現役バイヤーが考える、売れるもの売れないもの。
「洋服が売れない時代」
そんなことが業界ではずっと言われています。実際好調というところは少なくて、ずっと右肩上がりだったファストファッションでさえGAPは没落しフォーエバー21も縮小体制と良くない流れになっています。まぁこの2つはさもありなんという感じですけども。
洋服に限らずモノが売れないという話も色んなところで聞きますが、一方で売れてるモノや売ってる人がいるという現実もあるわけで。実際、僕もショップ→個人と10年ほどバイヤーもやってますが、売れなくなったなぁという感覚はありません。むしろコアな顧客は増えている。
そんな経験から、ファッション含め何が売れて何が売れないのか、どういう売り方をすればいいのか、ということについて書いてみようと思います。
「売りたいものは売れません」はウソ
よくコンサルの人が言うそうですね、この言葉。
まぁウソなんですけど。コンサルの人が早く結果を出してもらって自分の成果にしたいから言ってるだけですよね。これ誰かに刺される?
今の時代、売り手が”売りたい!”と強く思っているものじゃないと売れません。なぜってマスマーケティングや買い手都合から生まれた商品がすでに山ほどあるから。そういう分野は既に大手が力を入れていたり先行してやってる人がいるので、後発になるほど売れなくなります。
特に規模が小さいほど売り手作り手の熱意が大事になるので、売りたいという情熱が必要です。もちろんあまりにも見当はずれだったり独りよがりじゃ売れませんが、まずはニッチなところ、絶対欲しい!という人に刺さることが第一歩。そこを橋頭堡にして、どんな人たちに刺さるのか、どういう売り方が良いのかマーケティングしていけばいい。
以前、スペインのブランドを取り扱っていたことがありました。とてもアートなデザインのブランドで素敵だったけど平均1着30,000円〜とお値段が高かった。でも営業の男性がブランドをとても愛していて。本国でデザイナーに会うほどの情熱を持って売り込みを続けた結果、そのブランドを愛する仲間のような形で取引先が増えていったんです。
ところが、やがてワンマン社長との仲がおかしくなりその人は退社してしまった。すると仕入れがみるみる雑になり、取引先も一軒離れ二軒離れ、とうとうブランドの取り扱い自体が終了してしまいました。
これは会社としてひとりに任せてはダメだよという話でもあるけど、やはり売り手の情熱が必要という話の側面が大きいと思う。彼だから売れてたんです。
そもそも「売りたい」という情熱が無かったら商売にならない。僕も自分が絶対売りたい!と思ったものしか買い付けないし、なんとなく買い付けたものはやっぱり残る。売りたいものを売るのが正解です。
これは個人でアクセサリーなどを作る作家さんでも同じで、もちろん売れ筋はあるからそういう商品も必要だけど、その人のビジョンが濃く出てる方がコアなファンが付いて長く売れている。「パールとか作った方が売れるけど別にそういうの作りたくないからやめた」と言ってる人の方が売れてます。僕もそういうタイプの方が好きで愛用してますが。
売れないものの特徴
仕事として現物展(期中で残っているものを販売する展示会)に行き、もちろんプライベートでもセールに行くのですが、残っているものには2つの大きな特徴があります。
①デザインや色味が突飛すぎて売れない
②ありきたり過ぎて売れない
①は攻めた結果なので仕方ないと思う。簡単には売れないだろうけどブランドのビジョンやアイキャッチ商品として作る、ショップが仕入れるという場合もあるし、本当に欲しい人と出会えれば値段に関係なく売れる可能性があります。
②の方が問題は深刻です。売れると思ったのに売れてないんだから。そして誰でも買えるようなデザインだから量も多く作って・仕入れてしまう。自分のとこのお客さんを見ないで雑誌のトレンドなんかマーケして発注してしまうとこうなります。要は商品に熱意がないということですね。誰にも刺さらなかったということ。
個性のあるものは巡り合わせで売れるけど、個性のないものは本当に残る。だって世の中に溢れてるから。そうなると値段勝負になって、結局体力のあるところが勝つ。わざわざそこで勝負を挑む必要がどこにあるのでしょうか?
