
【新説2024】第1回 クフ王の大ピラミッド建設方法(概要編)
エンジニアのヒロです。
古代エジプトのギザにある「巨大なピラミッドの建築方法」は謎であり、昔から世界の七不思議と呼ばれています。私は、当時の古代エジプト人の考え方や、現地情報などから、数値計算や3Dシミュレーションを繰り返して検討しました。その結果、非常に単純な建設方法を見つけました。
クフ王のピラミッドの建設方法について、2回に分けて紹介させていただきます。
1.はじめに
エジプトのギザにある「クフ王の大ピラミッド」は、約4500年前に建設されました。大ピラミッド内部にはいくつかの通路と部屋があります。建築技術は、当時の技術と知識を駆使して建設されており、その正確さと規模は現代の建築学や工学においても驚異とされています。
建設者:Hemiunu
時期 :紀元前2500年頃
種別 :真正ピラミッド
資材 :石灰岩
高さ :146.6 m(現状は、138.5 m)
基礎 :230.34 m
容積 :259万 立方メートル
傾斜 :51°50'34"(底辺の半分の長さと高さの比が14対11)
ピラミッドの建設に使用された重い石材の運搬方法については、古代エジプト人がどのようにしてこれらの巨大なブロックを運搬したのかについて、多くの研究と仮説がありますが、はっきりしません。

直線傾斜路説は、ピラミッドの斜面に沿って長い直線の傾斜路を作り、その上を石材を 引っ張り上げる方法です。この方法は最も単純ですが、長い傾斜路の構築と維持が大変だったと考えられます。
螺旋傾斜路説は、ピラミッドの周囲に沿って螺旋状の傾斜路を作り、石材を上まで運ぶ方法です。これは直線傾斜路に比べて傾斜路の勾配が緩やかになる利点がありますが、構造が複雑になります。
ジグザグ傾斜路説は、ピラミッドの斜面に沿ってジグザグに傾斜路を作り、石材を上まで運ぶ方法です。
*上記は、参考資料1より抜粋しました。
2.建設方法の概要(新説2024)
最初に、全体イメージを紹介してから、基本的な考え方の説明を行います。
2-1. 全体のイメージ図
石材を運搬した傾斜路を設置した状態を図で説明します。

*1 傾斜角度は、すべて 14 / 100 = 約8度
*2 長さの単位は、cubitを基本とする: 1cubit = 0.525m
*3 方角は、頂上部の写真より推測
*4 1層目の直線傾斜路は、ギザ台地の物流から推測して2段階(1a層、1b層)、図は1b層
*5 2.5t と60t の石材運搬のイメージを挿入
*6 傾斜路の寸法は、古代エジプト数学から推測
*7 頂上部は、10 x 28mの平面で、3mを櫓などで設置と推測
*8 化粧石は、建築完了後に傾斜路を外しながら設置と推測
2-2. 補足説明
(1)分解図での説明
基礎部分は、4面から直線傾斜路を設置します。ただし、各斜面に設置しますので、小さいサイズです。その後は、同一長のジグザグ傾斜路を設置していきます。隣の傾斜路とぶつかったら、フラットな平面にします。そこに、1/2サイズのピラミッドとジグザグ傾斜路を設置します。これを繰り返します。つまり、再帰的に定義されています。最後は、小さいサイズですので、2方面からのみ、ジグザグ傾斜路を設置します。最後の頂上部は、狭いフラットな平面となりますので、櫓などで組み上げたと推測します。

(2) 建設の順番
1層(1a = ①、1b = ②)は、2段階の4面の直線傾斜路を用います。
2〜4層(③、④、⑤)は、4面のジグザグ傾斜路を用います。
5層(⑥)は、南北の2面のみでジグザグ傾斜路を用います。この方式は、当時の持ち送り積みの構造(参考資料5、参考資料7)と類似しています。
最後の数メートルは、平面で作業をおこなって完成させたと推測します。
(注) 女王のピラミッドは、位置関係をわかりやすくするためです。

