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がん(悪性腫瘍)について


はじめに

 健康診断の問診票に、父母、祖父母、兄弟が「がん」だったか否かを書く箇所があります。自分の父は胃がんで、祖父が咽頭がんで亡くなったため、そう書いています。自分には遺伝性がんの因子はないと思っていますが、遺伝子異常が「がん」の発症に係るため、なぜ「がん」になるのか、「がん」の初期症状は何か、「がん」治療薬について調べたことを紹介します。

がんとは

 参考資料[1]によると、
「悪性腫瘍とは、生体内の自律的な制御を受けずに勝手に増殖を行うようになった細胞集団。つまり腫瘍の中でも、特に周囲の組織に浸潤し、または転移を起こす腫瘍のことである。がん(ガンまたは癌)とも呼ばれる」
とありました。
 一言でいえば、生命として本来の命令を無視して増え続けた細胞群のことです。
 後述しますが、
「がん遺伝子」と「がん抑制遺伝子」のDNAにキズや変異が生じ、「がん遺伝子」が活性化、または「がん抑制遺伝子」が不活性化して細胞が増え続けるのです。以下、参考資料[2]を参照してまとめました。

細胞が増え続ける理由

正常な細胞内にある遺伝子に長い間にキズがつくため。

キズの種類
a)DNAの突然変異
 G,A,T,C塩基が入れ替わる(一塩基置換)
 G,A,T,C塩基列の一つがなくなる(一塩基欠失)
 G,A,T,C塩基列自体がなくなる(染色体の欠失)

※DNA塩基は4種類
A:アデニン、T:チミン、G:グアニン、C:シトニン
デオキシリボ核酸 - Wikipedia

b)エピジェネティック変異
・DNAのメチル化、
 G,A,T,C塩基のうち、あるC(シトシン)がメチル化し、細胞分裂でメチル化したDNAが継承される。メチル化により、遺伝情報の読み出しを妨げたり、促進したりします。

※メチル化とは
https://ja.wikipedia.org/wiki/DNAメチル化
たとえば、C(シトシン)の5位の炭素についている水素がメチル基(CH3)に置き換わることです。

キズが付く遺伝子とは
 細胞を増殖させるアクセルの役割をする遺伝子(がん遺伝子)が、必要ではないときにも踏まれたままになります(がん遺伝子の活性化)
 
がん遺伝子
・MYC遺伝子 (細胞増殖)[3]
・RAS遺伝子 (細胞増殖シグナル伝達)[4]

 細胞増殖を停止させるブレーキとなる遺伝子(がん抑制遺伝子)にブレーキがからなくなる場合です(がん抑制遺伝子の不活化)

がん抑制遺伝子
・p53遺伝子(細胞死の誘導)[5]
・RB遺伝子 (細胞増殖の抑制)[6]
・MLH1遺伝子(DNAの修復)[7]

がんの発見

 がんの早期発見は、がんを治療する上で非常に重要で、定期的ながん検診を受けることが推奨されています。また、がんの初期症状に気がづくことも重要です。たとえば、飲食物の飲み込みにくさや尿の変化など、特定の症状が「がん」の兆候である可能性があります。自分の体調をよく観察、確認する必要があります。ただし、症状イコール初期「がん」ではありません。

咽頭がん(Pharyngeal Cancer)[8]
 咽頭がんは、のどの奥の部分にできる悪性腫瘍です。咽頭がんの初期症状は、部位によって異なりますが、一般的には以下のようなものがあります。
鼻の異常(鼻づまり・鼻血・鼻水に血が混ざる)
耳の異常(耳が聞こえにくい・つまった感じがする)
口の異常(口内炎・口臭・歯ぐきの腫れ・歯がぐらつく)
脳神経の症状(ものが二重に見える・見えにくくなる・顔のしびれ・まぶたの下がる)
のどや首のしこり(のどの痛み・飲み込みにくさ・首の腫れ・リンパ節の腫れ)
声の変化(声がかすれる・低くなる・出にくくなる)

膀胱がん[9]
 膀胱がんは、膀胱の内側を覆う粘膜に発生するがんで、血尿が発見のきっかけとなることが多いです。膀胱がんの初期症状には、以下のようなものがあります。
血尿:尿に血液が混じり、ピンク、赤、または茶色に見える状態です。痛みを伴わないことが一般的です。
頻尿と切迫感:通常よりも頻繁に尿意を感じることがあり、急に強い尿意を感じる切迫感がある場合もあります。
排尿時の痛みや不快感::排尿時に痛みや不快感を感じることもあります。
尿流の変化:尿の流れが弱まる、または途切れ途切れになることがあります。