パリで感じた危機感
僕は毎年パリに買い付けに出向いています。
それは向こうにしかないもの、新鮮なもの、感動できるものを届けたいと思っているからですが、ここ数年で大きな危機感を抱いています。
以前は、パリに行きさえすればほとんどの商品が新鮮で感動できた。でも、ここ数年は既視感のあるものがもの凄く増えたんです。これららぽーとにあったよね?みたいな。そしてパリを回ってもどのショップも同じような商品が並んでいる。これじゃ日本の駅ビルと一緒じゃないか!その危機感は年々増しています。
”同質化”という波が、とうとうファッションの総本山にも押し寄せてきた。残念ながら以前より売れなくなっていることで冒険できなくなり、売れ筋に頼ろうという思考になっているのでしょう。だから本当に満足できるものを探そうと思ったら、以前の倍は時間が掛かります。
売れるものの特徴
では、そんなことを踏まえて売れるもの、買いたくなるものの特徴を挙げるなら
①ベーシックなデザインに個性が加味されている
②作り手や売り手の信念が色濃く反映されている
ということになるでしょうか。
①の”ベーシックな”というのは今非常に重要で、どんな場面でもどんなものとでも合わせやすいということは大きなセールスポイントになります。ただ単にベーシックなだけではユニクロやファストファッションがあるので、そこに”ひねり”という個性が加わっている必要がある。そこに買う意味と値段の意味が生まれる。
そして②。どういう意図で作ったのか・買い付けたのかという意図が見えないと埋もれてしまう。値段も取れない。それでなければいけない意味が見えないんです。そこに共鳴してファンが付き、商売の下地が出来る。
Appleが人気ブランドになったのは、ジョブズが「こんなものを作りたい!売れるはずだ!」という信念を貫いたからです。水槽にiPhoneを投げ入れて「この空気泡も出ないようにしろ」という上司の下で働きたいかどうかは別として。彼の死後その熱が薄れたことで勢いにも陰りが見えていますよね。逆にWindows路線で行くなら、徹底的に使いやすくて値段もリーズナブルでないといけない。やはりAppleはあのスタンスだったからこそ売れたんだと思います。
いわゆるタレントプロデュースのブランドショップでも、成功するのは本人の熱意や意欲が反映されているとこだけですよね。失敗例はあえて挙げませんが元AKBでもSさんとKさんで明暗が分かれてたり。メゾンドリーファーは梨花さんのこだわりに運営母体が付いていけなかったからだろうと言われていますし、僕もそう思います。
これからのお店の未来
今後の社会の流れなども考えると、もう大量生産大量消費は難しい。いわゆるトレンドの売れ筋は大手の寡占。となればマスではなく個人に向き合えるお店、店主の魅力がダイレクトに伝わるお店、言うなれば”街の商店スタイル”に回帰して行くのではないでしょうか。
アパレル業界でも、セレクトショップのオーナーが自ら現地に買い付けに行って販売するというのはバブル期のスタイルでした。その後は代理店も増えてネットでもオーダーできるようになったりとスマートに手軽に注文するスタイルに変わって行きましたが、その結果似たような商品ばかりになってしまった。
市場が停滞している今、またそういった「宝探し」のような買い付け方法に回帰しているし、”あなたにこれを!”という個別感がお客さんにも喜んでもらえると感じています。大手もセミオーダーや個別データの解析で”あなたへのオススメ”を導き出したりと個人対応を強化していますよね。
そしてお店を構えずともSNSで売ることができる。勝手に見付けてお客さんになってくれる時代でもあります。ほんとうに良いもの、面白いものを提供できれば世界中に売れる可能性もある。
個人的には、WEBでの販売をメインに時々ポップアップを展開する、というのがお店の未来としては理想形なのかなと。待っていても売れる時代ではないので、お店に張り付いている時間を売る仕掛けに使った方がいいと思います。でもリアルに知り合った方が絶対に売れる。ロイヤルティが高まる。それの場がポップアップというわけです。
売れないのではなく、欲しがってる人に出会ってないだけ。
もしくは、欲しがっている人が居ない場所で売ってるという可能性は大いにあります。人と場所が揃えば必ず売れる。その前提として「これを売りたい」という熱量が必要なんです。
強く売りたいものこそ売れる時代だと僕は思いますが、誰か熱量のあるセレクト任せてくれないでしょうか。という控えめな逆オファーでした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お仕事依頼はこちらからお気軽にどうぞ。
−ここだけの話が聞ける、ファッションとブランディングのお役立ちメルマガ配信中です−
「スタイリスト神崎の一日一装」
https://www.reservestock.jp/subscribe/82327
−個人向けのご提供中のサービス一覧はこちらから−
https://ameblo.jp/zozotokyo/entry-12347221817.html