(3) 化粧板の取り付け作業
上記で、頂上まで完成した後は、傾斜路を除去しながら、化粧板を取り付けて完成させたと推測します。

3.基本的な考え方
(1)ピラミッドの基本設計について
ピラミッドの全体設計は、主要メンバーに理解してもらう必要がありますが、現代風の図面とは考えられません。そこで、当時の古代エジプト数学を調べてみると、すでに分数が使用されていました。これにより、基本設計を「 1/N を用いた簡単な数式」で表現したのではないかと推測しました。この視点で検討すると、いろいろな情報と組み合わせることで、各部の具体的な寸法を算出することができました。
下記の表は、その計算式ですが、極めて綺麗です。例えば、高さ方向と水平方向の分割数は、10倍異なるだけです。

(2)建設期間からの推測
4面から、同時に作業したと推測します。その理由は、約20年の期間で建築するために必要であることが、下記の計算から判明しました。
<計算見積もり>
● 20年で、200万個の石材の運搬 = 1年で10万個 = 1日で300個 = 1時間で30個 = 「2分に1個」
●そこで、4面の傾斜路を用いると、各傾斜路は、「8分に1個」にすることができます。
-------------------------------
斜面の運搬(数十メートル)=5分
スイッチバックでの位置調整=1分
休憩 =2分
-------------------------------
8分 ← 斜面ごとに、1ケの傾斜路で「1個の石を運ぶ時間」
●上記より、石材の運搬は、パイプライン処理にすればよいことがわかります。
つまり、8分ごとに、1ケの傾斜路で、1個の石を運べばよいことになります。
8分 8分 8分
-------> -------> ------->
東側の斜面: 傾斜路(1) ===> 傾斜路(2) ===> 傾斜路(3) ===>...
南側の斜面: 傾斜路(1) ===> 傾斜路(2) ===> 傾斜路(3) ===>...
西側の斜面: 傾斜路(1) ===> 傾斜路(2) ===> 傾斜路(3) ===>...
北側の斜面: 傾斜路(1) ===> 傾斜路(2) ===> 傾斜路(3) ===>...
(3)傾斜路について
上記より、4ケの斜面に、独立に傾斜路を設置する必要があります。その場合は、基礎部分は直線傾斜路が自然です。アビドスにあるシンキのピラミッドには、4面に直線傾斜路があるとのことです(参考資料5 p96, p217)
その後は、各斜面を利用して設置する「ジグザグ傾斜路」が自然です。
ただし、単純な設計にするために、長さは同一で、繰り返して設置します。その理由は、巨大なピラミッドのために、傾斜路の本数が多くなりますので、単純化は必須です。また、石材運搬の方向転換のために、スイッチバックを付けます。つまり、傾斜部分(slope)とは別に、水平部分(Flat)を左右に用意します。
●傾斜路(Ramp)=Flat + Slope + Flat
(4)長さの単位について
当時は、cubitという単位で計測したはずです。(1cubit = 0.525m)
基準となる長さは、ピラミッドの高さ(H)と、底辺の長さ(L)と考えます。
このH,Lを用いて、その値を1/Nにすることで、各部の寸法を算出します。興味深いのは、この割り算は、ほとんどの場合は割り切れます。このなかから最適な値を選択をすることで、ほぼユニークに各部の寸法を決定できます。
H = 280cubit = 147m
L = 440cubit = 231m
斜面の角度= 高さ/ (底辺/2) = 280c / 220c = 14/11
4.各部の詳細
(1)ギザ台地からの推測
ギザ台地での石材運搬について検討しました。その結果は、1層は、直線傾斜路が自然であることがわかりました。つまり、ピラミッドを周回する道路を造ることで、4面からの建設がしやすくなります。具体的な直線傾斜路の寸法は、次の情報から算出しました。
初期の建設は、1a層を、幅広の直線傾斜路としました。その理由は、多くの作業を同時におこなうことで効率化できます。なお、石材の運搬道路は、採石場から最短距離で敷設するのが自然です。

その後の建設(1b, 2,3,4,5層)では、外側の周回路を使用しますので、道路をつなぎ直す必要があります。これは、斜めの道路になるとすると、東南方向にある「クフ王の直線傾斜路の跡(仮説)」(参考資料5 p217, 参考資料7 p54)と、位置や角度は、ほぼ一致します。
1b層の直線傾斜路は、女王のピラミッドと、直線傾斜路がぶつからないことと、L/Nからの最大値として、道幅を L/20 と決定しました。