胃がん (Gastric Cancer)[10]
 胃癌は胃の内側の粘膜に発生するがんです。胃がんの症状は初期には自覚しにくいことが多いと言われています。以下のような症状に注意する必要があると言われています。
・不快感:胃のもたれや、痛みなど
・げっぷや胸やけ:消化不良、逆流性症状
・吐き気:食後のお腹のはり、むかつき
・食欲不振:普段美味しく食べているものが食べられない
・体重の減少:1~2ヶ月の間にもとの体重の20%以上減少(たとえば60kgであれば12kg~ これはがんが進行したあとかもしれません)
・血便(黒色便):便中に血液が混じっている
・貧血:めまいやふらつきなどの出血性症状

大腸がん (Colorectal Cancer)[11]
 大腸がんも初期症状が自覚できないと言われています。大腸がんは、結腸や直腸に発生するがんで、以下の症状に注意が必要です。初期症状があることが即がんとは限りませんが、医師は以下の症状をもとにがんを疑うそうです。
血便: 便中に血液が混じっている。
貧血:慢性的な出血が起きている場合、体内の血液量が低下して貧血の症状が現れることがあります。
便秘・下痢・便の狭小化:がんが大きくなることで腸の内側の空間が狭くなり、便が通りにくくなります。
腸閉塞:がんが大腸を塞ぐことで腸閉塞の状態に進むことがあります。
体重の減少:がん組織は正常な組織より多くの栄養を消費するため、体重が減ってくることがあります。

がんの治療

 がんの治療法は患者に負担を与えない、再発しない、費用(保険適用されているか)などを考慮しながら決められます。上で遺伝子の話をしたことから、本記事では、がん細胞の表面にできる異常タンパク質を認識して抑制する分子標的薬について主に紹介します。以下、咽頭がん、膀胱がん、胃がん、および大腸がんの抗がん剤と分子標的薬について説明します。

咽頭がん
咽頭がんの治療ではフルオロウラシル(5-FU)とシスプラチンを使う方法(FP療法)や、FP療法にドセタキセルを追加したTPF療法などが使われています[12]。  (これらは抗がん剤)

膀胱がん
分子標的薬の選択肢は増えており、EGFR阻害薬VEGF(血管内皮増殖因子)阻害薬などが治療に使用されています[13]。(これらは分子標的薬)

胃がん
HER2(ErbB2)の過剰発現が関与する場合、トラスツズマブ(商品名:ハーセプチン®)という分子標的薬が使用されます[14]。(分子標的薬)

大腸がん
アバスチンアービタックスベクティビックスなどが承認され、使用されています[15]。(分子標的薬)

 これらのがんに対する分子標的薬は、遺伝子変異やタンパク質の異常に対して特定の作用を持ち、がん細胞を標的として攻撃します。ただし、適応症や効果は患者ごとに異なるため、主治医との相談が必要です。副作用についても医師から説明を受け、対処していく必要があります。
 過去には薬を併用して命に危険な障害を起こすケースもありました。

分子標的薬の副作用

 分子標的薬は、がん細胞に特異的な分子を標的とすることで、正常細胞への影響を最小限に抑えることを目的としています[16]。しかし、完全に正常細胞への影響を避けることは難しく、一部の正常細胞のライフサイクルに影響を与える可能性があります[17]。
 分子標的薬の作用機序によっては、以下のような正常細胞への影響が考えられます。

  1. 細胞増殖の阻害:一部の分子標的薬は、がん細胞だけでなく、正常な細胞の増殖にも関与するシグナル伝達経路を阻害する可能性があります。これにより、正常細胞の増殖が抑制される場合があります[18]。

  2. アポトーシス(細胞死)の誘導:分子標的薬によっては、がん細胞だけでなく正常細胞にもアポトーシスを引き起こす可能性があります[19]。

  3. 細胞分化の阻害:一部の分子標的薬は、正常な細胞の分化過程に関与する分子を阻害する可能性があります。これにより、正常な組織の機能が影響を受ける場合があります[19]。

