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女の恋は上書き保存、男の恋は名前を付けて保存 50 最終回
首都高から横横道路に入ると少し交通量が少なくなる。前に優弥と来たときは、確か東名を経由して来たことを思い出した。
東京の太陽よりこのあたりの太陽の方が少し狂暴だ、十月も半ばなのに、今日のように日差しが強い日には、まだサングラスが必要だ。インターをおりて海岸の方へ向かう。
海岸までの下道が少し混んでいて、予定より少し時間がかかってしまった。近くの駐車場に車を止めると、海岸まで少し歩く、やっぱり眩しくてバッグからサングラスをとってかける。
平日、十月半ば過ぎの海岸は、近所の人が犬を連れて散歩するくらいで閑散としている。今日は海も風も穏やかだ。
砂に足を取られて歩きにくいので、理佐はパンプスを脱いで素足になる、あの夏の日、焼けるように熱かった砂も今日は心地いいぐらいだ。
理佐は、ゆっくりと、波打ち際まで進むと、子供のように、足が濡れるのを厭わず海水に足を浸す、初めは海水が少し冷たい感じがしたが、何回も波に洗われるうちに、気にならなくなった。
理佐は海に向かって、大きく深呼吸をする、体の隅々までに海風が入っていくようで心地よい。風と光を直接感じたくなって、サングラスを外した。
江の島が右手に大きく横たわっている、もう海の色はあの夏のように透き通るような青ではなくなっている、言葉では言い表せられないような、深い紺色の海が、日の光に瞬きしながら、理佐の前に広がっている。
遠くに小さな船影が流れていく、理佐はふと あの夏の日の事を思い出す、心地よい、海からの風と力強く降り注ぐ夏の太陽、そして愛おしい腕に抱かれ、ゆりかごに抱かれているような、永遠に続いてほしいと願うような瞬間、そしてあの時にはっきりと見えたあの「青色」・
理佐は静かに、ゆっくりと、再び目を閉じてみる。
けれども、そこにはあの「青」はなかった。理佐の瞳の裏にはその「青」は再び現れることはなかった。
あの晩夏の日、この海岸で、優弥の腕の中で、はっきりと、見えたあの「青色」。
ここにさえくれば、あの青に再び会えると思っていた、ここに来れば、あの女神の指さす荒野のその先がわかると思っていた。
もう二度とあの絵を見ることはできないのだろうか、もう二度とあの青色には巡り合えないのだろうか。
けれども、秋の海は理佐に何も答えてくれなかった。それでも波は静かに理佐の足元を洗っていく。少し強い風が理佐の髪を靡かせていった。
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今宵も、最後までお読みいただきありがとうございました。
これにてこの物語は、最後となります。
この物語に出てきた、絵をめぐる物語はまだまだ続きますので、
再度、第2部の物語も、順次掲載していきたいと思います。
長い物語にお付き合いいただきありがとうございました。