(2)石材の運搬の算出(人数とサイズ)
石材の運搬を、各種資料(参考資料5, 参考資料7 )や、地面との摩擦係数や斜面の角度から、人数を算出しました。その結果は、つぎの通りです。
2.5tの石を斜面で運搬 :人員=16名、幅=1.2m x 長さ= 8m
2.5 tの石を平面で運搬 :人員= 8名、幅=1.2m x 長さ= 6m
60tの石を斜面で運搬:人員=320名、幅=4.8m x 長さ=29m
60tの石を平面で運搬:人員=160名、幅=4.8m x 長さ=19m


(3)傾斜路の寸法算出
石材を運搬できる道幅と、方向転換できるスイッチバックの長さから、分割数を決定してから、具体的な寸法を算出しました。
なお、ジグザク傾斜路は、大・中・小とありますが、再帰的(自己相似形)になっています。
・ジグザク傾斜路(大)
・ジグザク傾斜路(中) = ジグザク傾斜路(大 )/ 2
・ジグザク傾斜路(小) = ジグザク傾斜路(中) / 2 = ジグザク傾斜路(大) / 4



(4)北東の窪みについて
ピラミッドの北東方向で、高さ80m付近に窪みがあります。(参考資料6, 参考資料7)
この位置は、2層目が終了した場所で、比較的に広い部分です。この角をカットすると、多くのメリットがあります。
・隣の斜面からの石材の運搬がしやすくなります。
・現地事務所的な場所 (北東方向で、日差しの軽減)
・高貴な方が上られた場合の休憩所(北東方向で、日差しの軽減)

(5)八角錐について(4面の筋)
クフ王の大ピラミッドは八角錐で、斜面の中央に筋があるという話があります。(参考資料8) その理由を、この新説2004 にて検討しました。
高さは、100m以上のジグザグ傾斜路ですので、ズレ防止(傾き)のためと推測します。つまり、ピラミッドの各斜面に溝を作って、傾斜路と嚙合わせるとともに、斜面を、中央に向かう斜めにすることで、ズレ防止を強化したのではないでしょうか? これにより、筋の跡が残るとともに、八角錐にも見えます。
ズレ発生の主な要因は、「60tの石材とその人員」による曲げモーメントの影響が大きいと推測します。(ジグザグ傾斜路の端部付近に移動したときの曲げモーメントが最大になります)
カフラー王のピラミッドには、これらが無いことや、メンカウラー王のピラミッドには、あるとのことです。その説明も可能ですので、別途、おこないたいと思います。

(6)頂上付近について
上記の4面の中央部の筋は、傾斜路のズレ防止のためとしました。つまり、傾斜路がある場所に付けられますが、傾斜路が無い場所には、この筋は必要ありません。この視点から、下図を比較して、南面と北面に、傾斜路を付けることで、写真と類似した構造になると推測します。
・左側の「頂上付近の写真」をみると、北側の斜面には筋が見えますが、東側には筋が無いように見えます。
・右側の「3D画像」をみると、北側には傾斜路がありますが、東側には傾斜路はありません。

5.まとめ
今回は、クフ王の大ピラミッドがどのようにして建設されたかについて、「新説2024」を説明させていただきました。設計者と言われている Hemiunu は、かなりの数学的センスや深い洞察力を持っていたと感じました。
次回は、この「新説2024」が生まれた背景を紹介したいと思います。
参考資料
ウィキペディア(Wikipedia)「ギザの大ピラミッド」
吉村作治(著) 「ピラミッド・新たなる謎」(光文社文庫 1992)
三浦伸夫(著) 「古代エジプトの数学問題集を解いてみる」(NHK出版, 2012)
志村 史夫(著) 「古代世界の超技術〈改訂新版〉」(講談社、2023)
マークレーナー(著)、内田 杉彦 (訳)「 図説ピラミッド大百科」(東洋書林, 2000)
Mark Lehner(著),Zahi Hawass(著) 「Giza and the Pyramids」(Thames & Hudson Ltd、2017)
河江肖剰(著) 「ピラミッド・タウンを発掘する」(新潮社、2015)
河江肖剰(監修)「古代エジプトの教科書」(ナツメ社、2023)
河江肖剰(著, 編集), 佐藤 悦夫 (著, 編集) 「世界のピラミッドWonderland」(グラフィック社,2021)
近藤二郎(著) 「古代エジプト解剖図鑑」(エクスナレッジ、2020)
以上です。