詩小説『引越物語』㉕からくり時計に煽られて
愛犬たけしと散歩しながら、凪ははりまや橋のからくり時計を見上げた。
今日も大勢の観光客が楽しそうに写真を撮っている。
わたしも此処へ引っ越してきた25年前は、観光客だったな…。
散歩しただけで、まだ五月というのに汗だく。高知の強い日差しに凪は慣れることがない。
たいして歩いていないが、帰宅して犬も人間も、サッとシャワーで生きかえる。
さてと…。続きを書こう。
この小説の共同執筆者、未希は初めこそ編集者よろしく誤字脱字やセリフのダメ出しをしていたが、ここ二ヶ月はわたしに丸投げしている。
経営するレストランチェーンの本店がトラブル続きで、とても小説を書く余裕がないからだ。
おかげで、というのも妙だが、凪は思うがままに『引越物語』と向き合うことが出来ている。
日により気持ちや体調のアップダウンが激しいがために一貫性のない物語ではあるが、それもまた個性だと信じて書き続ける日々だ。小説も悪くないと思い始めている。
商業小説なら、こうはいかない。
あの人達は、雲の上に住む月。
きっと本当の作家というのは、竹取物語のかぐや姫のように、無理難題を周りに言っても許される存在なのだろうな。生きているだけで奇跡なのだから。
でも籠の中の鳥でもあるから、編集者、締切り、そして読者に煽られて暮らしているのだろう。
一体どちらが幸せなのか。
趣味で書く小説の
なんとお気楽なことか!
凪のガラスペンが立ち止まる。
頭の中で、よさこい節と鳴子のチャッチャッが鳴り響いていた。
坊さん、かんざし、買うを見た
夜更来い、宵更来い
参考サイト
教育芸術社「郷土の音楽:高知県/よさこい節」
続きです
前回のお話です
一話から最新話まで読めるマガジンはこちらです。
いいなと思ったら応援しよう!
応援ありがとうございます。詩歌、物語を生み出す活動に使わせていただきます。