 分子標的薬の副作用は、標的分子の正常細胞における役割や、薬剤の特異性によって異なります[17]。

おわりに

 経口分子標的薬は、がん治療の分野で画期的な進歩をもたらしています。これらの薬は、がん細胞が持つ特定の分子(遺伝子やタンパク質)をターゲットとして、その部分だけに作用することで、正常細胞へのダメージを最小限に抑えることを目指しています。しかし、副作用や薬価が高価な点についても考慮する必要があります。
 免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)の開発で著名な、京都大学のノーベル賞学者の本庶佑特別教授の貢献は大きいです。この薬は、がん細胞を直接攻撃するのではなく、免疫細胞(T細胞)の能力を回復させ、がん免疫を活性化させることでがんを制御します[21]。
 父が亡くなった30年前は、薬で「がん」が治癒する、延命できるとは全く考えられませんでした。現在は薬で治せる。世の中の進歩は凄いと思います。欲をいうと、薬には副作用がつきものですが、その作用が小さい薬の研究開発を期待したいと思います。
 最後ですが、自分の遺伝子について問題がないか調べてみる必要を感じました。

参考資料

[1]悪性腫瘍 - Wikipedia

[2]がんという病気について:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ] (ganjoho.jp)
[3]Myc - Wikipedia
RNAへの転写を促進する遺伝子で、細胞増殖のときにmyc遺伝子が発現する。
[4]RAS遺伝子 | がん情報サイト「オンコロ」 (oncolo.jp)
RAS遺伝子とはがん遺伝子のひとつで、細胞増殖を促進するシグナルを、細胞内で伝達するという役割を持つRASタンパクを作り出す遺伝子です。
[5]p53遺伝子 - Wikipedia
[6]Rb遺伝子 - Wikipedia
[7]がん抑制遺伝子 - Wikipedia
[8]「咽頭がん」になると現れる初期症状や原因はご存知ですか?ステージについても解説! | メディカルドック (medicaldoc.jp)
[9]「膀胱がん」の初期症状とセルフチェック方法を泌尿器科医が解説 頻尿・血尿などの異変に要注意! | メディカルドック (medicaldoc.jp)
[10]「胃がんの前兆となる5つの初期症状」はご存知ですか?予防法も医師が解説! | メディカルドック (medicaldoc.jp)
[11]「大腸がんの主な5つの症状」はご存知ですか?初期症状・末期症状も医師が解説! | メディカルドック (medicaldoc.jp)[11][医師監修・作成]喉頭がんで使用する抗がん剤はどんな薬? | MEDLEY(メドレー)
[12][医師監修・作成]喉頭がんで使用する抗がん剤はどんな薬? | MEDLEY(メドレー)
[13]分子標的薬や、多様な治療法の組み合わせの登場で着々と改訂が進行中 膀胱がんの「診療ガイドライン」の注目ポイント | がんサポート 株式会社QLife (gansupport.jp)
[14][医師監修・作成]胃がんに使う抗がん剤はどんな薬?薬の特徴、副作用などについて | MEDLEY(メドレー)
[15]KRAS遺伝子検査で分子標的薬の効果・副作用を事前に知る 大腸がんの個別化医療を支える遺伝子検査とは? | がんサポート 株式会社QLife (gansupport.jp)

[16] National Cancer Institute. (2021). Targeted Cancer Therapies. https://www.cancer.gov/about-cancer/treatment/types/targeted-therapies/targeted-therapies-fact-sheet
[17] Widakowich, C., et al. (2007). Review: Side Effects of Approved Molecular Targeted Therapies in Solid Cancers. The Oncologist, 12(12), 1443-1455. https://doi.org/10.1634/theoncologist.12-12-1443
[18] Gerber, D. E. (2008). Targeted Therapies: A New Generation of Cancer Treatments. American Family Physician, 77(3), 311-319. https://www.aafp.org/afp/2008/0201/p311.html
[19] Hojjat-Farsangi, M. (2014). Small-Molecule Inhibitors of the Receptor Tyrosine Kinases: Promising Tools for Targeted Cancer Therapies. International Journal of Molecular Sciences, 15(8), 13768-13801. https://doi.org/10.3390/ijms150813768
[20] Kroschinsky, F., et al. (2017). New Drugs, New Toxicities: Severe Side Effects of Modern Targeted and Immunotherapy of Cancer and Their Management. Critical Care, 21(1), 89. https://doi.org/10.1186/s13054-017-1678-1
[21]オプジーボが適応となるがんの種類と治療効果・副作用一覧 | がんメディ (ganmedi.jp)


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