新しい技術や装置の操作方法を学ぶ必要がある。また、変更に伴う工程間のつなぎや、初期段階の調整が必要となる恐れがある。
これらの例は、変更点を特定する際の具体的なケースを示しています。変更の要因や内容、影響の予測を慎重に検討し、その対策を立案して実施することで、変更に伴うリスクを最小限に抑えることができます。
・注意すべき点:
日本の自動車関連企業にはDRBFM信仰があります。例えば、新製品開発に於いてもDRBFMフォーマットでFMEA(故障モード影響解析)をする企業があります。DRBFMは変更点について故障モードを解析する手法のため、新製品を開発するときにDRBFMを使用するのは間違っています。自分がお付き合いしたサプライヤーさんがFMEAやりましたと言って持ってきたのはDRBFM形式の解析でした。FMEAといったらDRBFMと思いこんでいた企業(技術者)でした。この製品を「新規に開発した時にFMEAをやりましたか。今回は、機能追加変更のためDRBFMをやったのですか」と聞いたら、FMEAはやっていないというのです。何のために(Why)、何(What)をするのがよいかをよく考える必要があったと思います。
DRBFMの素晴らしい点
DRBFMは技術者が行う製品、システム、ハードウェア、ソフトウェア設計の変化点の不具合未然防止だけでなく、色々な変更点(変化点)に対して発生しそうな問題の解析と未然防止が可能です。
例えば、自分または家族の人生の変化点に於いて、DRBFMを利用して心配事リストを挙げて、対策を事前に考えて実行することでリスクを最小限にすることができます。ここでは、DRBFMのフォーマットに従って詳しくは書きませんが、心配事を挙げてコントロールできるもの([C]で示します)と、できないもの([UC]で示します)を識別した例を示します。コントロールできるものに対しては必ず対策します。レビューは、近しい人、例えば伴侶、友人、知人、恩師、親兄弟に相談して意見を貰うのが良いと思います。さらに、Aへの変更、Bへの変更、Cへの変更と複数の変更点に対して解析を行い、リスクの小さい変更を選択するのがよいと思います。
・転職:
心配事:仕事環境[UC]、人間関係[UC]、通勤時間と混雑度[C]、給与[C?]、待遇[C?]、貢献可能性(仕事のしがい)[C?]、自身のスキル向上[UC?]
対策:[C]については調査すればわかります。[C?]は面接で質問、または転職エージェントにお願いして転職先に質問または交渉がよいです。下心が見えると不採用となる恐れがあるため、貢献の可能性、スキル向上についてはあからさまに質問しない方がよいと思います。
・住み替え:
心配事:住居環境(広さ、動線、音、日当たり、暑さ)[C]、近隣との人間関係[C?]、家賃[C]または住宅ローン(している場合、返済)[C]、スーパー、病院、学校が近くにあるか、所望の施設が近いか[C]。通勤時間[C]、通学時間[C]
対策:[C]は調査。[C?]は不動産屋、他、口コミ等で情報収集。
・入園、入学、転校:
心配事:友人関係[UC]、教師との関係[UC]、教育環境[C?]、PTA[C?]、教育費[C]
対策:[C]は調査。[C?]は近隣の方の情報、口コミなどを調査。他のUC対策はは難しいと思われます。
・結婚:
心配事:パートナーとの衣食住[C]、収入、家計、互いの会話、趣味[C]、性格の一致不一致[UC]、子供をもうけるか否か[C]、子供の教育方針[UC]、親、親戚との付き合い[C]
対策:[C]については付き合っているときに、事前に互いにコミュニケーションすればほとんどが解決できると思います。性格の一致不一致と教育方針については、つき合っている時間が短い場合、それを確認するのは難しいかもしれません。あとから露呈することが多いからです(経験)。
まとめ
技術については、コントロールできないこと[UC]に対しての対策は難しく、サプライヤーに対策を依頼するとか、顧客に使用方法に注意してもらうなどをお願いして対策していくしかありません。
前の章で述べた例では、コントロールできない心配事[UC]が解決できない場合、他の心配事のリスクの小さい企業、学校を選択するしかありません。結婚に際しても、子は両親と性格が似ていることがあると言われているため、結婚相手の両親の性格を探ったり、教育方針についても相手の両親が行った教育について確認すれば情報が得られるかもしれません(必ずではありませんので念のため)。
まとめますと、コントロールできる心配事[C]については、確実に対策し、コントロールできない心配事[UC]については、第3者の協力を得ながら知恵を働かせて可能な限り対策するがよいと考えます。変更点(変化点)としての選択基準はリスク(影響の大小、影響の頻度)が小さいものを選択することです。